第528話 効率的調査

「『希望エスペランサ』への指名依頼ですね、ギルマスから聞いてます。森の調査及び大蜘蛛ビッグスパイダーの素材採取となってますので、よろしくお願いします」



「あれ? 調査だけの話じゃなかったかな? 採取依頼も一緒になってるのは手違い?」



 ディエゴが家に来た翌日、ギルドのカウンターで依頼を受けに来たらこうである。

 リカルドだったらため息吐きながらも受け入れていたかもしれないけど、今回はリーダー代理のエンリケなのでしっかりツッコんでくれた。



 これでそのまま受け入れたら、素材を手に入れるまで帰って来れなくなっちゃう。

 普段通りに大蜘蛛ビッグスパイダーがいるのならいいけど、どこまで奥に行く事になるかわからないのなら確約しないに越した事はない。

 もしも森から大蜘蛛ビッグスパイダーの姿が完全に消えていたら大変だもんね。



「あら? ギルマスからは両方と聞いていますけど。依頼札クエストカードもそうなってますし」



 依頼札クエストカードを確認して首を傾げる受付嬢。

 エンリケが困ったように壁際で待機している私とホセを振り返ったので、トコトコとカウンターへ向かう。



「それなら依頼札クエストカード書き直してもらわないとね。私達が承諾したのは森の調査で、可能であれば大蜘蛛ビッグスパイダーの素材を手に入れて欲しいってだけだから。そこに『可能であれば』って書き足してくれたら受けるよ、ね、エンリケ」



「確かに……、見つけたら討伐するのは難しくないけど、見つかるかどうかが問題だからね」



「で、ではそのように書き換えますね」



 受付嬢はチラリと階段をの方を見て依頼札クエストカードを書き換える。

 私はそれに気が付かないフリをしてギルドから出る瞬間にサッと階段の方を見ると、予想通りディエゴが苦笑いを浮かべながら見送っていた。



「まったくもぅ、ディエゴってば小賢しい真似するんだから!」



「あはは、あのまま素直に依頼クエスト受けてたら、俺がアイルに怒られるだろうなと思って。やめておいて正解だったみたいだね」



「そうだねぇ、受けて大蜘蛛ビッグスパイダーがすぐ見つかったらいいけど、見つからなかった場合は怒ってたと思う」



「とりあえず行ってみねぇと何とも言えねぇからな。これまで大蜘蛛ビッグスパイダーが完全にいなくなった事は無かったはずだから、縄張り争いかなんかでちょっと奥に引っ込んでるだけじゃねぇ?」



 ホセの言う通りならすぐに解決しそうだけど、大氾濫スタンピードが文献に載ってたというのが気になる。

 ウルスカの門で冒険者証ギルドカードを提示して森へと向かいながら、二人にちょっとした提案をする事にした。



「ねぇねぇ、森まで競争しない? そうしたら早く到着するし、効率的じゃない?」



「お前……少しでも早く帰って来てぇのがバレバレだぞ。まぁいいけどよ」



「俺も別に構わないよ」



 ホセの呆れた視線より、少しでも早く帰る事が大切なのだ。

 エンリケも了承してくれたので手首と足首をほぐして準備する。



「それじゃあ決まりね、『身体強化パワーブースト』よーい、ドン!」



 そうして走る事約十分、歩けば一時間程かかるからかなりの時短になった。



「はぁはぁ、おま、……おまえなぁ……っ、はぁ、一人だけ……はぁはぁ、身体強化、はぁ、使いやがって……はぁはぁ」



 ちなみに身体強化している私もしっかり息が乱れているが、何気にエンリケだけ涼しい顔をしていたりする。

 順位もエンリケが一番で、もうすぐゴールというところでホセに抜かされたので私がビリだ。

 罰ゲームとか何も決めてなくてよかった。



「はぁはぁ、身体強化使っても二人に勝てないんだもん、やっぱりもっと基礎体力付けないとダメだね。あ、お水飲む?」



「「飲む」」



 三人で仲良く水を飲みながら森へと入ると、浅部は普段と変わらない森だ。

 事前に相談した通り、普段大蜘蛛ビッグスパイダーの討伐採取依頼を受けた時に向かう場所まで時々話をしながら向かう。



 二時間近く歩き続けて懐かしい場所にやってきた、ホセと初めて出会った時に歩いた場所だ。

 という事ですで大蜘蛛ビッグスパイダーの生息区域に入っているが、話に聞いた通り全く姿も気配も無い。



「ここからは闇雲やみくもに歩き回るより探査魔法使った方がよさそうだね。『探索サーチ』……うん、少なくとも徒歩二時間圏内にはいない事はわかったよ、これは深部まで行かなきゃダメみたいだねぇ」



 周辺に人がいなかったのでエンリケが探索魔法で調べてくれたが、その結果に私は肩を落とした。

 どうやら今夜は森で過ごす事が決定したらしい。さすがに森の中だと転移魔法で戻ってくる時に目印になる物がないと難しいが、そういう目印のある場所は他の冒険者がいる可能性が高いので転移はやめておいた方がいいというのが仲間達の見解だ。



 時々探索魔法を使い、休憩を挟みつつ移動する事数時間。

 文句を言われるのでホセにも身体強化を使いながら、本来二日かかる距離を一日で移動してきた。



「そろそろ陽が傾くから、今夜はここで過ごそうか」



 見覚えのある中間区域と深部の境目でエンリケが立ち止まった。



「ここってあのエルフの女と会った場所じゃなかったか?」



「レミエルの事? そういえばここだったね……って、まさかまたエルフの誰かが大きな魔法使って一時的に大蜘蛛ビッグスパイダーがいなくなってた……なんて事ないよね?」



「「…………」」



 私の思い付きに無言になるホセとエンリケ。

 さすがにそれは違うと思いたい。

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