第238話 久々のもふもふタイム
商業ギルドに登録したレシピが増えた事もあり、私達がエドの屋敷に滞在して5日が過ぎた。
だけどエドと顔を合わすのは精々食事の時くらいで、殆ど執務室に閉じこもって仕事をしている様だ。
そのせいか食事の時に私の手を握っては撫でて「アイルが同じ屋敷の中に居るから耐えられるよ」と噛み締める様に呟いていた。
今日の午後で商業ギルドに登録した分の料理は教え終わったから明日にでもウルスカへ向かおうと思ってる、とは言える雰囲気では無い。
しかしどうやら今日で仕事がひと段落するらしく、いつもより機嫌が良さそうだった、これなら言っても平気かな?
「あ、あのねエド、今日で登録されたレシピを教え終わったから明日ここを出発しようと思ってるんだ」
「え…!?」
あ、エドが固まった……震え出したッ!?
「く…ッ、今までアイルの手料理を食べられただけでも幸運だったと思うべきか…!(料理人に言ってアイルが見本で作った分をエドガルドに出させていた)だがあと1日、1日だけゆっくり過ごしていってくれないか? 他の皆はともかく、アイルは毎日料理を作って大変だっただろう? まさか自分達だけのんびり過ごしてアイルを休ませずに出発するなんて事は仲間達も言わないだろう?」
エドはにっこり微笑んで皆の方を見た、実際『
私としては作る量は多くても、その分料理人が手伝ってくれたから普段と変わらないし問題無いんだけど…。
「そうだな、アイルも1日くらいゆっくりしてから出発しようか。ウルスカに向かうのは明後日にしよう」
常識人リカルドの配慮で滞在延長が決定した、せっかくだしのんびり過ごそうかな。
だったらお酒も飲んで良いよね、うひひひひ。
「アイル、祝杯はウルスカに戻ってからだからな」
何を飲もうか考えていたらホセがピンポイントで警告してきた。
「誰も飲むなんて言ってないじゃない」
「へぇ? じゃあ飲まないんだな?」
「の、飲まないもん!」
くぅっ、つい売り言葉に買い言葉で言ってしまった、3杯までしかって付け加えておけば良かったのに!
「おや、今夜は飲まないのかい? せっかくアイルが気に入ってくれたお酒を差し入れようかと思ったんだが…」
「え? そ、それじゃ「だけどアイルが怒られると可哀想だから帰りに土産として用意しておくよ」
嘘!? 前回は差し入れてくれたのに!
ほら、ホセ達も意外そうな顔してるし。
でもまぁ、自室で寝る前に飲んでもバレないよね、寝酒の1杯くらいなら次の日お酒臭いなんて事も無いだろうから平気だろう。
そう思ってたのに…。
「何だよ、来ちゃいけねぇのか?」
「イエ、ドウゾ」
お風呂から出てアイルコレクションを並べてどれを飲もうかと吟味していたらノックの音が部屋に響いたので、慌ててストレージに収納してドアを開けるとパジャマ姿のホセが立っていた。
ちょぴり後ろめたい気持ちだったせいか、表情がこわばっていたらしく片眉を上げて私を見下ろすホセ。
テーブルの上にオレンジジュースを注いだカップを置いて席を勧めると私をひと嗅ぎしてから椅子に座った。
「約束通り飲んでねぇみたいだな」
「と、当然よ、言った事は守るもんね。ところでどうしたの? 最近は私とビビアナの部屋で泊まるの嫌がってたくらいなのに」
泳ぎそうになる視線をカップに固定してひと口飲む、危なかった、ホセが来るのがもう少し遅かったらきっとお酒を飲んでた。
オレンジジュースも美味しいけど、これにウォッカ入れた方がもっと美味しく飲めるのになぁ。
「ここんとこ頑張ってたからな、たまにはご褒美も必要だろ? ちゃんと酒も我慢してたみてぇだしな」
ホセはニヤリと笑っていきなりパジャマのボタンを外し始め、脱いだパジャマを背もたれに引っ掛けると獣化した。
普段着てる
「ふぶぅッ、くくくっ、何でパンツだけ履いたままなの…っ!?」
笑う私を気にせずトコトコと近付いて来ると、太腿の上に顎を乗せて上目遣いで見上げてきた。
犬好きならわかるだろうけど、心を撃ち抜かれる可愛い仕草ベスト3には入るであろう行動を見てモフらずにはいられなかった。
パンイチというちょっと間抜けな姿がまた可愛くて卑怯だと思う。
「何!? 何なの!? 一体何を企んでるの!? さてはご飯のリクエストがあるんでしょ! もぉ~、こんなサービスしなくても作って上げるのに~むふふふ。パンツ邪魔じゃない? 脱がそうか?」
そう言ってパンツに手を掛けようとしたらテシッと前脚で手を押さえられた、どうやら脱がして欲しく無いらしい。
確かにこれが人型だったらヤバい絵面だもんね。
久々のもふもふタイムに最終的にベッドに連れ込み腹毛に顔を埋め、ホセがうっとりするくらいマッサージしまくり心がかなり潤った。
そういえば最近はお酒を飲んで空を思い出して泣く事が無くなったなぁ、それに関してはかなりホセの存在が大きいかもしれない。
それでも泣こうと思ったら空を思い出すだけで秒で泣けるけど。
「いつもありがとね、ホセ」
おでこにチュッとキスをする、人型の時には出来ないけど、獣化してる時はつい気軽にやってしまう。
ホセも気にして無いみたいで何も言わないから大丈夫でしょ。
久々の温もりにいつの間にか睡魔に襲われていた。
[side ホセ]
オレの毛に顔を埋めていたと思ったら、いつの間にか寝息が聴こえていた。
全く、2人きりだっていうのに無防備にも程があるだろ、それだけ意識されていないという事実に少し気分が落ち込む。
しかも明日一緒に出掛けようって誘い損ねちまった。
「ベッドに連れ込んだのはお前だし、襲われても文句は言えねぇぞ」
あまりにも安心しきった寝顔を見ていたらムカついたので軽く鼻を摘んでやった。
「んむ…、うぶぅ…」
「ククッ、何だよその寝言…。はぁ、部屋に戻るか…、おやすみ」
さっきされたお返しとばかりに額にキスを落とし、夜着を着直して部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます