第529話 森の中で
森の深部と中間区域との境目にある崖の下で、私達三人がテントを張っていたら最初にホセが周りを警戒し出した。
「ホセ、どうしたの? 魔物でもいる?」
「いや、人が二人だな。けど妙に一人の足音が小せぇ」
「ウルスカにいるドワーフはブラス親方くらいだよね、親方がこんなところまで来るはずないし……」
「ドワーフは身長が低くても、筋肉で体重が重いから足音が小せぇなんて事はねぇよ」
そんな会話をしている間に、私にも足音が聞こえる距離になった。
「お? 賢者の嬢ちゃん達じゃないか。『
「あっ、本当だ! なんでこんな所に!」
それはこっちのセリフである。
私達が警戒した気配の
そっか、父親がAランクだから娘も一緒に森に来ていいのか。
「俺達は
エンリケが心配そうに娘の方を見た。
「いやぁ、依頼を受けながらこの森をひと通り見て回ろうと思ってはいたんだが、
アーロンが紹介しようとしたら、本人がズイッと前に出て名乗った。
二人は名乗った後こちらの自己紹介を待つように見ているので、エンリケを肘で突いて促した。
「えっ、あ。俺は今だけ『
「ああ、それにしても最後に入ったっていうエンリケがリーダー代理なのか。……確かに一番落ち着いて見えるし納得できるな。あんたらは今夜ここで野営するんだろ? 俺達も一緒に過ごさせてもらうぜ」
そう言うとアーロンは私達のテントから少し離れた場所にテントを張り始めた。
私達もテントを二張り準備して、安全のために障壁魔法を展開する。
「アーロン、ここからあの辺りまで障壁魔法で囲っているから夜の見張りは必要ないよ。その代わり出る時は私にひと声かけないと出られないから気を付けてね」
「おお~、
「どういたしまして」
考えてみたら娘に夜間の見張りをさせる訳にはいかないから、二日間寝てないんじゃないんだろうか。
しっかりしてるけど、きっと疲れている事だろう。
ストレージからシートとローテーブルを出して夕食を並べていると、ふと視線を感じて振り返る。
視線の先にはパッと目を逸らすマルシアの姿が。
食べ盛りの十歳が携帯食は可哀想だよね、目の前にホカホカご飯が並んでいたらなおさら。
「ねぇ、アーロン達も誘っていい? 人数もいつもの半分だからテーブルのスペースも余ってるしさ」
「アイルならそう言うと思ったよ。アーロン一人ならともかく、子供が一緒だもんね」
「だな。夜も一緒に寝てやりゃいいじゃねぇ? あの年頃だと父親と一緒にいるの嫌がるんだろ?」
私の提案にエンリケもホセも快諾してくれた。
それにしても、私が考えるより先に行動を読まれてるのはどうなんだ。
ともかく、二人を食事に誘う事にした。きっとマルシアに声をかけたら意地を張って断りそうだからアーロンに声をかける。
「アーロン、疲れてるだろうからこっちで食事しない? 温かい料理をご馳走するよ」
「おお! 本当か!?
「もうっ、パパッ!!」
携帯食を出そうとしていたのか、
そんなアーロンの肩を恥ずかしそうにペシッと叩くマルシア。
やはり先にマルシアに声をかけなくて正解だったようだ。
「マルシアもおいで、トマトスープとコンソメスープだとどっちが好き? セゴニアはコルドバの隣だからパンよりお米の方がいいかな?」
「えっ、えっと……トマトスープが好き……。パンもお米も食べるけど、スープがあるならパンがいい」
きっと恥ずかしいだけで食べたいのは間違いないだろう、という事で断れないように食べる物を選ばせた。
思惑通り、戸惑いながらも答えてくれたので二人分をササッとテーブルに並べると、マルシアはおずおずと席に着いた。
初めてギルドで会った時の偉そうな態度はどこにもない、どうやらあの時は虚勢を張っていただけのようだ。
食事を始めると料理を父娘で絶賛しながら食べ、食事が終わる頃にはマルシアはすっかり私になついて一緒に寝る事になった。
これなら今夜はアーロンもゆっくり眠れるだろう。洗浄魔法をかけた後、快適な私のテントに入るとすぐに寝息を立て始めたマルシア。
寝言で小さく呟かれた「ママ」の言葉に、そっと抱き締めて私も眠りについた。
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