第572話 港町ウサカ
一週間後、私達は港町ウサカに到着した。
どうやらここ数日海が荒れていて船が出ていないらしく、船に乗れない人達でごった返している。
仕方なく何とか空いている宿を見つけてチェックインし、街へと繰り出した。
そしてここで一つ嬉しい誤算が。
なんとウサカにはほんの少しだが五国大陸の名物が売られていたのだ。
街中の店舗に最後のひとつの鰹節が!!
「やった~! とりあえずひとつはゲット!」
「お? それカリスト大司教が土産にくれたやつじゃねぇか。それ使うと香りが全然違うんだよな~」
誰よりも鼻のいいホセは鰹節がお気に入りだ。
私に負けないくらい喜んでいる。
「私も五国大陸に到着したら買ってみようかな。アイルやホセがそんなに喜ぶのだから間違いないだろう」
ウサカに到着してからなぜか時々ピリついていたエドも、鰹節に興味を持ったようだ。
「私の故郷ではどこの家庭にもコレが薄く削られた物を常備していたの。置いてない家はほとんどないんじゃないかなぁ。きっと五国大陸に行けばこの鰹節を使った料理とかいっぱいあるだろうから、味見してみるといいよ。この塊の状態だと食べられないからね」
「ふふふ、それは楽しみだ」
「う~ん……、なんだか気持ち悪いなぁ」
店を見ながら移動していると、エンリケがポツリと呟いた。
「やはりエンリケもか。私も妙な視線を感じているんだが、私に向けられているわけではなさそうだからハッキリ感じ取れないんだよ。ホセ、君はどこで恨みを買ってきたんだ?」
エドがホセにうろんな視線を向ける。
「なんでオレだよ!?」
「だって私に向かってではないし、エンリケも恨みを買うような事はしないだろうし、だったら君しかいないじゃないか」
「アイルかもしれねぇだろ!? まぁコイツの場合は恨みを買うってぇより逆恨みされてる事の方が多いだろうがよ」
「まぁ冗談はこの辺にしておくとして、実際不穏な空気ではあるから気を付けに越した事はないね。ただ単に治安が悪いだけとう場合もあるのだから。アイルが襲われたらホセを肉壁にしてちゃんと自分を護るんだよ?」
エドは私に向き直ると、両肩に手を置いて優しい微笑みを浮かべた。
言ってる事は酷いんだけどね。
「肉壁にならお前がなれよ!」
「ふっ、そんなの当然じゃないか! 私はアイルのためならこの心も身体も喜んで差し出すさ!」
「あっそ、じゃあ頼んだぜ。オレあの屋台の串焼き買って来るからよ」
「いってらっしゃ~い。じゃあ私達はあっちの花壇のところで座って待っていようか」
屋台が並んでいる先にちょっとした腰の高さの花壇があり、みんなそこをベンチ代わりにして食事をしていた。
移動しようとしたら、突然エドがぶつかるように私に抱き着く。
「もぉ~、エド! 重いよ!?」
エドの重さで体勢を崩し、前傾姿勢になるとエドが私の背中からズルリと崩れ落ちて地面に倒れた。
「え……?」
「アイル! 刺されてる!」
一瞬何が起こったのかわからず頭の中が真っ白になったが、エンリケの声に我に返るとエドの背中にナイフが深々と刺さっていた。
「エンリケ! 治癒魔法かけるからナイフを抜いて!」
「わかった! ……コレ毒が塗ってある!」
エンリケがナイフを抜いた瞬間に治癒魔法をかけた。
「『
ちゃんと魔法は発動した、なのに上半身を抱き上げてゆすってもエドが目を開けない。
パニックを起こしかけたその時、汚いだみ声が聞こえて振り返る。
「ははは……、失敗したか。何が賢者だ! 一人目の賢者といい、四人目の小娘といい、我が国にいて発展に協力すべきだろう!!」
そこには血走った眼をした、外套で貴族服を隠している男がいた。
言っている事からしてサブローが転生した時に最初に現れたというアファトルガの人間だろう。
もしかしてビビアナ達に移住しないかと持ち掛けたっていう使者!?
追い返された腹いせに私を殺そうとしたの!?
見た目からして精神状態がまともじゃないのだろう。
もしかして絶対に連れて帰れとか無茶な命令でも受けていたのだろうか。
「ねぇ……どうしてエドは目を覚まさないの? 治癒も解毒もしたはずなのに……!!」
「無駄だ! 賢者を殺すために即死する毒を数種類混ぜた究極の毒だからな!! もう死んでるんだよ!」
そう言った途端に男は何やらスイッチのような物を押し、その姿が消えた。
しかし私は男よりぐったりと動かなくなったエドの重みに手が、身体が震え出す。
「ぎゃ……っ!」
視界の端でホセが何もないところで拳を振り抜き、さっきの男の悲鳴が聞こえた気がした。
「おいおい、何があった? 変な気配がしたから勘で殴ったら声がしたけどよ」
「ホセ、エドガルドが殺された。君が殴ったその男にね、魔導具で隠蔽してたのに気付けたのはさすが獣人ってとこかな。恐らくアファトルガの貴族だと思う、エドは平民だけど権力と財産を持っているからこの男を罪に問えるはずだ」
「は? エドガルドが死んだ? ははっ、何をバカな事を……アイル? おい、何やって……アイル!?」
近くのはずなのに遠くで聞こえるホセとエンリケの声。
うるさく聞こえるのは私のせわしい呼吸音、そしていつの間にか私の意識は暗転していた。
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