第26話 アイルが寝た後に
【今回は三人称です。】
「よぅ、お帰り。どうだった?」
「ただいま。バッチリ情報を仕入れて来たさ、最近この辺りの勢力が変動したらしい。裏世界出身の奴がボスの座におさまってるとかで治安も悪くなってるから気をつけろだとさ」
「そうか、で? どうだった?」
「…………話をしただけだ、お前達がアイルの反応含めてニヤニヤするのがわかりきっていたからな」
「な~んだ、残念。服の中身確かめて欲しかったのによ」
アイルがホセをモフりつつ眠った1時間後、リカルドが酒場から帰って来て寝支度をはじめる。
好奇心いっぱいの目で尋ねるホセに敢えて仕入れた情報を答えたリカルドだったが、ホセは誤魔化されずに追求し不発に終わった。
「ロビン…あの娼婦に何かあるのか? 恥をかかせない様に身体を拭く湯を貰ったり話をして適当に時間潰してから酒場に戻ったらやけに勇者だの漢だのと声を掛けられたんだが…」
「あんた達、もう少し声を落としなさい。アイルが起きるじゃない、特にホセ、今目を覚ましたら悲鳴上げられるわよ?」
ビビアナが声を潜めて2人を注意した。
獣化している時は話せないのでリカルドの気配に気付いた時点で人型に戻っている、つまりは現在全裸でアイルと同じベッドに居るのだ。
シーツで下半身は隠れているものの、座っている状態では尻尾の付け根…つまりお尻のところまで見えているので高確率で悲鳴を上げる事だろう。
もしかしたら珍しさに負けて尻尾の付け根をマジマジと観察するかもしれないが。
「その場合は悲鳴上げられる前に口を押さえれば大丈夫だろ」
「そういう問題じゃないと思うけど…」
もそりとエリアスが起き上がって言った、衝撃の事実にふて寝していたが眠ってはいなかった様だ。
リカルドはスヤスヤと寝息をたてるアイルに視線を落としてため息を吐いた。
「それでな…、その今のボスがアイルくらいの年頃…正確には見た目がアイルくらいの年齢の子が好きらしくて気をつける様に言われたんだ。まぁ、トレラーガは広いし人も多いからアイルが目をつけられるなんて事は無いと思うが」
「わっかんね~ぞ? ミゲルのヤツも最初は子供相手にしてる感じだったけど、結局食事にまで誘ってたじゃねぇか。アイルは友達が居ないからだと思ってたみたいだけど、ありゃあ下心付きで誘ってたぞ?」
「ああ…、移動中あれだけ甲斐甲斐しく世話されたら仕方ないだろうな。嫁にした場合の幸せな妄想でも膨らませたんじゃないのか?」
「だよねぇ、ずっと1人で御者やってたところにあんなお世話されちゃあね…」
「え? 何それ、そんな妄想しちゃう程お世話してたの? 家での生活で世話好きなのはわかってたけど、アイルったらミゲルにまで世話やいてたのね」
後ろに居たビビアナは知らなかったが、同じ馬車に乗っていたホセと、1度ホセと役目を交代したエリアス、馬で1台目の馬車と並走していたリカルドは何度も目撃していた。
御者台で隣に座って空気が乾燥していたら水の入ったコップを(自分のついでに)差し出し、陽射しが強くなってきたら(自分のついでに)頭に布を被せ、雨の日に休憩に入って雨除けを脱ぐと(自分のついでに)タオルと熱いスープを差し出す。
アイルからすれば車の助手席に座っている時、母親が父親に対してやっている様な事をしていたつもりで他意は無い。
そしてお世話好きというより手の掛かる歳の離れた弟が居たせいでお世話する事が身体に染み付いているのだ。
むしろ自分だけ水を飲んだり布を被ったりするのは気が引けるからやっていただけだったりする。
世界的に見ても平和で礼儀正しく優しいと言われる日本人、しかも姉属性の女性が自分の事は自分で何とかするのが当たり前な異世界において特殊だと言わざるを得ない。
日本では「世話好きな方」でおさまる程度だが、こちらでは「至れり尽くせり」レベルと言える。
一緒に暮らしているパーティメンバーに遠慮していたら疲れるので色々頼み事や言いたい事を言う様にしていても世話好きと言われるのだから基準が違う。
アイルは周りから10歳前後と思われているのを屈辱ながらも自覚しているので15歳のミゲルが自分に恋愛感情を持つなんて思ってもみなかった。
どうしても自分の中の常識として高校に入学する年齢で小学生にそんな感情を抱くはずは無いという先入観があるせいだ。
「まぁ、アイルにその気は全然無さそうだから大丈夫だとは思うけど、もしもミゲルと付き合うとか言い出してトレラーガに住むってなったらどうするの?」
「「「…………」」」
エリアスの素朴な疑問に3人は無言になった。
「移住…」
「え?」
「だよな! 冒険者やめないならオレ達もトレラーガに移住すりゃ問題ねぇだろ!」
リカルドがポツリと呟き、その言葉を拾ったホセが名案だと言わんばかりに同意した。
「うぅ…ん…、しっぽ…?、ぅへへ…すぅすぅ」
ホセの声が大きくなったせいで一瞬アイルは寝惚けて目を開けたが、幸い室内は薄暗いままな上に視界いっぱいにホセの尻尾があったお陰でもしゃもしゃと尻尾を撫で回してそのまま眠った。
全裸のホセを見て悲鳴を上げるかと身構えた4人は脱力すると共に息を吐く。
「は~~~……、とりあえずまだどうなるかわからないんだから様子を見ましょ、あたし達と居たいって言ってくれるかもしれないわけだし」
「そうだな、明日になればアイルは観光したいと言うだろうからもう寝ようか」
「僕ももう寝るよ、おやすみ」
「「「おやすみ」」」
そして4人はそのまま眠りについた。
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