第439話 久しぶりの2人きり
太陽がかろうじて姿を見せた時間に私達は村を出た、ちゃんと昨夜の内に仲間達と村長には言ってあったのでおじいちゃんも既にロランドとは別れを済ませている。
どうしても連絡を取りたければ今はウルスカの教会にも通信魔導具があるから教会か各ギルド経由で連絡がつく。
おじいちゃんの場合は冒険者ギルドにも商業ギルドにも登録してないから必然的に教会経由になるだろうけど。
馬車は人数的に御者以外中に座れるが、話し相手が欲しいという私のリクエストでホセが隣に座っている。
先にガブリエルが手を上げてこっちに来ようとしていた気がしたんだけど、御者台にホセが先に座ってしまったので諦めたのだろうか。
そして何故かホセはずっとニヤニヤしている、機嫌が良いとかじゃなくて何かを面白がっている感じだ。
「どうしてそんなにニヤついてるの?」
「べっつに~」
「あっ、もしかして帰ったらビビアナに会えるから嬉しいとか!?」
「へっ、お前じゃあるまいし、
ヌゥ…、鼻で笑われてしまった、確かに私は帰れるので機嫌が良いんだけどさ。
だけどまた王都まで行かなきゃいけないんだよねぇ、もういっそ転移魔法で置いてきちゃダメかなぁ。
「はぁ…」
「何だよ、ソワソワしたり落ち込んだり忙しい奴だな。アレか? 王都まで護衛しなきゃなんねぇからまたビビアナと離れるのが寂しいってか?」
「うん」
素直に頷くと、ホセは驚いた様に目を見開いてからジトリとした目を向けてきた。
「お前…本っ当~にビビアナが好きだよな。オレと会えなくなってもそれくらい寂しがったりしねぇだろ」
「そんな事無いよ! もうずっと一緒に生活してるんだよ? 仲間の誰が居なくても寂しくなっちゃうに決まってるでしょ、例えエリアスでもね!」
「ははっ、そうかそうか」
むくれながら答えると、ホセは笑いながら私の頭をワシワシと撫でて背後にストンと座った。
私がホセの足の間に座っている状態である。
「馬車が走ってる時に動いたら危ないよ? 転げ落ちたらどうするの。それに何で私の後ろに座ったの?」
「オレがそんなヘマするかよ。風避けだよ、風避け。……お前が来た頃は馬に1人で乗れずにこうやってオレの風避けになってたよなぁ」
ホセの顔は見えないけど、懐かしむ様な声で呟いた。
「そうだねぇ…、今じゃ1人で馬に乗れるし、馬どころか御者も出来ちゃうもんね」
「ククッ、1人で走らせられるけど、乗るのは1人じゃ出来ねぇだろ? 出会って1年以上経つけどよ、結局身長は全然伸びてねぇもんな?」
「出来るもん! 浮遊魔法使えば1人で乗れるもんね!」
「お前…魔法が使えて良かったなぁ」
悲しい事に私の身長では普通に1人では乗れない、股関節脱臼の危険があるのだ。
ホセは頭を撫でつつ言葉だけは優しいが、笑いを堪えているせいで声が震えている。
「それにしてもアイルと会う前は他の大陸に行くなんて考えた事無かったんだけどなぁ、今や教会本部やエルフの里、リカルドの実家に行ったり…まさかオレの身内まで見つかるなんて時々全部夢じゃねぇかと思っちまう」
ホセらしくない事を言い出したので振り向こうとしたら頭を手で押さえられてしまった。
照れてる!? もしかして今ホセが照れているの!?
何とか顔を見る為に振り向こうとフェイントを掛けてみたりしたが防がれてしまう、抗議の意味を込めてホセを背
「そんなの私だって夢だったらどうしようって思う時があるよ、家族や友達と離れちゃった事は寂しいけど今が幸せ…えーと、うん、幸せだね」
「何でそこで
呆れた様な声と共に、私の頭にホセのため息が掛かった。
「だってさ、私を知らない人からは相変わらず子供だと思われるし、何かと噂が広まってたり、今馬車の中に居るカマエルとタミエルの事を考えたら仕方ないと思うの」
「ああ…、確かにそうだな。その中にガブリエルやエドガルドは入れなくて良いのか?」
「その2人は大変だなぁと思う時もあるけどさ、結構楽しかったりするから良いかな」
「アイツらを相手に楽しいって思えるのかよ、お前…大物だな」
感心しているのか呆れているのか微妙な反応だ、ここは感心しているという事にしておこう。
「そうだよ、今更気付いたの?」
ググっと胸を反らしてそのままホセの顔を見上げたら凄く冷めた目が私を見下ろしていた。
「…………」
「ククッ」
何事も無かったかの様に真っ直ぐ前を見て御者に集中すると、背後から忍び笑いが聞こえた。
何だかホセと2人でこうやって過ごすのは凄く久しぶりな気がする。
勘違いとはいえ告白されてから無意識に2人きりになるのを避けていたのかもしれない。
モフモフ成分をおじいちゃんで補充していたというのもあるけどね。
その後も他愛の無い話をしながら休憩場所まで馬車を走らせた、やっぱりホセとこんな風に遠慮のない家族の距離感で話すのは楽しい。
しかし休憩場所に到着した時、御者席の私達を見てカマエルとタミエルが妙にヒソヒソ話していたのできっと聞こえているであろうホセに聞いたが、ニヤニヤするだけで大した事は言っていないと教えてくれなかった。
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