第237話 お料理教室 in トレラーガ

「じゃあ行ってくるね」



「うん、よろしく!」



 セサルをともないエリアスが商業ギルドへ向かった、ここに居る間に作ろうと思ってる料理名を料理人に確認してもらって登録出来るものと出来ないものを仕分けたのだが、新しいのか日本独特なのかそれなりの数を登録する事になった。



「さぁ、まずはクリームコロッケに取り掛かろう、冷やしてる時間に他の物を作れば良いし」



「楽しみだなぁ」



「あ、ガブリエルは邪魔しない様にね。今回は料理人の人達が居るから味見要員も必要無いし」



「そんな…っ」



 とてもショックを受けた顔をしているが、むしろこの状況でどうして味見出来ると思ったのか謎だ。



「今から作ればお昼には食べられると思うから昼食を楽しみにしててね、赤鎧だけじゃ無くプレーンとコーンのやつも作るから。リカルドとホセも暇だろうし誘って冒険者ギルドで依頼を受けてお腹空かせて来たら? その方がたくさん美味しく食べられるからね」



 ヒラヒラと手を振って厨房へ向かう私、ガブリエルはリカルドとホセに相談するのか、大人しく階段を上って行った。

 エドの屋敷に勤めている料理人は3人、商人達の食事も必要なので休みも交代でとっているらしい。

 今回はそこへエドがオーナーをしている食堂の料理人が2人追加された、服屋をやってるのは知ってたけど、どれだけ手広くやったるんだろう。



 まずは今日の昼食分の3種のクリームコロッケの為にホワイトソースを作る、茹でたコーンと赤鎧はストレージに入っているので、プロの料理人達がホワイトソースを作ってる横でチマチマと赤鎧を解す私。



 最初は私が賢者だと知ってガチガチになってた料理人達だけど、料理の話をしていたら段々緊張が解けた様だ。

 やっぱり共通の話題で盛り上がると仲良くなれるのはどこでも変わらないね。



 コロッケは私が来る前からあったけど、クリームコロッケは近代の日本で生まれたから誰も知らなかった。

 普通こんなトロトロのホワイトソースを揚げ物にしようなんて考えないよね、考えた人って天才だと思う。



 タネを作って冷蔵庫で1時間以上冷やすので、その間に何を作るか聞いたら声を揃えてカレーと言われた。

 どうやら先に戻って来た冒険者達から噂を聞いていたらしい。

 1時間もあればカレーは作れるし丁度いいかも、1人には先に飴色玉葱を作ってもらう事にした。



「家庭で作る時は人参の後に入れて最低でも透明感が出るまでってすれば良いけど、お店で出すなら飴色玉葱を使って欲しいかな、食感の為に追加で入れるのもありだけど。スライスした玉葱に油をまんべんなく絡めてフライパンの上で気持ち弱い中火で5分放置して、端っこが茶色くなって来たら全体をひっくり返してまた5分、その後は焦げ付かない様に炒めていけば楽に飴色玉葱が出来るからね」



「放置したら焦げるんじゃ…」



 フライパンの上の玉葱を見ながらおずおずと食堂の料理人が言った。



「私も最初そう思ってたけど、油でコーティングされてると意外に焦げないんだよね。心配なら見てれば良いよ、どうせ大事な作業はコンロが必要になるから隣でするし」



 そして改良に改良を重ねたスパイスの配合を教えて小麦粉でとろみをつけたジャパニーズカレーが出来上がった。

 林檎、蜂蜜、醤油、赤ワイン、ソース、ケチャップ、チョコレート、牛乳等の隠し味も惜しげなく教えてあげたら商業ギルドのレシピに載って無い秘訣まで教えて貰えたと凄く感謝された。



 一旦出来上がったカレーは寝かせておいて、クリームコロッケ作りを再開。

 魔道具で空調が効いてるとはいえ今は夏、手早く形成しないとホワイトソースが緩くなってしまう危険性がある。

 2人1組の3チームに分かれて3種のコロッケを作っていく、衣をつけてまた30分程冷蔵庫で寝かせ、その間に調理器具の片付けと次に作る物の相談。



 コロッケで揚げ物をするからという事で唐揚げに決定した。

 唐揚げくらいなら見本なんて見なくても作れるだろうから必要無いかと思ったけど、料理人達の熱意に押されて作る事に。

 多分味見をしたいからだと思う。



 30分あれば鶏肉を切って漬け込んでおく時間はある、ただニンニクや生姜をすり下ろす時間は無いのでビビアナが頑張ってくれたやつを出そう。

 大丈夫、ちゃんと後で代わりの分すり下ろして貰うから。



 唐揚げは醤油ベースと塩唐揚げの2種、ついでに小麦粉と片栗粉半々の唐揚げと、片栗粉だけの竜田揚げにしよう。

 個人的には揚げたてならカリカリの竜田揚げが好きだったりする、お弁当みたいに時間が経つなら柔らかい唐揚げが良いけど。



 コレも一応商業ギルドに登録してある、粉が違うだけだから同じ料理で良いという私に対して、名前が変わるなら別物と主張するギルド職員と一悶着あったのも良い思い出だ。

 商業ギルドの職員らしく、儲けられる時は儲けるべきだという主義だったらしい。



 昼食の時間が迫った頃には厨房から温め直したカレーと、揚げたての3種のクリームコロッケと唐揚げの匂いが漂っていた、そして皆で試食。



「う、美味い…!」



「こんな食感初めてだ」



「辛いのに甘さもあって…美味い!」



 全種類ひと通り食べながら口々に感想を言っている、ちなみに私は食べて無い、何故なら少しずつとはいえ全てを試食したら食事が入らなくなるからだ。

 そしてふと視線を感じて振り返るとホセとガブリエルが厨房のドアの隙間からこっちを見ていた。



「うわっ!? びっくりした~、そんなところで何してるの!?」



 2人に声を掛けるとホセがジトリとした目を向けて来た。



「お前…、こんな匂いさせておいて昼はカニクリームコロッケだけとか言わないよな?」



 ホセの言葉に同意する様に隣でガブリエルがコクコクと頷く。

 なるほど、カレーや唐揚げの匂いもするのに食べられないのかと聞きに来たのか。



「ふふ…、ホセ、カツカレーって覚えてるでしょ?」



「ハッ、お前まさか…」



「そう! 揚げ物はカレーにトッピング出来るのよ!!」



「天才か…!!」



 ホセとガブリエルの要望により、その日の昼食はとってもボリューミーになった。

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