第213話 モステレス出発

 結婚式の翌日、私達は事前に頼んであったものを受け取り、支払いを済ませた。

 その後街を見て回ろうとしたが、寄るところ寄るところ全て試食やら商品を渡そうとしてくる。

 試食はわかるが、商品を渡してくるお店の人達は「賢者御用達」という看板が欲しいのだという思惑が透けて見えた。



 結局無駄に疲れるので早々に引き上げ、ガブリエルの事もあるのでパルテナへ帰る事にした。

 ハヤトとエドはもう少しいいじゃないかと引き留めて来たけど。

 エドはきっと帰ったら怒ったアルトゥロが待ち構えているから先延ばしにしたいのだろう。



 この世界に新婚旅行は無いらしく、タイチとアデラは今日も商売で忙しくしていたが、大山一族に見送られて私達はモステレスを後にした。

 門のすぐ側にお店があるから見送ったらすぐに店を再開するのだろう。

 出発した時はエリアスが御者をしてくれていたので、感覚を忘れない内にやっておこうと休憩中に交代を申し出た。



「それじゃあお願いするね」



「うん!」



「アイル1人で御者してたら盗賊に目ぇ付けられやすくなるだろ、オレも隣に居てやるよ」



「それは必要無い、私が一緒に御者席に座るからね」



「いい、オレが座る」



 ホセとエドが何故か睨み合っている、もう1人でも大丈夫だと思うんだけど。

 それにビビアナとセシリオが馬で並走してるから盗賊に目を付けられる心配も無いと思う。

 それにまた足の間に座るのはちょっとなぁ…、あ。



「そうだよ、だったらビビアナ達と交代すれば良いじゃない。そうすれば2人共私がちゃんと御者出来てるか確認出来るでしょ? それに護衛に見えるだろうから盗賊に舐められる事もないんじゃない!?」



 我ながら凄く名案だと思う。

 行きはビビアナ達はずっと馬だったもんね、帰りは馬車でゆっくりしてもらって良いと思う。

 馬車の中でイチャつかれたらちょっと困るけど、ビビアナはともかくセシリオは初心うぶだからこそ目を付けられた訳だし、その辺良識と常識を持っていると思いたい。



「ふふっ、じゃあ休憩後はアタシとセシリオは馬車に乗るわね、ね?」



 ね? と言いながらそっとセシリオの手に手を重ねるビビアナ、セシリオは気恥ずかしそうに身を竦ませていた。

 もしかしてセシリオは自己評価が低いのだろうか、普通身体の関係があったら手を繋いだくらいであんな反応はしないだろう。

 まぁ、そのお陰で『希望エスペランサ』の男性陣が驚く程長続きしているのなら長所と言えなくも無い…のかな?



 御者をしている時は慣れるまで集中しないといけないので索敵は2人に任せて出来るだけ話し掛けない様に頼んで御者席に座った。

 蛇行するのを警戒してかホセがちょっと離れて馬に乗っているのは無駄な警戒だからね!




[馬車内 side]


「皆気付いてるよねぇ?」



「ホセね」



「今朝からいきなりだな」



「あの、何かあったんですか?」



 3人がわかり合って頷く姿にセシリオは首を傾げた。

 セシリオにとって『希望』のメンバーは指導係と指導される側として出会っているので上官相手の様に敬語で話している、ビビアナ以外には。



「うふふ、ホセがちょっとおかしいのよ、本人は意識してやってないみたいだけど明らかにアイルに対して独占欲出してるわね」



「前から仲良さそうだったけどなぁ」



「仲が良いのは前からだけどね。何と言うか…以前ならエドガルドがアイルにベッタリしててもアイルが嫌がらない限り放っておいたはずなんだけど、今朝からエドガルドがアイルの腰に手を回そうとしたり、エスコートして手を握ろうとすると邪魔してるんだよね…、ふくくっ」



 ホセに聞こえない様に声を潜めつつも笑いが堪えきれず忍笑いを漏らすエリアス。



「ふっ、まさかホセがなぁ…。最初なんてアイルの事9歳と間違えてたというのに」



「はは、彼女は黒猿ブラックエイプなんてあだ名を付けられてはいましたが、何気に騎士団で彼女を嫌ってる者は居なかったくらい良い子ですからね。外見が幼くなかったらお2人も好きになっていた可能性はあるんじゃないですか?」



「「……………」」



「え!? 2人共そうなの!?」



「ああいや、ちょっと想像してただけだ」



「そうだねぇ、普段からガブリエルと夜会に出た時くらい成長して見えてたら……、だけど酒癖がねぇ…」



「見た目年齢以外だと唯一にして最大の問題点だな、ははは」



「あら、それ以外は好みって事?」



「面白い、優しい、世話好き、料理上手、一緒に冒険者として行動出来る…条件的には完璧と言えるんじゃないか? ただ…」



「女として見れるかって言うと…ねぇ?」



「だな」



 顔を見合わせて頷き合うリカルドとエリアス。



「ふふっ、褒め言葉の最初に面白いが出て来る時点で2人がアイルをどう見てるかわかるわね」



「あ、ちなみにビビアナに対しては頼もしいが最初に思いつくよ」



「ふぐっ、ンンッ……まぁ、そうだな」



 エリアスの言葉に思わず吹き出しそうになるリカルド、咳払いをして誤魔化しつつも同意した。



「へぇ~、ふぅ~ん、そぅなんだぁ」



 目が笑ってない笑顔で2人を見るビビアナ、不穏な空気を察知したセシリオが慌てて口を開く。



「あっ、あのっ、俺は最初に美しい…が出る…から…」



 口にしてから赤面しつつ俯くセシリオ。



「やだ…♡ セシリオったら…♡」



 セシリオの言葉と行動がツボに入ったビビアナは、2人に対する嫌がらせを兼ねて馬車の中で思いっきりイチャついた。

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