第28話 遭遇

 広場に来た私とビビアナは広々としたスペースにドンドン屋台の様なものが組み立てられて隙間が埋められていくのを見ていた。



「凄いね、大きな市はもうすぐって言ってたけど、私からしたらこれでも十分大きな市だよ」



「ふふ、大きい市は馬車の出入りを規制して広場だけじゃなく大通りまで店が並ぶからもっと凄いわよ?」



「それは…凄い数のお店になるねぇ、さすが交易都市って言うだけあるなぁ」



 野球グラウンドくらいの広場を中心に十字に走る大通りを見回しながら広場を歩いていると声を掛けられた。



「お嬢さん、お店が開くのはもう少し後だよ、良かったら私の店でお茶でも飲んでいかないか?」



 そこには銀髪に紫の目をしたアウトローっぽいイケオジ…あくまで今の私から見たらだけど、生前の私とは5歳くらいしか離れてないと思う。

 イメージ的にイタリアのジゴロにいそうな爛れた色気を醸し出しているので爽やかな朝市には似つかわしくない。



 ビビアナに声を掛けて来たと思ったけど視線が私を向いている、何者だろうかとジッと見ると鑑定が仕事をしてくれた。

 この人裏社会出身でこの辺を縄張りにしてるボスだ、しかもロリコン……って、ロリコンの癖に成人してる私に声を掛けるってどういう事!?



「ううん、お母さんから知らない人についてっちゃいけないって言われてるの。行こう、ビビアナ」



 咄嗟に子供のフリしてビビアナの手を引っ張って走って逃げる。

 角を曲がるまでねっとりした視線を背中に感じていた、しまった、どうせなら宿とは違う方向に向かって走れば良かったかも。



「折角だからお茶くらい飲んでも良かったのに…、やけに慌ててたけどあの人がどうかしたの?」



 宿のある通りまでもどって来たところで走るのをやめるとビビアナが私の態度に首を傾げた。



「たぶんだけど…、あの人この辺を縄張りにしているボスだと思うよ。そして大人じゃなく子供を恋愛対象にしてるみたい、さっきもビビアナじゃなく私に話し掛けて来たでしょ?」



「確かにあたしの事は目に入って無かったみたいね、あの人がそうだとしたらリカルドが言ってた事と辻褄は合うし…」



「リカルドが? いつ話したの?」



「昨夜アイルが寝てから1時間くらいしてかな、アイル以外は話を聞いたんだけど、最近勢力図が変わって裏の世界出身の奴がボスになって治安が悪化してるんだって。あとはア…10歳くらいの女の子が好きみたい」



 今アイルくらいって言おうとして10歳くらいって言い直したよね?

 だ、大丈夫よ、あと3年してからメイクのひとつもすればちゃんと大人に見えるんだから!



「そ、そう…。じゃあやっぱりさっきの人が本人ね」



「それにしてもよくわかったわね?」



「人を見る目はあるのよ、だから『希望エスペランサ』に入ったわけだし?」



 宿の前でビビアナを見上げて笑顔を向けた。

 鑑定を使える事は秘密にしておく、魔法とストレージだけでも大きい秘密を抱えさせてしまっているからこれ以上精神的負担を掛けるのは申し訳ないし。



「もぉ~! アイルったら何て可愛い事言うの! そんな可愛い子にはキスしちゃう! チュッチュッチュッ」



「あはは、ビビアナ、ここ外だよ!? 気持ちは伝わったから、そろそろ朝食の「何やってんだ?」



 私がビビアナに抱きしめられたまま顔中にキスされてると宿からホセが出てきて私達に呆れた目を向けて来た。



「ふふ、アイルが可愛い事言うからキスしてただけ~」



「あっそ、もう朝食出来るってよ。だから今探しに行こうとしてたとこだ、食堂へ行こうぜ」



「わかったわ」



 ビビアナとホセが話している間ビビアナの谷間に埋もれていた私は動く事が出来ず、ホセとパチリと目が合ってしまった。

 今朝の事覚えてるんだろうかとドキドキしていたが、何事も無かったかの様に顎をしゃくって中へ促した。



「ほら、アイルも行くぞ」



「うん! 散策してきたからお腹空いちゃった」



 よかったよかった、どうやら今朝は寝惚けてて覚えて無いみたいだ。

 ホッとしたので元気に返事をして食堂へ向かった。



 食堂でスープとパン、そしてソーセージに果実水という定番の朝食を食べつつ広場での出来事を話したら男3人は揃って頭を抱えてしまった。



「どうしたらそう見事にジョーカーを引くんだ」



「しかも滞在2日目にって…スゲェ確率だな」



「それかアイルがよっぽど好みだったのかもね…」



「でもほら、また会うとは限らないじゃない? いつもの冒険者スタイルじゃなかったから次に会っても気づかないかもよ?」



 3人の様子に慌ててフォローを入れてみた、最悪広場に近付かないというテもある。



「いや…、気付いてねぇのかアイル? 今までにお前以外に黒髪を見たか?」



「……無いね」



 カラフルな髪は結構見たけど黒髪は見てない気がする。



「だろうな、俺は黒髪は賢者サブローとその子孫くらいしか聞いた事が無い」



 あ、やっぱり1人目の賢者は日本人だったか、生活様式とか味噌と醤油があったからそうだとは思ってたけど。



「暗い髪色は普通に見かけるけど黒髪は見ないね、だから僕は最初賢者サブローの子孫かと思ってたよ。それにしては三賢者すら知らなかったからすぐに違うとわかったけどね」



「う~ん、じゃあ出かける時はフードか帽子被った方がいいかな。ついでに男の子に見える服も買えば問題解決じゃない!?」



 私冴えてるぅ! 妙案を思い付いて両手をパチンと合わせた。

 なのに4人共微妙な表情をしている。



「まぁ…、何もしないよりはいいんじゃないかしら?」



 そんな訳で朝食後は服屋に向かう事が決定した。

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