第231話 その頃の仲間達

 リカルドが果実水を買った時、その後方にはエリアスが居た。

 リカルドの青い髪と目に比べると自分の金髪碧眼は比較的目立たないと知っているので、敢えてリカルドが周りの目を引いてくれてる範囲で行動していたりする。



 普段からこの様に自分が原因で迷惑を掛ける事は無いが、仲間の普段の行動パターンを利用する事はある。

 食事のリクエストなどもホセに食べたい物の話を振っておいて、ホセがアイルにリクエストしているところに自分も賛同する、という様に普段自分から我儘を言わない事によっていざという時に意見を通しやすくしている。



 なので食事のリクエストがホセと対立した時には「いつもホセのリクエスト聞いてるからたまにはエリアスの食べたい物にしよう」という言葉が引き出せるのだ。

 ホセはこの事に気付いて無いが、他のパーティメンバーは気付いているものの、「ちゃっかりしてる」程度の認識で特に気にしていない。



 ポイントはあくまで周りに迷惑を掛けていないから、昔から女好きだと自覚のあるエリアスはこういう本気で怒るか許されるかの心の機微を察知する能力が高い。

 時々読み間違えて大変な目に遭ったりしてきたが人生経験として学習している。



 そんなエリアスは当然の様にリカルドを包囲している貴族令嬢にも気付いていた。

 ホセが気付いたのならすぐにリカルドに忠告しただろう、しかしそこで面白いものが見れたら仲間に面白おかしく話そうと思うのがエリアスだ。



[side エリアス]


「あ~あ~、明らかにタイミング見計らって同時に注文したのに、リカルドってば気付いてないよね。あ、なぁんだ引っ掛からなかったか、用事を優先ってとこかな、リカルドってば真面目だもんねぇ」



 リカルドが寄った店より手前の店で買った果実水で喉を潤しながら呟いた。

 今日の僕は冒険者の格好はしていない、布に包まれた槍がちょっと目立つかもしれないけど、川釣りの釣竿を持ってる人が居ない事もないのでそこまで目立たないから問題無いかな。



 リカルドが鍛治工房に入ったのを確認しているお忍び貴族令嬢が複数見えたので、そっとラファエルから教えてもらった工房へと身体を滑り込ませた。

 早くしないとリカルドが工房から出て来ちゃうだろうから急がなきゃ。



 ホセは結構単純というか、ドジなところがあるから面白い現場を見る事は少なくないけど、リカルドの面白い現場って珍しいんだよね。

 落ち着いてるから焦ってるところもあんまり見た事無いし、むしろこっちの恥ずかしいところとか見られてるからいざという時口止めする為にも交渉材料が欲しいというのが本音だ。



 リカルドの地元に行った時もビビアナやアイルを連れて帰った事で殆ど話題が持って行かれて若気の至り的話があんまり聞けなかったしね。

 自分で槍の柄をじっくり吟味したいところだけど、職人に元々持っている物を見せて近い物を並べて貰った。



 実際並べられると王都ならではの品揃えに心が浮き立つ、バランスを見る為に軽く振り回し、しなり具合を確かめる。

 やっぱり樫が1番かなぁ、だけど石突で攻撃するには椎くらいの方が扱いやすいんだよねぇ。



 磨いて艶出したのも渋いけど、漆塗りもカッコイイからな悩むなぁ、職人が穂先を仮留めしてくれると言うから最終的に絞った3本に付け替えて貰って振る。

 あああ、やっぱり迷う~!

 結局樫のしなやかさに黒漆で強度を上げた職人の自信作という物にした、艶やかで使えば使う程味が出るし、使い手が育てる武器って良いよね!



 職人も話してる最中に僕が『希望エスペランサ』の1人だと気付き、槍の名手に使って貰えるのは嬉しいと手入れ道具までサービスしてくれた。

 お互い上機嫌で挨拶を交わして店を出ると、思った以上に時間が過ぎていた。



 しまった、すっかりリカルドを観察する事を忘れて買い物に夢中になっていたせいで見失っちゃった。

 鍛治工房の前で待ち構えていた令嬢達の姿が見えないところを見るとリカルドはもう帰ってしまった様だ。



 でもまぁ良い買い物もできたから良しとしよう、帰ろうとするとやけに僕の前で物を落とす令嬢が多い。

 色んな店を覗きながら歩いて気付かないフリをしているけど、前を向こうとすると誰かしら物を落とすからまともに前を向いて歩けない。

 一応前方が視界に入る様に歩いていたけど、落とし物に対して気付かないフリしている事に焦れたのか、死角から体当たりしてきた令嬢がいた。



「うわっ」



「あっ、申し訳ありません、少々めまいがしてしまいまして…」



 鍛えてる僕がたたらを踏むくらいの勢いでぶつかるなんて、結構痛いと思うんだけど。



「大丈夫ですか?」



「ええ…、まだ少しフラつきますが何とか…」



 頭を押さえつつ俯く令嬢、顔色は…良いよね?

 だけど礼儀としてこのまま放置する訳にもいかないしなぁ。



「お付きの方はどちらに?」



「それが…、お忍びでコッソリ出て来たものですからおりませんの」



 絶対嘘だよね? 歩いただけでめまいがしちゃう様な令嬢が1人で抜け出すとかあり得ないし。

 暗に家まで送れって言ってるよね?



「では辻馬車を呼んで来ますからここでお待ち下さい」



 とりあえずこの場を離れようとしたら、進路を遮る様に別の令嬢が現れた。



「あの、もしや『希望』のエリアス様では? そちらの御令嬢はわたくしのお友達ですの、具合が悪い様ですので私がお送りしますわ。あ、申し遅れました、わたくしピメンテル子爵が娘、ビクトリア・デ・ピメンテルと申します」



「あら、アナベル様ではなくて? お具合が悪くていらっしゃるの?」



 子爵令嬢が自己紹介をしていたら、別の令嬢が現れた。

 体当たりしてきた令嬢はアナベルという名前らしい、次々に現れる令嬢達に具合が悪いとは思えない鋭い眼を向けている。



「お友達が来てくれた様で良かったですね、それじゃあ僕はこれで…」



「まぁ、お待ちになって」



 その場を逃げ…立ち去ろうとしたが結局なかなか解放してもらえなかった、何とかリニエルス邸に戻った時にはエステ帰りのビビアナがさっきの現場を馬車から目撃したとかで面白おかしく皆に話していた。

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