第95話 乙女の顔
「兄さん、皆、道中気をつけて」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
ラファエルと使用人の皆さんに総出で見送られ屋敷を出発した。
今日でやっと王都を出てウルスカに向かうので、元気の無かったラファエルには申し訳ないけど皆内心ウキウキしてる。
門前に向かうとタイチとアデラが見送りに来ていた、既に通信用の魔導具は受け取ったので月イチで定期連絡を取る約束をしている。
2人に見送られながら門を潜って街道へ出ると、誰からともなく皆が息を吐いた。
「やっと帰れるぜ~、また帰るのに1ヶ月掛かるけどよ」
「あっ、ねぇねぇ、来る時に
「あら、エスポナだったら王都と品揃え変わらないんじゃない?」
「もしかしたら
「あ、直営店ならあるはずだよ。確か逆にエスポナと隣接してるセゴニアの領地にも王家御用達の店が出店してるはずだから。何十年も前からなんだけど、戦争してもお互い店には手を出さないって取り決めした時は揉めて揉めて大変だったんだよね~」
「…ッし!」
直営店があるとのガブリエルの言葉に私は思わずガッツポーズした、お酒を買う事に関しては皆賛成なので何も言わない。
でもきっと試飲の時はまた量を減らされるんだろうな。
「アイルは弱ぇクセに酒が好きだよな」
「僕からしたら逆に安上がりで羨ましいけどね」
「確かにすぐに酔えるというのは羨ましいな、俺達だとアイルの3倍飲んでやっとほろ酔い程度くらいか?」
「そうねぇ、あたしもそれくらいかしら」
「私はどれだけ飲んでも酔うという感覚がよくわからないんだよね、酔うより先にお腹がタプタプになってしまうから」
く…っ、酒豪共め…、ガブリエルに至ってはザルを超えてワクというやつだ。
そういえばお酒の席で赤い顔を見た事無かったもんね。
「そういえば酒豪の多い地域出身の先輩に「吐いて吐いて強くなるんだよ」って笑顔で言われた事あったなぁ、次の飲み会から言われなくなったけど」
「お前…、絶対ソレ酔っ払って何かやらかしてるだろ。次の飲み会から逆に止められたりしてねぇか?」
「……………」
「はん、やっぱりな」
ホセに鼻で笑われてしまった、でも言い返せないくらい心当たりがあり過ぎる、先輩方ごめんなさい、私の愚行をお許しください。
もう2度と会う事は無い先輩達に心の中で謝った、だって食事に誘われる事はあっても合コンとか飲み会の誘いが殆ど無くなったもん、後輩達からも飲み会の誘いは無かったから先輩達から聞いたんだと思う。
でももう時効ってやつよね!
自室で飲む分には解禁だから買い溜めしておいて損は無いと思うの。
ウォッカもあるし~、これでカクテルだって作れちゃうもんね、よく飲んでたやつしかレシピ知らないけど。
「ふんだ、そういう意地悪言うホセにはカクテル作っても飲ませてあげないんだからね!」
「んぁ? 何だそれ、酒なのか?」
「ふっふっふ、複数のお酒とか、お酒と果汁を混ぜて作る美味しいお酒の事よ! あっ」
ドヤァァと胸を逸らしたのでホセの胸元にポスンと頭がぶつかり、そのせいでバランスを崩したが咄嗟にホセがお腹に腕を回して支えてくれた。
「ふぅん、じゃあ落馬を阻止した恩人のオレには当然ご馳走してくれるんだよな?」
顔を見なくてもニヤニヤしながら言っているのがわかる、悔しくて鼻に皺を寄せていたらバランスを崩した私を支えようとしてくれたのか、いつの間にか横に来ていたリカルドが吹き出した。
「ぶふっ、アイルが凄い顔になってるぞ」
「酷ッ!? お年頃の女の子に何て事を!」
「ははは、本当にお年頃の女の子だと言うのならそんな顔はしない事だな。少なくともそんな顔をした女は見た事無いぞ」
「お前…一体どんな顔したんだ? ほれ、見せてみろ」
「もうしないよ、お年頃の女の子だからねッ! んむっ、やむぇてよ~」
「ははっ、変な顔」
ホセが背後から片手で頬をつぶす様に顔を捕まえ、無理矢理上を向かせてきた。
頬の肉が持ち上がって殆ど目を開けられないが、薄っすらとニヤつくホセの顔が見える。
乙女の顔をオモチャにするなんて酷い。
「いい加減にしなさい!」
「ギャンッ」
どうやらビビアナがホセの尻尾をギュッと握った様だ、前にうっかりホセの尻尾を踏んだ時と同じ様な声を上げたし。
「全く、遊ぶならせめて馬に乗って無い時にしなさいよ。アイルが暴れて落馬したらどうするの!」
「ちぇ、わかったよ…」
ビビアナ…そこはアイルを虐めるなって言うとこだと思うの。
どうやらビビアナの中では私も一緒になって遊んでいる事になっているらしい。
そうこうしているとお昼になり、休憩場所で食事する事になった。
お昼ご飯は皆大好き唐揚げ、屋敷で料理人達に手伝って貰って作ったもの。
そして食事が終わりかけた時、最後のひとつにホセが手を伸ばし掛けたところを掻っ攫い、パクリと自分の口放り込んでドヤ顔する事により馬上での仕返しを完遂した。
そのドヤ顔を見たリカルドにまた笑われちゃったけどね!
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