第474話 リカルドと二人旅 2

「そういえばリカルドと二人きりで野営なんて初めてだよねぇ。なんだか新鮮~」



 爆走姿を印象付けられたと確信した私達は、要塞都市エスポナまであと半日という所まで転移している。

 馬車だと3日の距離だが、見せつけた速度をキープしたら来れなくも無い距離だ。



 薄暗くなってきた野営地に隠蔽魔法を掛けたまま到着し、真っ暗になる前にテントを設置。

 ストレージには組み立て後のテントが入っているから設置時間は一秒だ。だけど固定する為のペグはその都度打ち付けなければならないから、二人でやって一分かな?



「そうだな。アイルが『希望エスペランサ』に入ったばかりの頃はランクを揃える為の依頼に付き合って二人で出掛けたが、野営するような依頼は三人が文句言うから受けなかったし」



 リカルドはしっかりテントが固定されている事を確認して立ち上がった。



「あはは。家を空ける依頼を受けて良いか聞いた時は料理を独り占めする気かってリカルドの事を責めてたもんね」



 私は差し出されたペグ用の金槌を受け取りストレージに収納する。

 次にリカルドが馬達にブラシをかけ始めたので、私は飼い葉と水桶を設置してからリカルドのお手伝い。



「依頼に付き添ってる俺が昼間アイルの弁当を食べてると知ってから、付き添いが交代制になったくらいだからな……」



「あったねぇ、そんな事。この世界に来てもう二年過ぎたのかぁ……って、あれ?」



「どうした?」



「王都の辺りは暖かいから忘れてたけど、もう私十七歳だ」



「もうそんな季節か、アイルと出会ってもう二年経つんだな」



 リカルドがこんなにアッサリした対応なのは、この世界では七歳と十五歳の誕生日だけが重要だからだ。

 七歳までに命を落とす事が多いから無事に育ったお祝いと、成人の節目。



 なので皆も誕生日を祝ったりせず、季節が過ぎたから何歳になった、くらいにしか思わないらしい。

 皆のお誕生会をしようかなと思った事もあったが、ホセの誕生日はおじいちゃんに聞けば今はわかるけど、孤児院出身だとわからない事が多い。



 赤ん坊の時に捨てられていたなら月齢で季節くらいはわかるが、物心つく前に置き去りにされた子なんかはわからないんだとビビアナが言っていた。

 ビビアナは一歳の時に両親を疫病で亡くして近所の人が預けに来たので、春生まれなのはわかるが正確な誕生日はわからないんだとか。



 そんな訳でお誕生日会をしようなんて言えなくなってしまったのだ。

 時々やってる酒盛りがパーティーみたいなものだから、お誕生日会をしなくても良いんだけどね。



「それじゃあ夕食にしようか。リカルドは何が食べたい?」



 二人だけなのでテントの中に入っての夕食だ。普段は人数が人数なので、同時に食べようと思うと寒い外で食べる事になってしまうけれど。



「今日は久々に馬で走って冷たい風をたくさん浴びたから身体が温まるようにシチューが食べたいな」



「ビーフシチュー? ホワイトシチュー? それとも残り少なくなってきた南瓜かぼちゃのシチュー?」



 シチューの種類を聞き返すと、リカルドが笑った。



「ククッ、南瓜のシチューが無くなってホセの機嫌が悪くなったらどうするんだ? アイルの安全の為にもホワイトシチューにしようかな」



「シチュー以外にも南瓜料理があるからいいのに。リカルドは優しいねぇ」



 リクエスト通りホワイトシチューをよそってパンと一緒に渡し、肉巻きアスパラとほうれん草のキッシュを出した。



「おお、今夜も美味そうだな。パーティ内が騒がしい時は大抵アイルかホセかエリアスが原因だからな、一応リーダーとしては平穏を保つ努力はするさ」



 そう言ってリカルドは肩を竦め、パンにシチューをつけて食べる。

 騒がしい原因だと言われて思うところはあるが、間違いでは無いので反論できない。よし、スルーしよう。



「一応だなんて。私はずっと頼れるリーダーだと思ってるからね? いざという時に守ってくれたり、咄嗟の判断力は本当に尊敬してるんだから!」



「お? 何だ? 何か頼み事でもあるのか? 野営中の酒はダメだぞ?」



「もうっ、違うよ! 本当に思ってるから言ったのに!」



「ははは、冗談だ、冗談。今日の食事も美味しかったよ、ごちそうさま」



 話しながらなのに相変わらず食べるのが早い、そしてさりげなく私が食べる分のおかずは残してくれている。



「ご飯足りた? もっと食べたいなら出すから言ってね」



「もう十分だ、ありがとう。それにあまり食べ過ぎても、皆と合流した時に太っていたら何と言われるか怖いからな」



「あはは、確かに特にホセが凄くうるさそうだよね。私も気をつけなきゃ」



 食事を済ませると、片付けついでに自分達にも洗浄魔法を掛けてテントの外に出る。

 よしよし、隠蔽魔法は掛けっ放しだから、野営地に居る他の人達には気付かれてないな。

 馬達も範囲に入るように障壁魔法を展開、風避けにもなるから寒くて眠れないなんて事も無いだろう。



 しかし夜はかなり冷える。空調魔導具付きテントだから大丈夫だけど、そうでなければリカルドにピッタリくっついて寝なきゃ耐えられなかっただろう。

 腕をさすりながらテントに戻り、防具を外すとストレージから出した寝袋に入り込んだ。



 二人で並んで寝袋に入っているのは何だか変な感じがする、いつもはビビアナやホセとは寝袋を広げて掛け布団と敷布団のようにして寝てるもんね。



「そういえばリカルドと二人で寝るのは最初に私が酔っ払った時以来だねぇ」



「そうだな、……あ、いや、あと一回あるぞ」



「え!? いつ!? 覚えてないんだけど」



「いつだったか……。そうそう、俺達がリビングで飲んで、アイルが部屋でひとり酒を飲んでた日に寝ようと階段を上がったら、アイルが廊下に落ちてたんだ」



「落ちてたの!?」



「ああ、最初は倒れてるのかと思って酔いも吹っ飛んだぞ、ははは。それで部屋に運んだらしがみついたまま離れなくてな、俺も眠かったから明け方まで一緒に寝てたんだ」



「…………その節はご迷惑をお掛けしました」



 どうやらまたひとつリカルドに頭が上がらない理由が出来たようである。

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