第571話 笑顔は武器になる
転移した先はエルフの里の近くの森、ついでに炭酸水を貰ってきたいところだけどエドもいるから今は無理だね。
『ここは……ああ、エルフの里の近くの森か。じゃあこのまま港町に向かうぜ。この先の街道はあんまり道幅が広くないみたいだな』
途中でエンリケがホセと御者を交代したけど、馬車の中に入ってきたホセは私に膝枕されて眠っているエドを見て舌打ちした。
ホセからしたら気分の良くない光景かもしれないけど、魔法で眠らせちゃったから仕方ないよね。
確かエルフの森から五国大陸へ向かう港町へは一週間くらいかかるはず。
馬車はすでに私達が通った事のない街道を走っている。
数時間移動して休憩場所に到着した時、エドが目を覚ました。
「ん……? ふ、不覚……!! せっかくのアイルの膝枕だというのに、本当に眠ってしまうとは!」
「いやいや、眠ってないなら膝を貸したりしないからね?」
エドの頭を持ち上げようとしたけど、重くて動かない。
たぶんエドが力を入れて動かないようにしているんだと思う。
「オイ、目ぇ覚ましたんなら身体を起こせよ。アイルの足がまた痺れちまうだろうが」
今はネックレスにかけてある正常化の付与魔法のおかげで平気なんだけど、だからと言ってこのまま頭を乗せていられては困る。
というわけでここはホセに乗っかっておくのがベストだよね。
「頭が重いから起きたなら早く退いてね」
そう言うとエドは渋々身体を起こした。
「ところで……、今はどの辺りを走っているんだい? ウルスカより西には行った事がないから景色で判別できないんだよ」
「えっとね~、今はエルフの森を越えたところだよ」
「は?」
「エルフの森を越えたところ」
笑顔で答え、素で驚いて聞き返したエドに、再び笑顔で答える。
「確かエルフの里までウルスカからひと月……」「エルフの森を越えたところだよ」
笑顔を崩さず繰り返すと、悟りを開いたかのような穏やかな笑みを浮かべるエド。
「そうか、それじゃあ港町のウサカまであと一週間くらいかな」
「うん、それくらいだと思う。うふふふふ」
「五国大陸に到着するのが楽しみだね、はははは」
「ケッ」
うふふ、あははとわざとらしく笑い合う私とエドを苦々しい顔で見るホセ。
とりあえず転移については知らないフリをしてくれるみたいだから良しとしよう。
私達は馬車から一度降りて食事をする事にした。
「そういえば……、以前アファトルガの使者が来た時に追い返したけど、それが問題になったりしないよね? なぜかアイル達が来るって確信してたみたいで、随分使者が怒っていたというか、恨みがましい目をしていたから何か仕返ししてもおかしくないかも」
そう言ったのはエンリケ、私達がいない間に来て勝手に私達の行動を計画されても困る。
「あむっ、アファトルガってサブローがこの世界で最初に姿を現した国でしょ? きっと私がサブローの同郷だって情報を掴んで……もぐもぐ、ごくん。食べ物とか恋しがると思ったんじゃないかな」
「嫌がらせで入国拒否されたりしてな。やっぱ唐揚げは
「ちょっとホセ! 冗談でもやめてよね! 今回五国大陸に行くのは鰹節が目的なんだから! あっ、でも最悪アファトルガに入れなくても、五国大陸内の国なら手に入るよね!? それこそ鰹節が大量に手に入るなら、白だしの味も改良できるかも……」
「アイル、もし使者が極力宿屋を使って移動しているとしたら、私達が追いついてしまうかもしれないよ? 通信魔導具を使って連絡を入れていなければ、追い返した事がアファトルガに知られる前に国内に入れるかもしれないね」
確かに、私達がいない間に来た使者は偉そうだったみたいだし、きっと少しでも野営の回数は少なくなるように移動しているに違いない。
だとしたらそれこそウサカに到着するまでに追いつく可能性がある。
向こうは私を見たら賢者だとわかるけど、こちらは見かけても使者がどうか判別できないのが痛いな。
もし判別できたら一緒にアファトルガまで行って、一度王様に謁見するだけならいいですよ~って言うのに。
それで今後鰹節をパルテナに輸出してもらえるように交渉を……。
「オイ……、オイ! アイル!! まぁた食い物の事考えてただろ! 食事中に更に食い物の事考えるって、どれだけ食べる事が好きなんだよ」
「ふふ、ホセはわかってないなぁ、この飽くなき探求心があるからこそアイルの料理は美味しいんじゃないか。それに食べ物の事を考えているアイルも可愛いから、いつまでも眺めていられるというものだよ」
……とりあえずホセもエドも私がとても食いしん坊だと思ってるっていうのはわかった。
否定はしないけどさ。
「とりあえず鰹節以外にも色々あるかもしれないから、目的地はあくまでアファトルガという事で。もしも面倒事に巻き込まれそうなら、五国大陸内で鰹節だけでも手に入れて撤収って事にしよう」
「まぁその辺が妥当だね。トルニアはまた今度行こうね、アイル?」
「そうだねぇ、やっぱりトルニアに行くならエリアスを連れて行かないと面白くな……ハッ!」
「お前酷い奴だな、そんなにエリアスが賢者扱いされてるのを笑いたいのか」
エンリケの言葉に乗せられ、ついうっかり本音が漏れてしまった。
ニヤニヤするホセにもイジられていたが、エドはニコニコ見ているだけで助けてはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます