第282話 見ちゃった!?

 船は無人島をいくつか通り過ぎ、港町を出発してから9日目に人が住む島に寄港した。

 ここは物資の積み下ろしが済んだら出港するので私達はそのまま待機らしい。



 船の上から船着き場やその周辺を行き来している人達を眺めていたら、隅の方でおしゃべりしている2人のお婆ちゃんに目を引かれた。

 仲良しなのかニコニコと楽しそうに話している、それなのに横を通る人達は顔をしかめている様に見えた。



 首を傾げていたら食堂に卵やヤギ乳といった食材を運び込んでいた島民らしき男達が通りすがりにとんでもない事を言った。



「ま~たあの婆さん1人で笑ってやがる、普段はまともなのに去年から時々ああやってるから不気味だよな」



「歳が歳だし、ボケちまってもおかしくねぇだろ。徘徊はいかいしないだけ良いさ」



「そういや去年つれあい亡くした爺さんが…」



 男達は会話をしながら通り過ぎて行った、そして再びお婆さんに視線を向ける。



「居る…よねぇ?」



「何が居るんだ?」



 私の呟きを拾ってホセが声を掛けて来た。



「ねぇホセ、あそこのお婆ちゃんた「あの婆さん1人で何やってんだ?」



 私が指差した方を見ながらホセが不思議そうに言った。



「ひ、1人…?」



「あ? あの1人で笑ってる婆さんだろ?」



生成きなりシャツに茶色のスカートの? それとも上下生成りのワンピースの!?」



「ハァ? 何言ってんだ、どう見ても茶色のスカートだろうが」



 手すりに乗せていた手がカタカタと震える。

 私見ちゃった!? 今まで見た事無かったのに…幽霊見ちゃったの!?



「おい、何で震えてんだ? こんなに暑いのに寒い訳じゃねぇよな?」



「どうしたの?」



 心配そうに私の顔を覗き込むホセと私にエンリケが声を掛けて来た。



「アイルが変なんだよ、あそこの婆さんの事を生成りのシャツに茶色のスカートなのか、生成りのワンピースなのかってわかりきった事聞いたと思ったらよ、いきなり震え出したんだ」



「ん~? ああ、なるほど」



 エンリケはホセが指差した方を見て、納得した様に頷いた。



「何がなるほどなんだ?」



「アイルは死んだ人が見えてるんだよ」



「「えっ!?」」



 どうやらエンリケにも見えているらしく、私は驚きの声を上げた。

 恐らくホセは「何言ってんだ?」の「えっ!?」だろうけど。



「アイル、鑑定も出来るでしょ? あのお婆さん達を鑑定してごらんよ」



 言われて素直に鑑定すると、あの2人は同い年で、ワンピースのお婆ちゃんは去年亡くなっている。

 あの生成りのワンピースはこの辺りでは葬送する時に御遺体に着せる服らしい。



 何でわざわざこんな船着き場まで来て話してるんだろう、家の中で話せば変な目で見られたりしないのに。

 そう思ってもう1度お婆ちゃん達の方へ目を向けたら、ワンピースのお婆ちゃんが居なくなっていた。



『何を見ているの?』



「さっきの亡くなってる方のお婆ちゃんが居なくなって……………」



 ちょっと待って、今確実に女性の声だったけど、ビビアナの声じゃ無かった。

 振り向いちゃダメだ、心臓がバクバクとうるさいくらいに激しく脈打つ。



『あらあら、このお嬢さんは怖がりなのかしら? こっちのお兄さんも見えているのね、友人以外見える人が居なくて友人が変人扱いされて困ってたのよ』



「それで俺達に何をさせるつもり?」



『うふふ、話が早いわね。私の旦那に伝言を頼みたいの、友人に頼んだら信じて貰えなくて友人が変人扱いされちゃって申し訳無くて…。私の事を何も知らない人から私の事を詳しく話されたら信じるしかないでしょ? 友人だと生きてる時に話を聞いたんだろうって言われちゃうのよ』



「だってさ、アイル」



「何の話してんだ? その婆さんが居るのか?」



 ホセがキョロキョロ見回すが、ちょっと被ってるよ!

 あっ、見たら目が合っちゃった…。



「エンリケが行っても問題ないよね!?」



 そっとお婆ちゃんが見えない様にホセの背中に隠れた。



「たぶん今から村へ行くと船が出ちゃうと思うんだ、アイルなら飛んで合流出来るでしょ?」



「そんなのエン「俺は賢者じゃないから飛べないし? もし飛んでたらもう1人賢者が居たとかって大騒ぎになるよ、ははは」



 あ、そうか、このお婆ちゃんに聞かれたら下に居たお婆ちゃん経由でバレちゃう可能性があるのか。

 でも幽霊と一緒に行動するのとか怖いしな…。



『ねぇ、お願いよ。お願い聞いてくれなきゃずぅっとお嬢さんについて行っちゃうわよ?』



「ひぃっ」



 ホセを通り抜けて、一見ホセの背中に顔が張り付いている状態で笑顔で言われてしまった。

 


『お願い、去年からずっと見える人を探していたんだけど、今まであなた達しか居なかったのよ。既に2回お迎えを拒否しちゃったからあと1回拒否するとずっと地上を彷徨う事になっちゃうらしいの、でも…そうしたらお嬢さんについていっちゃおうかしら?』



 チラッと私を見るお婆ちゃん、この人エリアスと同じ匂いがするよ!?

 


「諦めるしか無いね、皆には俺から説明しておいてあげるからさ」



 エンリケは苦笑いしながら私の肩に手を置いた。

 よし、このお婆ちゃんは幽霊じゃない、そう、精霊なんだ、だから怖くない怖くない。

 自己暗示をかけながら深呼吸をして腹をくくる。



「わかった、急いでその旦那さんのところへ行こう」



 船員に降りるけど出港しても自分で追いつく旨を話し、下で待っていたお婆ちゃんと合流した。

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