第440話 ビビアナとご対面

「ビビアナ~! ただいま~!!」



 本当なら依頼者のガブリエルを送り届けてから帰るのだが、ウルスカが近付いてきた時にあまりにもソワソワしていたせいで一度ビビアナの顔を見てからで良いと言ってくれたのだ。



 ついでにカマエルとタミエルも一応紹介しておこうという事になった。

 そして家の前に差し掛かった時に我慢出来ずに御者席から叫んだのである。

 既にウルスカの門で御者はエンリケが交代してくれていたので、停車したと同時に飛び降りて玄関へと向かった。



 玄関を開けると、私の声を聞きつけてビビアナだけでなくエリシア達も出迎えてくれた。

 本来ならふっくらしてきているはずのビビアナのお腹は、しっかり鍛えられている腹筋のせいで殆ど目立ってない。



「おかえりアイル」



「「「おかえり~!」」」



 いつもならビビアナに飛び付いているが、お腹を気遣って躊躇ためらっていたらビビアナから抱きしめてくれた。

 久々のマシュマロ乳に埋もれながら一番の心配事を聞く。



「ただいま! 皆困った事とか無かった?」



「私達がいるのにそんな心配なんて無いわよ、ねぇビビアナ」



 エリシアが胸を張って答えた。



「ふふっ、そうね。家の事は殆どエリシア達がやってくれて助かったわ、料理もいつでもアイルの弟子を名乗れるくらいよ」



 ビビアナに褒められてエリシアだけでなくルシアとベリンダも誇らしげだ。

 そんなに腕を上げているなら、バレリオがやる店で冬以外をエリシアとベリンダに任せて、冬だけバレリオ達も参加する様にしたら良いんじゃないだろうか、そうすれば変に2人が利用される事もないだろうし。



「アイル?」



「あ、ごめん、ちょっと考え事しちゃってた。そうだ、今ね、エルフの里から2人エルフが来てるんだ、タミエルっていうエルフはウルスカでガブリエルの助手になる予定だからビビアナにも先に紹介だけしておこうと思ってここに連れて来てるの」



「エルフ…ねぇ」



「「「エルフ!?」」」



 見事にエルフに対して持つ印象が違う反応だ、ビビアナは明らかに警戒している。

 仕方ないよね、今まで会ったエルフの性格が性格だから。

 エリシア達は絵本で読んだエルフのイメージで自然を愛し、森で静かに生きる魔法の使える人達だと思っているのだろう、期待に目をキラキラさせている。



 ガブリエルは基本的に研究所で引き篭もっている上、貧民街スラムの教会とは離れているから3人は見た事も無かっただろうし。

 こんな子達に娼館に行く為に里を出た様なエルフを紹介してしまっていいのだろうか。



「とりあえず挨拶だけしましょうか、アイル達が帰って来たのならいっぱい料理を作らなきゃいけないでしょう?」



「そうだね、アイルも疲れてるだろうから料理は私達に任せて休んでてね!」



「頼もしいね、それじゃあお願いしようかな」



 複雑な感情が表にでていたのか、ビビアナは苦笑いしながら彼らとの接触が短くなる様にフォローしてくれた。

 そして外に出ると皆が馬車から降りて身体を伸ばしていて、私達に気付くと笑顔を見せる、エルフの2人以外は。



「エリアスの言った事は本当だったな…」



「ああ、アイルは特別大きい訳では無いと…」



 何やらビビアナの胸を凝視してヒソヒソと話している、何を話しているか聞こえないけど、仲間達が笑いを堪えている事といい、何となく予想がつく。



「あの栗色の髪の方がタミエルって言って、これからウルスカに住んでガブリエルの助手をする予定なの、もう1人はカマエル、王都へ連れて行って宮廷魔導師に推薦するんだって。タミエル、カマエル、こっちが私達の仲間のビビアナよ、妊婦だから気を遣ってね。そっちの3人は私の料理の弟子でベリンダとエリシアとルシアよ」



 私が話しかけても視線はビビアナの胸に固定されていた、しかし3人が名前を呼ばれて頭を下げた時はちゃんとそちらを向いていた。

 ふっ、命拾いしたわね…。

 ちなみにその時点で残念認定されたのか、3人の先程までのキラキラした目は失われていた。



「それでね、しばらくしたら2人を雇う様に進言する為にガブリエルが王都まで連れて行くから、また護衛として指名依頼するって言うの…」



 報告しながらついショボンとしてしまう、エリシア達の前だからあんまり子供っぽいとこ見せたく無いんだけど。



「往復で2ヶ月ね…、あたしの出産まではあと3ヶ月以上あるから帰って来れるでしょう? 産まれたら暫くは一緒に居てくれるわよね?」



「もっ、もちろんだよ! 他の皆が依頼に行っても私は育児休暇を主張する!! せめて首がすわる3ヶ月…、いや、寝返りが完璧になるまでの半年間!!」



 少し寂しげに、しかし優しく微笑んだビビアナに私は即答した。



「おい、あんな事言ってるぜ」



「たまには長期休養も良いんじゃないか? これまでしっかり稼いだからな、全員数年贅沢に休養しても余裕だろう? 暇なら各自で依頼を受けるなり旅行するなり自由にすれば良いさ」



 呆れた様にホセが私を親指で差し、リカルドは寛容な言葉と共に肩を竦めた。

 どうやら私の育児休暇は認められたらしい、おじいちゃんはビビアナと家に残し、タミエルとカマエルを宿屋に送り届けてから馬達を貸し馬屋に預けてガブリエルも一緒に冒険者ギルドへと向かった。



 ガブリエルが同行する理由はギルマスのディエゴにタミエルがウルスカに住む事になると報告する為だろう。

 ちなみに私は王都から帰って来たら半年間休養すると宣言する気満々だ、ついでにバレリオが居たらエリシアとベリンダとのお店の提案をしてみるつもり。

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