第216話 盗賊初心者救済プラン

「う、うめぇ! 何だコレ!!」



「子供達にも食べさせてやりたい…」



 食べかけのお皿をジッと見つめる者、一心不乱に掻き込む者と様々だったが、どうにかしてやりたいと思うには充分な光景だった。



「アイル、君が優しいのは知っているが彼らの面倒を見るのは領主の役目だよ」



 食事の手を止めて考え込んでいた私の肩にそっと手を置き、言い聞かせる様にエドが言った。



「この近隣町や村もカタヘルナの領主と同じはずだから救済する分の予算は大氾濫スタンピードでの儲けでたっぷりあるはずだよ。だから領主に今回の立役者であり賢者様のアイルからひと言しっかり救済する様に言えばいいんじゃないかな?」



「そうだな、コイツらは初犯でしかも未遂だ、領主がしっかり救済をしていなかったせいで盗賊になるしかなかったという状況から大目に見る様に口添えすれば軽い罪で済むだろう。しかし現状を知らせる為にも何も無かった事にして赦すのは得策じゃないぞ」



「それなら連行する時に事情を周りに吹聴しておいた方が良いかもしれません、万が一にでも領主が隠蔽出来ない様に。救済するより村ごと潰して無かった事にした方が領主からしたら楽ですからね」



 王都で貴族と共に過ごしているセシリオの意見に盗賊初心者達は顔色を変え、縋る様な目を私に向けた。



「ふむ…、カタヘルナの領主か…、ここ30年程変わって無いはずだな。アイル、君が話をつけに行くというのなら私とエリアスを連れて行くと良い。カタヘルナの領主はクセの強い人物だから真っ直ぐな性格だと相手しづらいだろう」



「え、ちょっと待ってよエドガルド、それどういう意味!?」



「ふふん、腹の探り合いするのが楽しいと思える奴の方が今回は適任だと言っているんだ、そういう性格だと自覚してるだろう?」



「………まぁね」



 抗議の声を上げるエリアスをエドはさらりと躱した、確かに交渉する時エリアスが居てくれたら心強いかも。

 そんな訳で腰のロープだけで手足を自由にした盗賊初心者達には頑張って走って貰ってカタヘルナへと急いだ。



 休憩を減らしたが予定より3時間程掛かったのでとっぷりと日は暮れている。

 私が賢者でなければ外壁の外でひと晩過ごす事になっていただろう、盗賊初心者達を衛兵に預けて翌日領主に会える様に手配して貰った。



「さてと、俺たちはまず宿をとらないとな、前にギルドが用意してくれたところにしておこうか、アイルの事を知っているから今更騒いだりしないだろうし、馬や馬車も預けられるからな」



 宿屋に到着したらいつの間にかビビアナとセシリオの姿が消えていた、リカルド曰く作戦の為に盗賊初心者達の事を吹聴する為にデートしてくるんだって。

 多分理由としては逆だと思う、だって今夜の私の部屋は1人部屋だから。

 ビビアナとセシリオはデートしてそのまま酒場の宿を利用するのだろう。



 私達は荷物や馬車を置いて冒険者達が利用する食堂兼酒場へと足を運んだ。

 すると私が治した人も結構居たらしく囲まれてしまいエドが殺気立っていたが、噂をばら撒くには都合が良いので大きいテーブルで相席しながら食事した。

 大氾濫終息直後の酒盛りに参加したから今夜は祝いの席にはカウントして貰えずガッカリ。



 食事をしつつ周りの冒険者に盗賊初心者達の事や、明日領主の所へ話をしに行く事をさりげなく話すと、かなり同情的な意見が多かった。

 壊滅状態とまでは行かなくても、被害の出た村や町は結構ある様だ。



「だがよぅ、賢者様たる嬢ちゃんが居てくれたから今回カタヘルナはほぼ無傷だったからな、普段ならもっと外壁の修復や冒険者への見舞い金やらでもっと予算が掛かってたはずだぜ」



「だな! これで被害を受けた村や町を助けねぇっつったら領主が着服してるって事だろ。その場合は俺達が王都まで悪徳領主だって噂が広まるくらいに言いふらしてやるから安心してくれ、なぁ皆?」



「「「「おぅっ」」」」



 よしよし、冒険者達は完全に味方になってくれたな、噂が広まっている事がそれとなく領主の耳に入ると良いんだけど。



「そういや美人の姉ちゃんは一緒じゃないのか?」



「デートに行っちゃった…」



 私の右隣はエドがずっとキープしてるけど、反対側は入れ替わり立ち替わり冒険者達が話し掛けに来ていて、その内の1人がビビアナが居ない事に気付いて聞いてきた。



「ははは、なんだ寂しいのか? 大丈夫だって、嬢ちゃんにもいつかイイ男が見つかるよ!」



 自分で思うよりションボリした声が出てしまい、慰められてしまった。



「隣に居る男に目を向けてくれたら嬉しいんだけどね? まぁ私は側に居て姿を見られるだけで幸せなんだが」



 エドはそう言いながら身体を傾けると、半袖から出ている二の腕にチュッと音を立ててキスをした。

 日本人だったら絶対しないであろうその行動に正直引いてしまった。



「へぇぇぇ、案外やるじゃねぇか嬢ちゃん! こんなイイ男手玉にとるたぁよ!」



 酔っ払い冒険者は笑いながら私の背中をバシバシ叩くと立ち上がって他の席に向かい、エドを親指で指してながら何やら話してしている。

 話を聞いていた冒険者達も好奇の目をこちらに向けているので明日には賢者小悪魔説でも流れているかもしれない。



 翌日、カタヘルナにある領主の館へ向かった私達は、田舎だけじゃなく都会も噂が広まるスピードが凄い事を認識させられた。

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