第215話 初めての盗賊

「今日の夕方にやっとカタヘルナに到着するね、フェルナンは書類に埋もれて死んでないかな?」



 モステレスを出発して5日目、治癒師の代表として顔馴染みになった人物を思い出しつつ御者席に座った。

 ちなみに今日馬に乗るのはエドとエリアス、ホセの過保護行動は飲酒許可を白状してからおさまっている。



「カルテの整理やらは部下にお願い出来るだろうけど、上に提出する書類なんかはフェルナンがやらなきゃいけないだろうから今頃燃え尽きてたりして。カタヘルナに到着したら顔を出してみるかい?」



「そうだね、冒険者ギルドにはどうせ顔を出すんだし、書類仕事は手伝えないけど様子を見に行こうか」



 セゴニア王都とモステレスを繋ぐ街道より整備が甘く、時々穴が空いている街道を魔法で修復しながら進んでいると、『この先魔物と盗賊に注意』と書かれた看板が目に入った。



 木々も疎らな草原から森を切り拓いて作られた街道へと環境が変わるせいだろう。

 ぶっちゃけ視界がかなり悪くなる、しかし私にとっては関係ないのだ。



「『探索サーチ』……あ~、居るね、盗賊が。まだ1キロ以上先だけど20人くらい。『身体強化パワーブースト』ホセ、聞こえた? 3人にも伝えてくれる?」



『わかった』



 馬車の中からくぐもったホセの声が聞こえた、気軽に悪口は言えないがこういう時はホセの耳は便利だ。

 そしてそのまま進んで行くとピューイと鳥の鳴き声と間違いそうな口笛が聞こえた。

 そしてすぐに馬車の前に20人程の盗賊が道を塞ぐ様に現れた。

 


「へへへ…、オレ好みの女が居るじゃねぇか」



 小太りで体格の良い、お世辞にも清潔とは言えない男が明らかにアイルに視線を向けて言った。

 それを聞いたエドから殺気が噴き出す、しかし私は別の事を考えてしまった。



 ふ、ふふふ、やはり私は成長している、胸の成長と共に大人の女性として見える様になってきたんだ!! と。

 そう思って内心ほくそ笑んでいたらその隣に居た盗賊その2が言った言葉に冷や水を浴びせられる事になる。



「へっ、お前は相変わらずガキが好きだなぁ、変態め、ひひひ」



 その瞬間私からエドを上回る殺気が噴き出した、と思う。

 とりあえず吹き出したエリアスには後から制裁を加える事を決定。

 そんな遣り取りの間に馬車から4人が降りて来た、ビビアナを見た瞬間他の盗賊達が色めき立ち口笛を吹く輩もいた。



「ふ、ふふふふふふふ、『雷撃八つ当たりアタック』(中)」



「「「「ぎゃあぁぁぁっ」」」」



「あれ? 何か呪文違わなかった?」



「気のせいよ」



 エリアスのツッコミを受け流し、火傷で部分的に皮膚が爛れてピクピクしている盗賊達を御者台から無表情で見下ろした。

 弱めでも充分行動不能に出来たけど、ちょっぴり魔力を込め過ぎたかな?



「俺達が出て来るまでもなかったな…」



 リカルドがポリポリと頬を掻きながら呟いた。



「いやいや、これから全員縛り上げないといけないもん。それにしても国境越えてからで良かったね、このままカタヘルナに向かえるから」



 ストレージに入れてある縄を取り出し、手分けして縛り上げていく。

 数百メートル先にアジトがあったが、大氾濫スタンピード後に住み着いたのか戦利品的な物は見当たら無かった。



「うぐ…っ、クソッ、よりによって最初に襲ったのが噂の賢者かよ…!」



 頭領らしき男が地面に這いつくばったまま悪態をついた、どうやら私達が獲物1号だったらしい。



「アイル、コイツらをどうするんだい? このままカタヘルナまで連れて行くより…私なら木にでも縛り付けて魔物の餌にしてしまった方が面倒は無いと思うが…」



 エドは薄い笑みを張り付けたまま私に目を付けた変態お仲間に視線を向けた、エドの言葉に盗賊達が息を呑む。



「ウチのリーダーはリカルドだからリカルドの判断に任せるよ」



 私がそう言うと盗賊含めて皆の視線がリカルドに集まる。



「アイルは極力殺したくは無いだろう? 連れて行ったら奴隷落ちさせる分収入になるからその方が良いだろ。それにどうやら今回が初めてだったみたいだからな、何の収穫も無く魔物の餌は流石に可哀想だろう?」



 リカルドの決定により命は助かる事になったので盗賊達はホッと息を吐いた。

 ロープに繋いだ盗賊達を連れて行く為、移動速度がガクッと落ちてしまう、ロープを外して走らせたらもっと速く移動出来るんだけどなぁ。

 2時間程進むと森が途切れ、休憩出来る場所に到着した。



「お昼は何にしようか…」



「あ、オレカレーが食いてぇ」



「いいねぇ、僕も食べたくなっちゃった」



「じゃあお昼はカレーで決まり!」



 モステレスで米の補充はバッチリ、魔導炊飯器も厨房にあった物をいくつも同時に使わせてもらったのでお替りし放題だ。



「美味い…、ガブリエル様には悪いけれど、同行出来て本当に良かったと思いますよ」



 セシリオがカレーライスを頬張りながら言った。



「あら? アイルの食事だけ?」



「もっ、もちろん1番はビビアナと…その…」



「んふふ、アタシとなぁに?」



 ニコニコと嬉しそうにセシリオを追い詰めるビビアナ、そんなバカップルなど目に入っていない様に盗賊達はカレーをガン見していた。

 犯罪者に食事なんて与えなくて良い、1日くらい食べなくても死なない、というエドの意見により食事無しなのだ。



 お腹空いてる時にカレー臭って罪だよね、私はこれ見よがしに寸胴鍋とご飯をよそったお皿を盗賊達の前に置き、ゆっくりルーをお皿に入れながら質問した。



「あなた達、いつから盗賊なんて始めたの?」



「ふ、2日前からだっ! 頼む、俺達にも「どうして盗賊なんか始めたの?」



 頭領の言葉を遮り質問を続ける。



「大氾濫のせいで村から避難して戻ったら…村がめちゃくちゃになっててどうしようも無かったんだよ! 大氾濫中は避難先の町で炊き出しもあったが終わったらそんなモンは無ぇ、畑も家畜も全部やられてガキに飯も食わせてやれねぇ…、ふぐ…っ」



 頭領が泣き出すと他の盗賊達も泣き出した、どうやら本当の事の様だ。

 そして変態エドのお仲間は元々そういう趣味なので村でも女の子は近付かない様に親に注意されていたただの変態ロリコンだった。



 この盗賊達は他の村人を食べさせる為に発足したばかりのにわか盗賊だった様だ、確かに前面に出ていた人達以外は結構ヒョロいただの村人といった感じの人が多い。

 仕方ないので全員に洗浄魔法を掛けてから1人一杯の制限をつけてカレーライスを提供した。

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