第230話 その頃の仲間達 2
リカルドが自作自演令嬢を躱して食堂で遅い昼食を味わっていた頃、ホセは花街へと来ていた。
ここ最近の自分の異常行動は忙しくて発散してないせいだと考えたからだ。
「考えてみりゃ
花街の娼館が左右に建ち並ぶ道を機嫌良さ気に尻尾を振りつつ歩き、午後から営業している娼婦達が窓から手を振る姿を眺めていた。
田舎の花街ではこうはいかない、娼館も数える程しか無いし、娼婦の人数も少ない為夜しか営業していないからだ。
これまで通過してきた町にも娼館はあったし、行こうと思えば出発までに戻りさえすれば問題も無かった。
ホセ達が夜に娼館に行って泊まってこようがアイルもビビアナも何も言わない、一見いつもと変わらず対応しているし世話もしてくれる。
ただ、何となくそういう日はアイルが素っ気なくなってる気がするだけだ。
アイル自身も気にしないと言っているし、本人もそのつもりの様だが無意識で拒否反応が出ているのだろう、ビビアナが夜帰って来なくても普段と変わらないところを見ると、お金で娼婦を買うという事に対してだとホセは考えている。
なので最近はこういう大きな都市の昼間に発散する事を覚えたのだ。
実際はアイルが娼館特有の
朝帰りすると翌日は1日中ほんのりと香の匂いがするからで、昼間だと夜お風呂に入った時点で匂いが消えるというだけだ。
鼻の良い獣人のホセでも、それがずっと当たり前だったし一晩居たら鼻も香に対して麻痺しているから気付かないままだ。
既にホセの歩いている通り自体に店の香の匂いが漂っている、その匂いに混じってある匂いを感じとるホセ。
「そこの獣人のお兄さん! 狼獣人かい? 今なら同族の女がいるぜ、獣人は同族が好きだろう!?」
呼び込みの男の言葉に耳がピクリと反応する、一瞬先日見た狼獣人姿のアイルが脳裏を
[side ホセ]
「あら嬉しい、同族が来てくれるなんて」
部屋に入るとビビアナに負けないくらい豊満な身体の同族が出迎えてくれた、表で嗅ぎ取った匂いはやはりこの娼婦のものだったらしい。
「通りまであんたの匂いがしたからな」
女の腰を抱いて首元に鼻先を埋めて匂いを堪能する、うん、この匂いだ。
「ふふ、同族を相手にするのは久々? それとも初めて?」
オレに話しかけながらボタンを外してシャツを脱がしてきた、娼婦歴が長いのか、かなり手慣れている。
「久々、だな」
もう今は引退したがトレラーガで世話になった娼婦が居た、10歳程年上だったせいもあって正に若造だったオレは翻弄されっ放しだったという苦い思い出だ。
彼女のお陰でどこの娼館でも負けない男になれたと言える、彼女は引退する直前に「アタシ以外の娼婦に翻弄されちゃダメよ?」と言い残し、ずっとその約束は守られて来た。
モステレスで見たアイルの夜着がお子様用に思える色気のある娼婦の服を脱がしてベッドに押し倒した。
久々の娼館、しかも同族という事で陽が傾くまで延長して愉しみ、終わった時には体力は使ったが心も身体もスッキリだ。
「はぁ…、こんなに乱れたの久々だったわ…、やっぱり人族より同族の方が体力もあってイイわね、うふふ」
女はベッドの上で裸のままオレの背中に抱きついた、柔らかな感触を背中で感じながらアイルだとこんな感触じゃないんだろうなと考えて頭を振る。
散々発散したのに何を考えてるんだオレは…。
「どうしたの?」
頭を振ったオレを不思議そうに見上げてきた、頭の片隅でビビアナが「この角度は甘える時に使えるのよ」とアイルの言うところのドヤ顔で言っていたのを思い出す。
「いや、やっぱり同族の女は良いなと思っただけだ」
振り向く様にして女の髪の匂いを嗅ぐ、同族ならではの安心する様な匂い。
すると女は少し媚びる様な声を出した。
「ねぇ…、私を
そう言いながらオレの腹筋の溝を指先でなぞる様に撫で、また元気を取り戻しそうになっているモノに手を伸ばしてきた。
焦らす様にやわやわと触れられながら身請けした場合の事を考える。
ぶっちゃけ今の蓄えだけでこの女を身請けして数十年生活させられるだろう、身体の相性は悪くないが最高という程でも無い、しかも身請けした後に娼館に行けばアイルは確実に時々
あいつ恋人や伴侶が居る奴が娼館に行っても浮気だって言うからな。
しかも身請けした女をパーティの家に住まわせるのは………ダメだろうな。
そうなるとアイルの飯を食う回数が確実に減る、この女を借りた家に置いたままオレだけパーティの家で毎回食うと言ったらアイルは家に帰れと言いそうだ。
そんな事を考えていたら萎えた、女の手を掴んでオレから手を離させると焦った様に胸を押しつけてきた。
「お願い、私をあなただけのものにして?」
「………悪りぃな、考えてみたがそれは出来ねぇ」
女を引き剥がして準備されている濡れたタオルで身体を拭き、服を着始めると女の顔つきが変わった。
「なにさ! アンタ賢者の仲間なんでしょ!? 大氾濫でかなり儲けたんなら私を身請けするのなんて簡単なはずよ、いつでも抱ける同族の女が欲しくないの!?」
「何で…オレが賢者の仲間だって知ってるんだ?」
「アンタ達『
どうやら最初からオレの持つ報奨金目当てだった様だ、もしかして呼び込みの男もオレだとわかってて声を掛けたのかもしれない。
服を整えてガリガリと耳の付け根を掻いてため息を吐いた。
「はぁ~…、悪いが一緒に過ごすなら言葉の裏を勘繰らなくて良い奴が良いんだ、ちょっとくらい面倒掛けられたとしてもな」
「なによ、そんな女が居るっていうの!?」
そう問われて気付いた、頭に浮かんだのはアイルと家族であるビビアナ。
同族の匂い以上に安心出来るから一緒に居たい、そう思う理由がわかって思わず笑みが浮かんだ。
「そういう事だな」
そう言って部屋を出ると中から「2度と来るな!」という声と恐らく枕がドアにぶつかる音がした。
女に対して詫びも込めて多めにチップを支払い娼館を出る。
ガブリエルの屋敷に帰ってアイルを抱きしめたくなったが、風呂から出るまでアイルがオレに近づく事は無かった。
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