第570話 五国大陸へ出発
「おいっ、今貸し馬屋でエドガルドが来てる……って、なんでお前がここにいるんだよ!!」
馬達を連れてきたホセがエドを見て怒鳴った。
どうやらエドは今回も貸し馬屋で馬を借りてウルスカまで来ていたらしい。
「私はトレラーガでアイルを待っていたというのに、ギルドからアイルがすでにウルスカに戻って来ているという報告が入ったんだ。会いに来るのが当然というものだろう」
まるでそれが本当に当たり前かのように言い放つエド。
確かに約束を破ったのはこっちなんだけどさぁ。
「オレ達はこれから五国大陸へ向かうんだぞ? 商会はどうするんだよ、アルトゥロがまた迎えに来るんじゃねぇのか?」
「ふふふ、心配は無用だ。あと一年と少しでアルトゥロも成人だからね、先日養子縁組で正式に後継者として商業ギルドにも書類を提出したのさ。だから今後はアルトゥロの好きなように商会を動かしてかまわないと許可を出してきたんだよ」
ホセの呆れた視線に対し、エドは勝ち誇ったかのような態度で衝撃発言をした。
「「はぁぁ~!?」」
「おや、何を驚くんだい? 以前からアルトゥロを後継者にしようとしていたのは知っているだろう?」
「いや……、アイツまだ未成年だろ? お前のとこみたいな大きい商会を丸投げしていいのか?」
「ふっ、アルトゥロをその辺の子供と一緒にしてもらっては困るよ。彼は私が認めた逸材なのだからね。商会の従業員からの信頼も厚いし、例え私が今死んでも商会に問題はないのだよ」
胸を張ってドヤるエド。
「いやいや、絶対今頃怒ってると思うよ? 帰ったらちゃんと謝ってお休みあげてね」
「わかった、約束しよう」
約束すると言う割に、なぜ私から目を逸らすのかな?
「おいおい、コイツ連れて行くのかよ?」
「だって、置いて行っても絶対追いかけて来るでしょ? だったらもう移動中の戦力と御者の順番に組み込んだ方が楽だし早いよね?」
ホセは嫌そうにしているが、下手に置いて行くと後でもっと面倒な事になるのは目に見えている。
エンリケもどっちでもいいと言わんばかりに、ニコニコして私達を見守っているから反対はしないだろう。
むしろ道中の話し相手が増えるから喜んでるかな。
「その通りだね。それにアイルの事だからサブローがいた国に行って食材を買いたいんじゃないのかい? 商会の人間が一緒にいるのといないとは客として扱いがかなり変わると思わないかい?」
そうか、商会の人間がいると、今後大きな取り引きが発生する可能性もあるから色々サービスしてもらえるかもしれない!
頭の中で計算していると、ホセが馬達を馬車に繋ぎながら大きなため息を吐いた。
「はぁ~……、わかったよ、連れてきゃいいんだろ。ほら乗れよ」
ホセに促されて馬車に乗り込む。
そしてエンリケに目配せして、御者席の小窓のすぐ近くに座った。
相談すべきは転移魔法を使うか否か。
「ああ、本物のアイルだ。ウルスカに到着するまでに何度幻を見た事か」
当然のように私の隣に座るエド。
なかなか危険な事を言っている。
ホセにも聞こえているせいか、少し乱暴に馬車が動き出した。
「それは一度治癒師に診てもらった方がいいと思うのは私だけ?」
「ふふ、それだけアイルが恋しかったという事さ」
「どうせウルスカに到着するまで無茶な移動してきたんじゃない? しょうがない、膝を貸してあげるから寝てていいよ」
「アイル……! なんて優しいんだ、ではお言葉に甘えて……」
イソイソと私の膝に頭を乗せるエド、私はそっとエドの目を手の平で覆った。
「『
『おいおい、それはいいけど、エドガルドの身分証どうするんだよ。もう順番だぞ』
「さっきウルスカに到着したばかりだから身分証は確認済でしょ、それにもう顔パスなんじゃないかなぁ」
『確かにな、何か言われたら叩き起こせよ』
「はーい」
幸い門にセシリオがいたお陰で、何の問題もなくウルスカを出発できた。
「ねぇアイル? 確か俺前に睡眠魔法って規制されている魔法だって言った気がするんだけど、気のせいかな?」
笑顔でそう言ったエンリケに、私の脳はフル回転で言い訳を考える。
「だけどほらっ、法律とか時代によって変わるものじゃない? 今はそんな規制を知っている人もほとんどいないわけだし、実際エンリケ以外から聞いた事もないしさ! それに転移魔法使う時にエドが起きてたら面倒だもんね!」
「いや、ひと眠りしている間にひと月かかるエルフの里近くに移動していたら、さすがにおかしいって思うでしょ」
「そこはほら、しらばっくれればいいと思うの。きっと私が誤魔化してるってわかったら、エドはわかってても知らないフリをしてくれると思わない?」
「まぁ……、それは間違いないだろうけど。アイルって悪い女だよねぇ」
『ブフォッ』
エンリケの悪い女発言に、御者をしていたホセが笑いを我慢できずに噴き出した。
「ちょっとホセ! なんで今噴き出したの!? いや、別に私は悪い女なんかじゃないけどさ!」
『ククッ、いやいや、何にも笑ってなんかいないぜ? ちょっと咽ただけだ。今なら誰もいないけど、転移するか?』
転移してしまえばエンリケもこれ以上何も言わないだろう、そんな計算の元、私は転移の呪文を唱えた。
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