第98話 寄り道
エスポナを出て数日後、私達一行は森を切り拓いて作られた街道に差し掛かった。
こういう所は討伐されても定期的と言って良いほど盗賊が現れるので警戒が必要だ。
探索魔法で待ち伏せが無いか確認しながら進む、幸い森の中にいくつか村が点在しているお陰で盗賊達はマメに討伐されてるのか居ない様だ。
しかし探索に引っかかった不自然な人影、さっきからずっと動いてない、休憩ならとっくに動き出しているはずなのに。
「ねぇ、さっきから1人で動かない人が居るんだけど、怪我でもして動けないのかもしれないから様子見に行っていい? 近くに
一応今の私達はガブリエルの護衛、雇い主を放置して勝手な行動は許されないので許可を貰う。
「お人好しだねぇ、だけどそれがアイルだもんね、良いよ」
「ありがとう! 多分近くの村の人だろうから送って行くけど、先に進んでおく? 身体強化使えば追いつけると思うし」
あとは帰るだけなので急ぐ必要は無いけど、ガブリエルが早く帰りたいなら私の都合で遅らせるのは申し訳ない。
リーダーのリカルドもガブリエルの判断を黙って待っている。
「もちろん一緒に行くよ、でも酷い怪我なら大変だからアイルかホセが先行して後からついて行く方がいいかもね。馬がすんなり通れるか怪しいし」
「わかった! じゃあ私が先に行くね、ホセが居ればどこに居るかわかるよね?」
「ああ、一応気をつけて行けよ。何かの罠があるかもしれねぇからな」
「はぁい。『
身体強化を掛けて人影目指して一直線に駆け出した、これは1人で先行して正解だったかも。
足元に草というか藪というか、馬で移動したらちょっと時間がかかるかもしれない。
いきなり目の前に飛び出したら怪し過ぎるので、飛び跳ねる様に移動していたのを止めて歩いて近づく。
藪を掻き分けて進むとお婆さんが木の下で座り込んでいた。
「ヒィッ!?」
ガサガサと藪を揺らす音を聞いてお婆さんは小さく悲鳴を上げる。
「大丈夫ですか?」
「なっ、誰だいお前さん! 何でこんな所に!?」
確かに森の中でいきなり女の子1人で歩いてきたら怪しいかも。
でも探索魔法で見つけましたなんて言えないし…。
「あ~…、私冒険者なの。仲間も近くに居るんだけど、食料用に角兎でも捕まえようかと思ってたらお婆さんがいたのが見えたから怪我でもしてるのかなって…大丈夫?」
「ふ、ふん、紛らわしいね。薬草採りに来てちょっとつまづいて足を捻っただけさ」
プイっとそっぽ向いてしまった、チラリと足首を見ると少なくとも思いきり捻挫してるかそれ以上の怪我だと主張している腫れが見えた。
薬草を採取しに来たのなら最寄りの村人かな?
「お婆さん近くの村の人? 怪我してるなら送って行こうか?」
「何言ってんだい、あんたみたいなちっこいのにアタシが運べるはずないだろ! いいから行っちまいな、ここには角兎以外の魔物だって出る時あるんだ」
「………こう見えても力持ちだし凄腕なんだよ?」
その時ガサガサと藪が揺れ、角兎が顔を出した。
「早くお逃げ!」
お婆さんが言うと同時に私の棒手裏剣が角兎の眉間に刺さり絶命した。
「……………」
「ね? 凄腕でしょ?」
茫然とするお婆さんに角兎を収納しながらニッコリ微笑みかけると、何故か苦虫を潰した様な顔をされてしまった。
そしてお婆さんに近づいて背中を向けてしゃがむ。
「さ、背負って行くから乗って。潰れたりしないから安心してよ」
「あんたが勝手に助けたんだから礼なんて言わないよ」
「はいはい」
憎まれ口を叩いてはいるが、さっき角兎が現れた時に迷わず逃げろなんて言ってるんだもん、根が優しいのがバレバレだよ。
お婆さんに言われるままに進んで行くと村ではなく薬草の群生地に到着した。
まさか違う場所に向かってるとは思わず探索魔法を使ってなかったのだ。
「……村は?」
「薬草採りに来たのに怪我だけして帰れるもんか、ちょっと下ろしておくれ」
薬草に手が届く場所にそっと下ろすと手際良く薬草を採取していくお婆さん。
「ぼーっと見てないであんたも採取すりゃ多少の金になるだろ! 根っこは残して採るんだよ、来年にゃまた採取できる様になるんだから」
「はい…」
薬草を採取して再びお婆さんを背負い歩き出す、大きな森なせいか夕方より早い時間なのに少し薄暗くなってきた頃お婆さんを見つけた地点を通過して村へと到着した。
村の入り口には10人程人が集まっているのが見え、その内の1人が私達を見つけるとあっと声を上げた。
「あっ、婆さんが帰って来た!」
「本当だ、カサンドラさん心配したよ!」
「その子は誰だい?」
「えぇい、煩いね、この娘は通りすがりの冒険者だよ!」
「Bランク冒険者パーティ『
あっという間に村人に囲まれてしまった、どうやらこのお婆さんことカサンドラさんを心配して捜索に行く相談をしていたらしい。
「それはありがとう、その体格でカサンドラを背負って来れるなんて流石冒険者だね。さ、代わろう」
「村長、そんな事より腰の袋に薬草が入ってるからノエリアに届けておあげ」
カサンドラさんが壮年の男性に声を掛けた、どうやら村長さんの様だ。
「えっ!? もしかしてノエリアの為に…!?」
「馬鹿言うんじゃないよ、アタシの常備薬草が無くなったからそのついでさ。ホレ、さっさとお行き!」
「わかったよ、ありがとうなカサンドラ。すまないお嬢さん、あそこの柵のある家がカサンドラの家なんだ、連れて行って貰えるかい?」
「わかった「早くお行き! あんたも早く家へ向かっておくれ」
「はいはい」
どうやらこのお婆さんのツンデレは有名な様だ、キツイ物言いをしても皆ニコニコしながら受け流している。
照れているのか家へと急かすカサンドラさんを背負って歩き出した。
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