第27話 守護者達

 私は今混乱している、むしろコレは夢?

 目が覚めたらケモ耳の付いたイケメンに抱きしめられていて、しかも元気なナニが脚に当たってる、見なくても脚に当たる感触でわかっちゃった。



 何で獣化から人型になってるんだとか胸倉掴んで問いただしたいが全裸なので胸倉が掴めない。

 アレか、ナニが元気なのは朝の生理現象というのはわかるけど、原因はきっと昨日の夕食だと思う。



 きっとバイパーだったから赤マムシ的な効能があったんだろう、と。

 私はパジャマ着てるけど、ホセは全裸なので直に当たってるんです!

 起きて! いや、今起きられたらむしろマズイのか?

 ここは起こさない様にそっと腕から脱出すべき………うん、起きたね、バッチリ目が合ってる。



「おはよう、アイル」



 ホセはへにょりと微笑んでスリスリと私の頭に頬擦りしている、自分が全裸だとか下半身が元気になってるとか気付いてないのかな?

 もしかして寝惚けてるとか?



「お、おはよう…。何で獣化してないの?」



「あぁ…、そういやアイルが寝た後リカルドが帰って来た時に人型になってそのまま寝たんだったか…」



 そう言うとホセは獣化して伏せの体勢で再び目を瞑った、何度見てもCG見てる気分だ。

 パジャマ越しに体毛の感触がして無意識に入っていた身体の力が抜け、ついでにホセの頭を撫でる。



 身体や尻尾はフワフワしてるけど、頭はスベスベした手触りでまた良し。

 願わくばさっきの事は寝惚けて忘れてくれてるといいんだけど。



「ふ…っ、くくくっ、アイルは思ったより大人なんだねぇ? てっきり悲鳴上げちゃうかと思ったのに」



 まだ日の出の時間だし他の人は皆寝ていると思ったけどエリアスは起きていたらしい、助けようとかフォローする気は一切無かったみたいだけどね。



「エリアスが私の事を凄く子供だと思ってるって事はわかったわ、少なくともエリアスの予想よりは大人よ? 一応成人なわけだし」



「いやぁ、そんなに子供だとは思ってないよ? 娼婦に対しても寛容だったしね? 普通アイルくらいのお年頃の女の子だと娼婦は汚らわしいとか思うだろうから」



 涅槃ねはんスタイルで寝転んだままクスクスと笑う寝起きのエリアスは無駄に色っぽい。



「男の人の下半身事情はある程度理解してるつもりよ、恋人や伴侶を泣かせなきゃ好きにすればいいんじゃない?」



 言ってて加奈子と元彼達を思い出してしまった、ムカムカすると同時に頭の芯が冷たくなっていく。

 エリアスがヒュッと息を飲んだ気がしたが沸き上がってしまった怒りを抑えるのに私は忙しい。



「アイ「ふわぁ…、朝っぱらから何て話をしてんのよ」



 エリアスが何か言おうとした時にビビアナが欠伸をしながら起き上がった。

 寝起きの色気勝負はビビアナがチャンピオン! などと思ってしまった、それと同時に湧き上がった怒りもどこかへ消えていた。



「おはよう、ごめんね、起こしちゃった?」



「おはよ、昨夜は早めに寝たから早く目が覚めただけよ。宿の朝食の時間はまだよね、ちょっと散策でもしてこようかしら」



 まだ少し眠いのか、ビビアナはトロリと半分瞼が落ちている状態で窓の外に視線を向け、太陽の位置を確認しながら言った。



「あ、じゃあ私も行く!」



 今日は休養日にすると言っていたから街中で着る用のワンピースに着替えて顔だけビビアナと2人洗浄魔法を掛けた。

 洗浄魔法を掛ける時に口を開けておくと歯磨き要らずで便利。



「いってらっしゃ~い」



 エリアスは起きる気が無いのか涅槃スタイルのままヒラヒラと手を振った。

 リカルドとホセが起きても出掛けた事を伝えてもらうのにちょうど良いかな。

 階段を降りると受付していたお姉さんが掃除をしていた、早起きだなぁ。



「あっ、ごめんなさい、朝食はまだ1時間近く後なんです」



「大丈夫よ、早く目が覚めたから散策してくるだけだから」



「そうですか、酒場の多い通りは朝帰りの酔っ払いが居るから気を付けて下さいね。いってらっしゃい」



「「行ってきます」」



 わかってはいたけど、宿のお姉さん完全にビビアナが保護者だと思ってる。

 説明するのとか注意とかビビアナに向かって話してたもんね、もう少し胸が育てばもう少し大人に見てもらえるかなぁ…、なんだかちょっぴり朝日が目にしみるや。



 しかし結構道が入り組んでいるからちゃんと道を覚えておかないと迷子になりそう、私は探索魔法という奥の手があるけど。

 チラホラと荷馬車が一方向に向かって行く、朝市でもあるのかな。



「ビビアナ、あの荷馬車達は市場にでも向かってるの?」



「そうよ、中央広場で毎朝市が開かれるの。まだ早いけどちょっと覗いてみる?」



「うん!」



 大きな街の朝市に期待をしつつ、ビビアナと腕を組んで広場へと向かった。








[宿 side]


「アイルって昔男に泣かされた事でもあるのかな…」



 エリアスはさっきの急に目が虚ろになったアイルの様子を思い出し、パタリとベッドにうつ伏せに倒れた。



「だろうなぁ、隣に居てゾワッとしたぞ。お陰で目が覚めた、多分アレが魔力なんだろうけど凄い圧を感じたぜ?」



 アイル達が出て行ったと同時に人型に戻ったホセが首の後ろを撫でながら身体を起こした。



「何事かと思ったらそういう事か、何となく空気が重いというか息苦しくなった気がして目が覚めたんだがアイルが原因だったんだな。あの歳で男とトラブルがあったんなら男嫌いになっていても不思議じゃないが、ホセと同じベッドを使えるんだからそういう訳ではなさそうだ」



 リカルドも起きてチラリと未だ全裸のままのホセを見た。



「過去をあまり話したがらないし、何か複雑な理由があるのかもね。とりあえず僕達がアイルが傷つかない様に近付く男が居たら吟味してあげれば大丈夫じゃない?」



「とりあえず今のところ筆頭はミゲルだな、あいつは無害な気はするけどよ」



「どんなに無害に見えても商人だからな、清濁併せ呑む強かさは持っているだろう。アイルがミゲルの事を男として見ていないから大丈夫だとは思うが……一応目を光らせておこうか」



「そうだね。………ところでホセ、アイルが起きた時に裸で抱きついていたのはどういうつもりだったの?」



「あ? やっぱアレ夢じゃなかったか、そういや夜話した後そのまま寝ちまったからな。アイルの体温ってちょうど良くてくっつくと気持ち良くてよぉ。まぁ、アイルならそんなに気にしねぇだろ」



「そんな適当な事言って…、ビビアナに叱られても知らないからね」



「ははは…、気をつける…」



 こうして『希望エスペランサ』の皆の妹というポジションのアイルには本人の知らない間に守護者ガーディアンが誕生していた。

 ちなみにビビアナに関しては大抵男の方が被害者なので誰も心配していなかったりする。

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