第423話 新たな食材

「ガブリエル、食事の準備が出来たわよ」



 いきなりふすまが開いて告げられた言葉に思わず身を起こすと、サリエルとよく似た面差しの女性が無表情のまま私を一瞥いちべつして立ち去った。



「食事だって、行こうか」



 エルフ自体がそうなのか、さっきの女性がそうなのかわからないが、どうやらガブリエルにとっては当たり前の態度だった様で気にした様子は無い。

 ガブリエルが空気読めないから気にしてないだけって事は無いよね?



「ねぇガブリエル、この里の人達って無表情の人が多いの? ガブリエルのお母さんも最初はそうだったし」



「そうだねぇ、私も魔導具の面白さを知るまではあんなものだったよ。我ながら随分表情豊かになったと思うからね」



 ここにもガブリエルが空気読めない理由のひとつがあった様だ。

 普段から無表情な人達に慣れてるから周りの反応が冷めていても平気な鋼のメンタルになっちゃったんだね、やっぱり人って育つ環境が大事なんだと改めて思う。



「ここだよ」



 そう言ってガブリエルは話し声が聞こえる戸の開いた部屋へと入って行った、そのまま後に続くと中には大きめの4つのダイニングテーブルと20人程のエルフ達、そのテーブルの1つに長老達とウリエルも座っている。

 ガブリエルが入った瞬間は他のエルフ達からお帰りなど声が掛けられていたが、私達が入った瞬間シンと静まり返ってしまった。



「な、何か私達お邪魔じゃない? 何ならさっきの部屋で食べるけど…」



「大丈夫だよ、皆エルフ以外が珍しくてどう対応していいかわからないだけだから」



 ガブリエルの服を引っ張ってコソコソと耳打ちしたが、空気の読めないガブリエルは普通の声の大きさで答えた。



「お邪魔しま~す…」



 チラチラとこちらを見ている人達が居たので愛想笑いを浮かべて挨拶すると、5人の男女が立ち上がり寄って来た。



「ガブリエル、その子と話したいんだが」



 先頭きって歩いて来たちょっとミカエルに似た男性が無表情のまま言った、後ろの4人もミカエルに似ている気がする。

 エルフ自体何となく顔つきは整った美形という点で似ているので気のせいかもしれないけど、そういえば整った顔って裏を返せば特徴の無い顔って聞いた事ある気がする。



 そんな人達が無表情でジッと見て来るのは結構怖い、思わずガブリエルの陰に隠れてしまった。

 そんな私の様子に頼られたと感じたのか、ガブリエルは満面の笑みで一歩前に出る。



「とりあえず先に食事しないとね、アイルはお腹が空くと機嫌が悪くなっちゃうしぃッ!?」



 違う、そういう事じゃない、それじゃあ私がまるで凄く食いしん坊みたいじゃないか、言葉にしなかったけど気付けば指が勝手にガブリエルの背中をつねっていた。



「……そうだな、アイルというのか、後で話そう」



 男性はガブリエルの背中に隠れている私を覗き込む様に言ったのでコクコクと頷いた、すると男性も納得した様に一度頷くと全員が元の席に戻る。

 そして私達は見た事の無い料理が並べられた誰も居ないテーブルに着いて食事を始めた。



「いただきます、はむ……口の中で溶けた…!」



朧樹おぼろじゅの実だよ、面白い食感でしょ? エルフの里でしか食べられない物って結構あるからここに来れば楽しんでもらえると思ったんだ」



 にこにこと笑顔で説明してくれるガブリエル、さっき抓った事は全く気にしていない。

 それというのもこれまでに何度も無自覚失言で周りに叱られているので今回も「何か言っちゃったんだろうな」くらいに思っているのだろう。



「ここでしか食べられないのかぁ、ビビアナとセシリオにも食べさせてあげたいから買い取らせて貰えないかな? だけどここでお金を支払っても価値は無いからダメ…なんて事ある?」



「そうでもないよ、里から出る者の為にある程度はお金を持ってないといけないからね。アイルは長老達に気に入られてたし、言えばきっと譲ってくれるよ」



「それじゃあ帰るまでにお願いしてみようっと。これだけ柔らかいと離乳食にも使えそうだね、赤ちゃんが食べても大丈夫なのかな……うん、大丈夫そうだね」



 朧樹の実をジッと見て鑑定すると、どうやら栄養価も高いのでエルフも離乳食として利用しているらしい。



「ああそうか、アイルは鑑定が出来るから便利だよね。私も鑑定スキルがあったら魔導具の研究がはかどるんだけどなぁ」



「あれ? ガブリエルは鑑定持ってないの? いつも色んな事知ってるからてっきり持ってるんだと思ってた」



「だったら良かったんだけどねぇ、私の場合はただの知識の蓄積ってやつだよ。ここでも鑑定持ってる人は今この部屋には居ないけど…2人かな? 鑑定は凄く珍しいスキルなんだよ」



「そうだったんだ、知らなかった。あ、コレも美味しい! でも何の肉だろう、今まで食べた事無い様な…」



「それはお肉みたいだけどキノコなんだよ、大きいからそうやってステーキにするんだ」



「へぇ~、面白い食材がいっぱいあるね、何日か滞在延ばして色んな料理食べてみたいかも」



 味付けは少々薄かったが、素材の旨味が濃厚で皆も満足したみたいだった。

 私とガブリエルが食事中話してる間も口がとても忙しそうだったもんね。



「ふぅ…、お腹いっぱい、ごちそうさま」



「アイル、食事が終わったのならこっちへおいで」

 


 不意に隣のテーブルから声が掛けられた、食事の前に声を掛けて来たミカエル似の男性だ。

 その男性は「こっち」と言いながら自分のひざをポンポンと叩いているのだが、まさかそのひざに座れって言ってるんじゃないよね!?

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