第217話 カタヘルナ領主 vs ◯◯
翌朝、朝食前に戻って来たビビアナの話によると、領主館で働いている人達がよく行く酒場を周りから聞き出して行き、それらしい人達の耳に盗賊初心者達の話が耳に入る様に話して来たとか。
デートが第一目的だなんて思ってごめんなさいと心の中で2人に謝る私。
そしてお昼前に領主館へ向かう事になった私とエドとエリアス、お迎えの馬車をわざわざ用意してくれたのは良いけど、お昼前という時間帯な辺りがサッサと帰れと物語っている。
そこそこゴテゴテした高級品らしい装飾が施された部屋に通されるとお茶が出された。
「あ~…、やってくれてるねぇ…」
「アイルどうしたの?」
カップを手に取ろうとしたらお茶に不自然な程リラックス成分が入っていると鑑定能力が教えてくれた。
ほんの少しなら緊張を解す為に一般的に飲まれるが、ぶっちゃけコレを飲んだら一時的に深く物事を考えられなくなるやつだ。
ちょうどお茶に口を付けようとしたエリアスが私の呟きを聞いて手を止めた。
「このお茶飲むと…と~~っても気分が楽になるみたい、難しい話をしたくなくなるくらいにね」
「………わぁ」
エリアスはそっとカップをソーサーに戻してテーブルに置いた。
お茶を淹れてくれてそのまま控えているメイドの顔色は可哀想なくらい血の気が引いている、命令したのは領主だろうから直接制裁を加えたりしないのに。
15分程待たされただろうか、普通なら確実にお茶に口をつけている時間が経ってから領主は現れた。
「賢者殿、お待たせして申し訳ない。私がこの領地の領主マウシリオ・デ・ボルボーンです」
好々爺の笑みを浮かべたお爺ちゃんにしか見えない人物がこの辺りの領主の様だ。
ソファに座ると同時に私達の前に置かれたカップを確認したのがわかった。
「時間をとって頂きありがとうございます、Aランクパーティ『
「ほほっ、賢者殿が我が領民の事を考えて下さるとはありがたい事です。もちろん私も…ッ!?」
「? どうしました?」
いきなり言葉に詰まった領主の視線を追うと、視線の先には薄く笑うエド。
「お久しぶりですね、またお会いするとは思いませんでしたが」
「な、な、何故…シル「おっと、お互い昔の事は口に出さない方が宜しいかと。私は過去もひっくるめて私という人間を受け入れてくれたアイルを一方的に慕っているただの哀れな男ですのでお気になさらずに」
「エド!? いきなり何を言い出すの!?」
領主の様子もおかしいが、エドの態度も妙だ、もしかして昔の顧客的な…!?
それならエドの姿を見て動揺するのは理解出来る、組織は壊滅してるのに暗殺依頼した事もその標的も知ってる人物って訳だもんね。
「ははは、本当の事じゃないか。領主様が有能だという事はよく存じておりますので心配はしておりませんが、今日から救済措置をとるとご本人からお聞かせ願えますか?」
エドはニコニコと愛想良く笑っているが、エドが言葉を紡ぐ度に領主の顔色はドンドン悪くなっていった。
「あ……け、賢者殿の進言確かに受け取りました、盗賊に手を染めようとした者達も一晩牢で反省した事でしょうから、今日から行う炊き出しの手伝いをさせる事で刑罰の代わりとしましょう。救済措置が必要な村や町からちょうど訴えが届いていますのですぐに取り掛かります。カタヘルナの中でも昨夜から噂になっている様ですし」
エドの方には視線を向けず、私に集中して話す、エドがジッと見ているせいなのかとうとうプルプル震え出したが、すぐに行動してくれると約束してくれたからまぁいいか。
どうせ後ろ暗い過去をエドに握られてるからか、それともエド本人が怖くてビビってるかだろうし。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ? 出された物で恐縮ですがお茶を飲まれては? 今の貴方に必要な成分が入っている様ですし?」
エリアスがニッコリ微笑みながらソーサーごとお茶を領主の方へ押しやった。
お茶の細工に気付いている事をアピールしつつも表面上波風を立てないのは流石だ。
「では私達はこれで失礼します、領主様が今日から救済措置を行ってくれる事を待っている人達に報告しないといけませんし」
「待ってる人…とは?」
そのままポックリ逝くんじゃないかと心配になる顔色になった領主が絞り出す様に聞いて来た。
「大氾濫の被害を受けた村や町出身の冒険者達が大勢領主様の判断結果を知りたがっておりますので、では失礼します」
いひひひひ、これで約束を反故にしたら冒険者の暴動が起きかねない事も理解出来ただろう。
カタヘルナの発展具合やエドの言葉を信じるなら領主が有能なのは間違いなさそうだし、後は任せて大丈夫でしょ。
コレは完全勝利(?)という事で今夜は祝杯をあげる流れになるのではないかと期待しつつ、皆が待つ宿屋へと戻った。
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