第212話 自覚!?
【今回は三人称です】
「くはぁ…ッ」
タンッと音を立てて個室に備え付けのテーブルにカップを置く、結婚式の宴で夕食も済ませているので早々にお風呂に入ってアイルは自室に引き篭もった。
それは何故か、当然飲む為である。
「あれだけよっぱらいがいたんだからしゃぁ、あらしらってよっぱらってもいいとおもうんらよれ~。
1人で泣き真似しつつ、カップの中身が空になった事に気付いて氷を作り出してから琥珀色の液体を注ぎ、砂肝の塩胡椒炒めを口に放り込んだ。
「うむ…、うむ…、いちゅたべてもまちがいにゃいうましゃ……ふひひっ」
自分が作ったツマミに対して自画自賛し、自画自賛した事が面白くなって突如笑うアイル。
結婚式のアルコールは抜けているが、既に5杯目に突入しているので紛うことなき酔っ払い状態だ。
「むぅ…、といれ…」
部屋に簡易シャワーは付いているが、トイレと大浴場は共同なのでアイルは立ち上がるとドアへと向かう。
途中バランスを崩してタタラを踏み、ドアへ突っ込んでべちゃりと張り付いた。
「ぬ…? のみすぎたかにゃ…」
幸いトイレは部屋から大して離れておらず(魔道具で清潔が保たれているので臭いも無い)、トイレを済ませて自室の前に戻って来た。
しかしドアノブに手を掛けたがドアが開かない、何度かガチャガチャと動かすと中からドアが開けられた。
「あれぇ…? ほしぇ、なんれわらしのへやにいりゅの?」
「…………お前の部屋は隣だろうが」
ホセはジト目でアイルを見下ろすが、アイルはトロンとした目で不思議そうに首を傾げて見上げるだけだった。
ちなみにエドガルドの部屋はアイルから1番遠い部屋にされている。
「ハァ…、部屋に戻れ」
「はぁい」
ホセ的には怒鳴りたいところだが、この状態のアイルは明日には覚えて無いだろうし、就寝時間という事もあって我慢した。
ため息を吐いて部屋に戻らせ様としたが、アイルは良い返事をしておいてドアの隙間からホセの部屋に入り込んだ。
「あっ、オイ! 何でオレの部屋に入ってんだよ、自分の部屋に戻れって!」
声が響かない様にドアを閉めてからアイルに注意をするが、アイルはコロリとベッドに転がりしがみつく様にシーツを握り締めた。
「わらしのへやらもん、れていくのはほしぇらもん。
ベッドの上でシクシクとアイルが泣き始めてしまい、ホセは頭を抱えたくなった。
しかもアイルの格好は気温が高い事もあってエドガルドから貰ったナイトウェアである、露出に対してあまり頓着の無いホセだから普通にしているが、この世界ではただでさえ露出高めだというのに立っている時には隠れていたスリットから太腿がチラ見えした状態でベッドの上というのは据え膳以外の何者でも無い。
ここに居たのがエドガルドだったらとっくに理性は投げ棄てていただろう。
アイルはもう成人なのだから誰かとどうにかなっても自己責任だとわかっているが、この無防備っぷりにホセの中にモヤモヤしたものが湧き上がる。
「ったく…、人の気も知らねぇで…」
ガシガシと耳の付け根を掻く、これでディエゴみたいに禿げたらアイルのせいだという考えが過ぎった。
そんなホセをよそにアイルは口を開く。
「ぐすっ、ほしぇらってあらしのきもちらんてしらにゃいくしぇに…。いっちゅもがまんしにゃがらみんにゃがのむのみてるらけ…、おあじゅけしゃれるきもちわかるのッ!?」
ガバッと身体を起こして上目遣いでホセを睨むアイル、ホセから見たアイルはアルコールで上気した露出多めの肌、潤んだ瞳に明らかに以前より育っている胸。
「あっぶねぇ…、オレ今何しようとした!?」
愕然と小さく呟いたホセにアイルは不思議そうに首を傾げた。
「ほしぇ?」
「あ、ああ…。おあずけされる奴の気持ちな、うん、わかるぜ……今まさしくな(ポソ)」
「らったらおいわいのときくらいはゆるしてよぉっ、ほかにもよっぱらいいるんらから!」
さっきまで泣いてたのに今度は怒りながらベッドをベシベシと叩いている。
「あーあーわかったわかった、じゃあ祝い事の時はオレ達の誰かが一緒に居るって条件で飲んでいいぜ、皆にもオレから言っておくからよ」
「ほんとっ!? ほしぇだいしゅき~!!」
「ちょ、待て、アイル抱き着くな。お前自分の格好わかってんのか!?」
「えどがくれたぱじゃまらよ? 」
「クソッ、あの変態余計なモンを…」
いつもの夜着だったらこんな気の迷いは絶対無かったはずだと自分に言い訳しつつ、エドガルドのせいにした。
「んん? ふふっ、ほしぇはんだ「もう良いからお前は自分の部屋で寝ろ!」
自分の身体の状態を口に出そうとしたアイルの言葉を遮りヒョイと抱き上げると、ホセはアイル部屋に運んでベッドに寝かしつけて自室に戻った。
そしてアイルの残り香のするベッドで蹲る。
「嘘だろ…、ビビアナの裸見たってこんな風になった事なんか…。相手はあのアイルだぞ!? 惚れたなんて事は…………、無いっ! 無いだろ!? あの娼婦みてぇな格好のせいだよな、うん。きっと…そうだ」
ホセは動揺しつつも自身がアイルの残り香を無意識に堪能する様に嗅いでいる事に気付く事無く、その晩眠りについた。
ちなみに翌日アイルは当然覚えておらず、今回ばかりはこれ幸いとホセは全て無かった事にした。
当然飲酒の許可をした件も一緒に。
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