第380話 盗み聞き
『しかし実際転移が
『そんな事したらエドガルドが拠点をウルスカに変えたりして、あはは』
『エンリケ…シャレにならない事を言うのはよせ、エドガルドの場合本当にやりかねん』
『う~ん、転移がバレたら国家間とか教会からの依頼で家でゆっくり過ごせなくなると思うんだよね。ウルスカに拠点を変えたとしてもアイルに会えなくなるだろうから、その事を言えば黙ってると思うんだよねぇ』
『確かに…どちらにしても公になった時点でエドと会う事は無くなりそうだね、エドが怪しい事言い出したらエリアスにそうやって説得して貰えば良いよね?』
『仕方ないなぁ、アイルの転移依頼ばかり来ても大変だし、貸しひとつって事で任されてあげるよ』
『
夕食の後に2人きりで食後酒を飲もうと誘いに来たのだが、(エドガルドにとっては)恐ろしい会話を聞いてしまい、ドアノブに手を伸ばしかけた状態で固まっている。
(間違ってもアイルが転移出来る事を周りに知られてはならない…! ただでさえ少ない私とアイルの時間を奪われてなるものか! しかもエリアスに貸しを作らせる様な事になったらアイルに何を要求するかわかったものではないからな…)
キッと顔を上げてそっとその場を離れたエドガルドは階段の途中でアルトゥロに見つかり、大きな声を出そうとしたアルトゥロの口を塞いだ。
「シッ、大きな声を出すんじゃない、手を離すが大声を出すなよ。 はぁ、…今後も何があるかわからないからな、出来るだけ仕事を進めておくぞ」
アルトゥロは久々に見る真剣なエドガルドの顔と距離の近さに忘れたはずの気持ちが蘇りそうになったが、『仕事』の言葉で執務室に放置されていた書類の山を思い出して薄く笑みを浮かべたままガシリとエドガルドの腕を掴んだ。
「でしたら僕の居ない隙に抜け出したりせず書類を確認してサインをし続けて下さい。エドガルド様が居ないこの2週間に普段は起きない事が立て続けに起きてまた通信魔導具を持たずに商会長不在で判断を誤っていたらどうしようかと神経削りながら対処した僕を少しでも可哀想と思うのなら」
「わかった! わかったからそう一気に捲し立てるんじゃない、まだ若いお前に負担を掛けてすまないとは思っているんだ。私の判断でお前を信頼して任せているんだから、もし間違った判断をしてもそれは私の責任だ」
本心と、宥めて機嫌を取る気持ちを少し込め、まだまだエドガルドより小さな身体を掴まれていない方の腕で抱き締めた。
「エドガルド様…」
エドガルドの腕を掴んでいた手が離れ、そっと背中に手が回って抱き締め返す。
ご機嫌取りに成功して内心ホッとしたエドガルドは、大人しく執務室へと戻った。
そしてエドガルドがドアの前から立ち去ったアイルの部屋ではホセが鼻をフンと鳴らした。
「行ったか…」
「これで間違っても他に情報を流したり取り引きに使おうなんて思わないだろうな」
「とりあえずアイルに惚れている間は問題無いだろうね」
「それじゃあずっと安心だね、あはは。僕としてはアイルに貸しを作れなくてちょっと残念だけど」
リカルドとエンリケが頷き、エリアスが笑う、そしてアイルは首を傾げた。
「何の話?」
「ドアの前にエドガルドが居たんだよ、お前相変わらず気配察知が下手だな」
ホセが呆れた目をアイルに向ける。
「だって探索魔法使ったら必要無いんだもん…」
「バカ、その探索魔法を使って無い今みたいな時に気付けねぇだろうが。ネックレス着けてる時は良いかもしれねぇけど、風呂入ってる時は外すだろ? そんな時程狙われや「まぁまぁホセ。アイルは冒険者になってまだ1年ちょっとなんだから無茶言わないの、魔物や貴族も居なけりゃ戦争も無い平和な国だったんでしょ?」
「あ、うん、私の居た時代はね。サブローの居た頃はまだ戦争してたけど、祖母が産まれた時には国がもう戦争はしないって決めた後だよ。貴族も居たのは歴史として習うくらい昔ではあるね」
「ほらぁ、そんなところから来たんだから常に気配を探るなんてまだ無理だよ。獣人だったら簡単かもしれないけど、人族からしたら結構難しい事だからね?」
「わかったよ! オレが悪かったって」
エリアスの口撃にホセが屈した、正論だから当然の事だろう。
「はぁ~、それにしてもアイルの居た世界は平和なんだねぇ、貴族でもないのに歴史習ったりするし、凄いよね」
エンリケが感心しながら息を吐いた。
「私の国は平和だけど、世界ってなると別かな。確か国が200も無いくらいだけど、何十年も戦争していない国は1桁だったはずだもん。国の数も増えたり減ったり国の名前が変わったりするし。それに戦争してなくても災害は起こるんだよねぇ、地震大国って言われてたし、年に何度も嵐みたいに強い雨と風に襲われたり、温暖化で海面上昇して陸の面積が小さくなるとも言われてたよ」
「温暖化って暖かくなる事か? それが何で海面上昇になるんだ?」
「えっとね、寒くて海が凍ってる所が溶け出すから海の水が増えるの」
これも嘘では無いが、アイルは二酸化炭素が水に含まれると体積が増える、という事をホセに分かりやすく説明する事を放棄した。
目に見えない物を説明するのが大変な事はガブリエルに電子レンジの説明をした時に痛感したのだ。
しかも魔導具を作れるくらい知識豊富なガブリエルでさえそうなのだから、脳筋なホセに説明するのはもっと大変なのは明らかである。
「へぇ、海が凍る程寒いところもあるのか…」
「あるよ~、こっちの世界にもあるんじゃないかな?」
「そうだね、タリファスと他の国を隔てる山脈の向こうにずっと雪に覆われてる国があるよ」
「エンリケはその国にも行ったの!? 特産品とかある!?」
行った事の無い国の話にアイルが喰い付き、エンリケは暫く古い記憶を掘り返す事となった。
夕食の時間になって呼ばれたので皆で食堂へ向かい、途中でアイルはエリアスの裾を引っ張る。
「エリアス、さっきは庇ってくれてありがと」
「ふふ、どういたしまして。何ならホセから助けたのを貸しにしてくれてもいいんだよ?」
悪戯っぽく笑うエリアスに、アイルは無言でジトリとした目を向けた。
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