第96話 ガールズトーク

 王都を出発してから2日目、行き道で氷漬けにした盗賊を引渡した町に夕陽が傾きかけた頃到着した。

 目を凝らすと遠くに街道の崖が僅かに烟って見える。



「先に行って宿をとっておいてくれ、部屋を確保したらゆっくりしていいからな、俺は行きに引き渡した盗賊の褒賞金を受け取ってくる」



 引き渡した盗賊達は余罪を確認してその凶悪度によって褒賞金が決まるので人数が多いとすぐに確認出来ない為、帰りに受け取ると言ってあったのだ。

 町の入り口でリカルドと分かれて私達は先に宿へとむかった、町に厩舎のある宿は多くないので馬を見ればどこにいるのかすぐわかる。



「はぁ、今日は何だか疲れたから早く休みたいわ」



 いつも元気なビビアナが王都を出てから時々ため息を吐いていて、段々元気が無くなってきた気がする。



「ビビアナ、具合悪いの? 熱は無い?」



 そんなに大きく無い町なので下馬して歩いていた為、近付いてそっと額に触れたが熱は無い。



「ふふ、大丈夫よ、ありがとう。ちょっと…、うん、ちょっと疲れただけ」



 明らかに疲れただけとは思えなかったけど、ビビアナはそれ以上何も言わなかった。

 エリアスは何か知ってそうだったけど、それとなく聞き出そうとしたら微笑んで誤魔化された。



 宿の部屋は半分埋まっていたので2人部屋2つと1人部屋をとり、獣化したホセが私と寝る事になった。

 ガブリエルがゴネるというお約束展開にはなったけど部屋が無いんだから仕方ない。

 他の空いてる部屋は4人部屋と1人部屋なのでどちらにしてもガブリエルは1人部屋になるのだ。



 リカルドも合流した後夕食を済ませて各自が部屋に戻り寝支度を済ませる。

 私はコッソリとホセにある計画を持ちかけた、ビビアナを酔わせて悩みを聞きだそう作戦だ。



 計画はこうだ、ホセには先に寝たふりをしてもらい、王都で手に入れたウォッカを使って口を滑らかにさせるというもの。

 ビビアナがトイレに行った隙に計画を持ち掛けると、ホセはあまり気乗りしない様子だったが何とか協力してくれる事になった。



「一応協力はしてやるけどよ、どうなっても知らねぇぞ?」



「ん? ビビアナの酒癖は悪くないよね?」



「まぁな。はぁ……くだらねぇ話なのによ」



「何か言った?」



「いぃや、何でもねぇよ」



 そう言うとポイポイと服を脱ぎ出したので慌てて反対を向く、するとすぐにゴソゴソとベッドに潜り込む気配がした。

 そして王都の屋台で仕入れた100%のオレンジジュースを取り出し、魔法で出した氷を入れたコップにウォッカと半々にして混ぜる。(真似しないで下さい、えらい事になります)



 私の手元にはただのオレンジジュース、準備が出来たところでビビアナが戻って来た。

 部屋に入って来たビビアナにコップを差し出すと、不思議そうに首を傾げた。



「どうしたの? オレンジジュース?」



「ううん、これはねカクテル。スクリュードライバーっていう美味しいお酒なんだよ。あ、私のはジュースだから安心してね」



「ああ! 昨日ホセと言い合ってたやつね、ホセは…もう寝ちゃったの? 折角アイルがお酒作ってくれたのに」



「うん、だから偶には女だけで飲も?」



「ふふ、それもいいわね」



 ビビアナはコップを受け取ると自分のベッドに腰掛けてひと口飲んだ。



「ん…っ!? 結構強いのね、でもすっごく口当たりが良くて飲みやすいわ」



「だろうねぇ、女殺しレディーキラーの代表格と言っても過言じゃないもん」



「あらヤダ、そんな怖いお酒なの?」



「うん、今回はビビアナに合わせて強めに作ったけど、本当はもっと弱いの。だけど飲みやすくて気付いた時にはフラフラになってたりするから女性を口説く時の定番らしいよ。他にもコーヒーと牛乳を混ぜた味のものとか、ざくろのグロナデンシロップを使った夜明けの空みたいに綺麗なのとか色々あるけどね」



 懐かしいなぁ、チーママというあだ名の友達がカクテル作って飲ませてくれたのを思い出す、私に3杯までと言った子だ。

 あ、ショートカクテル作るならカクテルグラスとシェーカーが欲しいな、そういや王都の酒屋の隅っこに調理器具っぽいのあったけど、もしかしてカクテル用の道具だったりして。



 懐かしい事を思い出している間にビビアナは1杯目を飲み干した、珍しく既に頬がほんのり染まっている。

 さっきより少しウォッカの量を減らしておかわりを作って渡すと、1杯目より飲むスピードが上がった。



「うふふ~、あたしコレ気に入ったわ。他の種類もあるなら飲みたいな~」



「じゃあジュースをグレープフルーツに変えようか、ブルドッグっていうんだけど、私はグラスの縁にレモン塗って塩を飾ったソルティードッグの方が好きかなぁ。やっぱりカクテルグラス探そう、うん」



 3杯目を作りながら思考が口から漏れる、ジュース多めのロングカクテルもいいけど、シェーカーでキンキンに冷やしたキツめのショートカクテルも好きだ。



「ぷはぁ、ほんのり苦味があってコレはコレで美味しいわね。んふふ、アイルありがと~」



 コップをサイドテーブルに置いたかと思ったら抱き締めてチュッチュと頭や頬にキスを落とす、いい感じに酔っ払った様だ。



「ビビアナ、王都出てから変だけど何かあったの?」



「王都……、う、セシリオ…っ」



 クシャリとビビアナの綺麗な顔が歪んだ、そういえばセシリオとデートしてたのに離ればなれになっちゃたもんね。



「そっか、セシリオとはこれからも連絡取ってお付き合いするの?」



 よしよしと背中を撫でながら聞く。



「ううん…、『次にいつ会えるかわからない私の事は忘れていいから素敵な人が居たら逃がしちゃダメよ、幸せになってね。だけど再会した時に特別な人が居なかったらまたデートしてくれる?』って言ってきた…」



 うわー、私が男だったら男気スイッチ入っちゃうセリフ、ますます好きになるやつだよ。



「セシリオは…何て?」



「宿の部屋だったから…黙ったままキスされて…3回戦に突入したわ…」



 3回戦なんかーい!

 思い出したのかうっとりとした顔をするビビアナを見ながら心の中でツッコんだが、潤み始めた目に動揺する。



「うぅ…っ、次に会った時にすっごく手慣れてたらどうしよう、戸惑いながら言われるがまま頑張るセシリオが可愛かったのに…!」



「…………」



 どうやら私が心配した事とは違うベクトルの心配事だった様だ、そうか、離れて寂しいとか悲しいって訳じゃないのか。

 グズグズ言うビビアナを寝かしつけていたら私を抱き締めたまま寝てしまい、オレンジジュースを飲んだせいか危うく漏らしかけたのは秘密だ。

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