第447話 行ってきます
「絶対ですよ!? 帰って来たら同じ物を作ってくださいね!」
出発の朝、私とガブリエルは王立研究所の所員に詰め寄られていた。
ビビアナに渡した通信魔導具のテストに付き合って貰っていたので、そのサイズと性能に惚れ込み物凄く欲しがっているのだ。
これで断ったらビビアナを襲って奪うんじゃないかと心配になる勢いだったので正規品として売り出す場合の値段を支払うならと頷いてしまった。
ちなみに高品質の魔石と、特に小型化の技術料で普通に金貨が数枚吹っ飛ぶ値段だとガブリエルから聞いている。
しかし腐っても王立研究所の所員だけあって結構溜め込んでいるらしく即決していた。
普段引き篭もっているから給料の使いどころが殆ど無かったというのも大きい様だが、それは言わぬが花というものだろう。
「私とガブリエルが居れば作れるのは間違い無いんだから落ち着いて、だけどビビアナに何かあったら悲しみで魔導具どころじゃ無くなるだろうから困っていたら助けてあげてね」
「任せて下さい! 腕っ節はありませんが、頭脳とある程度の権力はありますからいつでも力になりますよ!」
セシリオに肩を抱かれるビビアナに向かってほぼ筋肉の付いていない薄い胸板をドンと叩いた。
彼は匂いに釣られてガブリエルの部屋で食事をした内の1人で、顔馴染みだったりする。
「ふふっ、頼もしいわね」
「いえいえ、この芸術的な簡易通信魔導具…、簡易と付いていますがその技術は簡易なんてものでは無く現代の技術者の誰にも真似出来ない素晴らしいものなんですよ。この絹糸の様に細い繊細な魔法式の紋様、魔石のインクでは出せない細さで「はいはい、それくらいにしようね。ごめんねビビアナ、ウチの研究所員は魔導具の話を始めると止まらないから適当に
「わかったわ、うふふ」
ガブリエルってばそのセリフはブーメランだよ、自分だって魔導具の事を話し始めたら止まらないくせに。
案外自分の事も含めて言ってるのかもしれないから、今度から長話になったら適当に遮ろう。
「じゃあそろそろ馬車に乗ろうか」
リカルドが皆に声を掛けた、ギルドに出発の旨を知らせるついでに馬達を引き取り馬車の準備が済んでいるので、集まっていたエルフ3人も含め全員馬車に乗る。
最初の御者は私がするので最後にビビアナに抱き着いて別れを惜しんだ。
「帰ってくる頃にはきっとお腹も大きいよね、話を聞く限りビビアナは眠り
「うん…、だけどそういう事はビビアナの胸に埋もれながら言う事じゃないと思うの」
エリシアが冷静に
え、ちょっと待って、私ってばあのエルフ二人と同レベルって思われてないよね!?
「アイル! いつまでビビアナにくっついてんだ! さっさと馬車を動かせよ!」
「ちぇ、本当はホセもビビアナとお別れのハグしたいくせにさ」
「…んなこたぁ思ってねぇよ!」
あ、思ってるね、今の間は確実に思ってる。
セシリオと結婚してからちょっと遠慮してる事には気付いていた、本人達は
エリシア達やビビアナとアイコンタクトを取ると皆もわかってるみたいで、私達は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「ホセが
馬車の中から『妬いてねぇ!』と怒声が聞こえたけど、知らんぷりして御者席に座る。
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
「気を付けてな、ホセとあまり喧嘩をするでないぞ」
「はぁい」
おじいちゃん、そのセリフはホセに言ってやって欲しい、すぐにムキになるのはホセの方なんだもん。
そう思ったけど口に出したらまたホセの機嫌が悪くなる事間違い無しなので、おじいちゃんを安心させる為にも良い子の返事をして馬車を出発させた。
「へぇ、また王都まで行くのか。皆にもビビアナの事は気に掛ける様に言っておくから安心して行ってこい、気を付けてな」
「うん、ありがとう」
門で
ルシオは騎士とも連携を取っているのでセシリオからも信頼されている、何年も門番をしているので顔も広いのだ。
秋と言って良い季節になった今、農家は収穫に忙しいのであまり移動はしないが商人達は盛んに行き来している。
どのキャンプ場にも必ず人が居るという状態だ、そこに有名な賢者様御一行プラス珍しいエルフが三人も居る、この状態でどうなるかは火を見るより明らかというものだろう。
「有名な『
そんなパターンが何度も何度も何度も。
あわよくば自分の商会に引き入れたいというのが透けて見える会話にリカルドとエンリケはグッタリ、私とホセはイライラ、エリアスはニヤニヤ、当のエルフ達は王に仕えるからと我関せず。
もう直接エルフ達に話して欲しい、しかし会話の入り口が賢者の所属する『希望』に挨拶をしに来たと言うのだから相手をしない訳にはいかないのだ。
冒険者というものは評判も大事だからね、横の繋がりが強い商人に対して
「もういっそキャンプ場に寄る時は
私の提案に仲間達が飛びついたのは言うまでも無い。
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