第229話 その頃の仲間達 1

 アイルが来客対応をしている間、『希望エスペランサ』の面々は思い思いに過ごしていた。

 しかし、心のままにのんびり過ごしていたとはちょっと言い難い、何故なら貴族達は『希望』に対して呼び出しや逆に押し掛ける様な真似はしてはならないと王命が出されていたからだ。



 ビビアナはエステや王都ならではの下着屋など男子禁制と言える場所で自分磨きに余念が無かった上、リニエルス伯爵家の馬車で送迎されていたので問題は無かった。

 問題があったのは男性陣である、男だし暴漢に襲われても対処出来る実力はあるしで各自結構フラフラと出掛けていたのが原因である。



[side リカルド]


 アイルの来客は3日間に絞って来るというから、その間に大氾濫スタンピードで傷んだ剣を手入れして貰わなければならない。

 大氾濫が収まったばかりのセゴニアと違ってパルテナは今まで通り野盗も魔物も出るからな、王都から1か月の道中では必ず剣を振るう事になるだろう。



 隠さなくて良くなったとはいえアイルの魔法に頼り切りというのは良くないし、俺達の腕が鈍っても困る。

 それにしても今日は暑いな、鍛冶工房に行く前に果実水でも買って行こう。

 商店街では夏になるとひとつの店につき1種類だが果実水を売る店が増えるので欲しいと思った時に探すまでもなく店が見つかるのでありがたい。



「「1杯くれ(ください)」」



 俺と同時に注文した女性が居た、比較的簡素な服を着ているが貴族令嬢の様に見える、普通は使用人が買いに来るものだが珍しいな。



「お先にどうぞ、お嬢さん」



 体型からしてコルセットを使っている様に見えたので順番を譲る、身体を締め付けていたら暑さも倍増だろうからな。



「まぁ、ご親切にありがとうございます」



 順番を譲り自分の分を買って振り向くと、さっきの令嬢がまだそこに居た。

 誰かを待っているのだろうかと思い、軽く会釈して鍛冶工房へ向かおうとしたら声を掛けられた。



「あの、よろしければあちらでご一緒に休憩しませんか?」



 令嬢が示した場所は通りに設置されているベンチ、見目麗しい令嬢ではあったが剣の修復にどれだけ時間が掛かるかわからない為、早く工房に行きたいので断って先を急いだ。

 工房では軽く歪みを直して研げば問題ないという事だったので預けて王都の散策をする事にした。



 騎士団から話を通して貰っていたお陰で優先的に修復して貰える事になり、明後日には終わるとの事だった。

 いつもの剣が手元に無いのは心許ないが、王都内だし万が一の時の為に短剣も所持しているから問題無いだろう。



 元来た道を引き返す、そういえばエリアスは槍の柄を交換したいと言っていたから近くの木製の武器を扱う工房にいるかもしれないな。

 何だかんだと大氾濫スタンピードで皆装備品を酷使したから整備は必須だな、良さげな矢が売ってる店があればビビアナに教えてやろう。



 背嚢はいのうもそろそろ交換時かもしれないな…、殆どの荷物はアイルが預かってくれてるからもう少し小さめの物にするのもありか。

 背嚢を取り扱っている店を探して店を覗きながら歩いていると、果実水を買った時に店に居た令嬢が視界の端に映った。



 まぁ人通りの多い商店街だし、ウロついていたら何度もすれ違う事もあるだろう。

 大して気にせず辺りを見回すと、先程通った時より妙にお忍びの貴族令嬢といった風の人が増えている様な…?



 冒険者向けの店が並ぶエリアの雑貨屋で良い感じの背嚢を見つける事が出来て上機嫌で店を出ると、少し歩いたところで一瞬路地の方から声が聞こえた気がして足を止めた。

 しかし犯罪現場特有の切羽詰まった雰囲気が感じられなかったのでやはり気のせいだったのだろう。

 そう思い再び歩き出そうとしたら今度はもっと大きい悲鳴が聞こえてきた。



 本当に襲われた時はこんなに大きな声は中々出せるものじゃないのだが、無視するのもどうかと思って一応様子を見に向かう。

 そして気配のする角の手前からそっと様子を窺うと、妙に小綺麗な格好の破落戸に絡まれている令嬢が居た。



 一見怯えている風に見えるが破落戸達は何やら脅し文句の様な事を言ってはいるものの、一向に襲ったり危害を加え様としていない。

 さっきから何故かビビアナの顔が頭に浮かぶ、矢の事を考えたのもそのせいなのだが何かが引っかかっている。

 ある事に思い当たり角から一歩踏み出すと、まるで芝居の幕が上がったと言わんばかりに破落戸達と令嬢が動き出した。



「助けて下さい!」



「おい、大人しくそのお嬢さんをこっちに渡しな」



 俺を見つけると走って来て俺の背後に身を隠す令嬢、こういうのをアイルは何と言っていたか…。



「聞いてんのか!?」



 アイルが以前ビビアナの話を聞いて言った事のある言葉を思い出していたら焦れた様に1人の男が声を荒げた。



「ああ、思い出した、自作自演だ」



「「「ッ!?」」」



 拳をポンと掌に落として呟くと、破落戸達と令嬢が息を飲んだ。

 さっきからビビアナの顔が浮かんでいたのはわざと相手の視界に入る様に買い物していたり、目当ての男の前で当て馬男(視線を合わせて声を掛けて来る様に仕向けてた)に絡まれて目当ての男に助けて貰って知り合ったりという話と今の状況が被るからか。



「知り合いなんだから俺が助ける必要は無いだろう、どうせ親に言われて賢者のパーティメンバーに近付こうとしたんだろうけどな」



 ヒョイと肩を竦めて大通りへと戻った、予想通り俺が居なくなった路地からは令嬢が破落戸役を怒鳴る声が響く。

 普段からビビアナのぶっちゃけた話を聞いていなければ騙されていたかもしれない、ビビアナへのお礼に帰りに見つけた良さげな矢の束を買って帰った。

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