第29話 2度目の遭遇

「やだ~、こんな可愛い男の子いたら逆に危ないくらいよ~! コレにしましょ!」



 街の男の子というコンセプトで服を選び、試着したらビビアナから絶賛されたのでそのまま代金を払った。

 肩の下まである髪はまとめて帽子の中に入れるとパッと見は男の子に十分見える、ただし10歳くらいの。



 胸の膨らみを誤魔化す為にゆったりした服を選んだせいか余計に幼く見えているのは気のせいだろうか。

 店の前で待っていてくれた3人にさっそくお披露目すべく店を出た。



「お待たせ」



「凄い、違和感が無いね」



「ああ、似合ってるぞ」



「獣人にゃ匂いで女ってバレるけどな、見た目だけなら兄貴のお下がり着せられた弟って感じだな、ハハハ」



「さ、それじゃトレラーガの街を満喫しましょ!」



 ビビアナが私の手をキュッと繋いで歩き出し、その後ろを男性陣がついてきている。

 職人街で斥候職が使う投擲ナイフが売られていたので買ってもらった、見習いが初めて及第点を貰えた商品らしく激安だったのだ。



 ビビアナの矢も補充してバッグに入れるフリしてストレージへ。

 お昼時になったので良い匂いが漂う屋台エリアに向かい思い思いに食べたい物を選び、設置されているテーブル席で時にはひと口交換しながら食事を楽しんだ。



「おや、また会いましたね」



 声がすると同時に帽子に髪を入れてあるせいで頸に息がかかりゾワッと鳥肌が立った。

 振り向いたらすぐ後ろに顔があるのがわかる、触れてなくても体温を感じる距離にいるのが凄く怖い。



「ちょっと、近すぎるんじゃない? ウチの子に余計なちょっかい掛けないで」



「おや、これは失礼。また会えたのが嬉しくてつい」



 隣に座っていたビビアナが牽制すると背後で屈めた身体を起こす気配がした。

 食事に集中して探索魔法使うの忘れてた、皆この人が私の真後ろに来るまで気付いて無かったみたい、ホセですら。

 ソロリと振り返るとやはり今朝会ったロリコンのボスだった、何で私ってわかったのこの人!?



 少しタレ目なのが笑うと更にタレ目になる、ニコニコしている姿は子供好きのイケオジにしか見えない。

 やはり裏社会に居たから感情を隠すのが上手いんだろうか。



「何か用? 食事の邪魔されたくないんだけど」



 関わりたく無くて出来るだけ不機嫌そうにジロリと睨みながら言うと、何故か頬を紅潮させて跪いた。

 凄くキラキラした目で見られている、何この人! 引き攣りそうになるが頑張って不機嫌そうな顔をキープ。



「私はエドガルドと言う者で商会長をしている、是非エドと呼んでくれ。君と仲良くしたいんだが名前を教えてもらえるかい?」



 表の顔は商会長で裏では辺りを仕切ってるボスってわけね、教えたくないって言って通じるかな?



「教えないって言ったら?」



 ニッコリ笑ってそう言ってやると、一瞬目を見開いて数回瞬きし、ふと空を見てから再び私に視線を戻すと私と同じ様にニッコリ笑った、その目の奥が笑って無い笑顔を見た瞬間背中がゾワッとした。



「今宿に泊まっているんだろう? この街には月夜の雫亭っていう良い宿があるんだが…、火事になったら宿泊客は困るだろうねぇ、もし君が焼け出されたら私の家に泊めてあげるから安心するといい」



 コイツってストーカー!? お巡りさんコイツです!! コレ完全に脅しだし!

 思わずチッと舌打ちしてしまう、普段こんなガラの悪い事しないのに。



「アイルよ」



「良い名前だね、今は引き下がるからもう1度会えたら一緒に食事してくれるかい?」



「………断ったらまた火事の心配されるの?」



「はは、そうだね。…ッ!」



 中々ふざけた事を言ってくれてるので喉仏の斜め上、正確には頸動脈の上に掌で隠した棒手裏剣の切先をチクリと突き付けた。

 驚いた様に息を飲むエドガルド、それはそうだろう、何も持っていなかった手に暗器が出現しているのだから。

 先に手だけ近付けてストレージから出しただけなんだけどね。



「その時はココに風穴空くから家に泊めてもらう事はできないんじゃない? 驕れるものは久しからずってね、調子に乗るのも程々にした方がいいよ。まだ食事が終わってないから邪魔しないでね?」



 できるだけ余裕気に見える様にニヤリと笑って首から手を離して食事を再開した、私が背を向けても向かいに居る4人が対応できるだろうし。

 トサッと尻餅をついてから立ち上がった気配がする、あれ、どうして4人共引き攣った顔してるの?



「今は引き下がるが…必ず会いに来るよ」



「来なくて良いよ!」



 そう言って振り向いた時にはもう居なくなっていた、それなりに人が居るから人混みに紛れてしまったのだろう。



「アイル…、あいつぜってぇ来るぞ…」



「だね、なんか恍惚としてたよ?」



「ああ、完全に目をつけられたな、色んな意味で」



「何それ、怖いんだけど…」



「アイルの安全の為にウルスカに戻るっていうのはどう? 何かあってからじゃ遅いわよ?」



「いやぁ…、アレは追い掛けて来るだろ。だったら家を突き止められる前にここで諦めさせておいた方が得策だぜ?」



 宿代は1週間分先払いしてあるし、まだ殆ど観光もしてない、それにミゲルと食事の約束してるからなぁ。



「最悪奥の手魔法を使って諦めるって言うまでボコボコにすればいいでしょ、悪いヤツなら良心も痛まないから遠慮なくやれるし」



「そう…? 手伝って欲しかったら言うのよ?」



「そうだぞ、遠慮なく頼ってくれ」



 リカルドの言葉にエリアスとホセも頷いた。



「うん、ありがとう皆」



 そんな出会いをしたエドガルドと私があんな関係になるなんて、この時は思いもしなかった。

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