第183話 治癒
最初に集まっていた人達は自分達が交渉してやったお陰で食べれるんだからな、と後から来た人達に恩着せがましく言っていた。
それにしても結構儲かってしまった、最初はルーだけの人が多かったけど、カレーライスにして食べた人がパンより食べ応えがあると言ったせいで結構お米が減ってしまった…。
ルーは兎も角、お米とパンを減らしたくなくてボッタクリ料金にしたのに…、しょんぼりとお櫃として使っていた空になった木箱をストレージに収納する。
カレールーは残り少なくなったところで大体の人数を計算して「ここまで」と区切り、最後の1人には後ろに人が並ぶ度に何度も「俺で最後だぞ」と言ってもらう事になった。
しかも微妙に1人分には足りなかったので仕方なくお詫びに唐揚げ2個追加してあげたら、パーティメンバーらしき人達にガッチリ肩を組まれて去って行った。
彼が無事に唐揚げが食べられた事を祈る。
男性陣のテントで3人に洗浄魔法を掛け、ビビアナが待っている自分のテントへ戻ろうとした時、暗い顔をした見覚えのある人達が歩いて来た。
確かパメラと同じ『
「あ…、嬢ちゃんは無事だったんだな…」
休憩の時パメラとイチャついていた『暁』のリーダーらしき男がすれ違う時私に気付いて声を掛けて来た、嬢ちゃんはって事はまさか…。
「パメラ…は?」
「ははっ、命は助かったよ。だけど囲まれた時に利き腕を喰われちまった…、アレじゃもうポーションを使ったとしても冒険者は続けられねぇよ。情けねぇ、パメラだったら大丈夫だと思ってちゃんと援護してやらなかったせいだ…」
「……ッ! パメラは今どこ!?」
「見舞いに行ってくれるのか? だけど今は気が立ってるからやめた方が「いいから案内して!」
今日初めて会話した仲だけど、既にパメラは私の中では知り合いのカテゴリーに入っているのだ。
ビビアナに事情を話してパメラの元に急ぐ、今まで欠損のある怪我なんて治した事は無いけど、きっと大丈夫。
救護支援の場所へ行くと、血の匂いがむせ返る中、ベッドの数が足りずに床に布団や布を敷いて多くの怪我人が寝かされていた。
その一角に脚にも胴体にも、そして明らかに短くなった腕にも血の滲んだ包帯が巻かれたパメラが頭を抱えて蹲る様に座っている。
「パメラ…」
私が声を掛けるとビクッと身体を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。
その顔は血の気も生気も失った人生に絶望した者の表情だった。
「なんだい、腕を喰われた間抜けの姿を見学にでも来たのかい?」
そう言ってパメラはシーツを頭から被って寝転んだ。
私は無言でパメラの枕元に膝をつくと欠損した腕を掴んで包帯を解いた、綺麗に洗われてはいるが喰われたとわかるぐちゃぐちゃになった傷口が露わになり、思わず目を背けそうになる。
「何するのさ!?」
「こうするの、『
思い浮かべたのは昼間私の身体を
「な、なん…」
「魔法…!?」
「賢者だ…」
もう陽はすっかり沈んで夕食も出された後の為、既に寝ている者達が殆どだったが『暁』のメンバーと私が入って来た事に気づいていた人達は様子を伺っていたらしく、治癒魔法を見てパメラ同様驚いている。
パメラは元通りになった手を呆然と見ていたが、拳を握ったり開いたりして動作確認をした。
「手が…、アタイの手が…っ」
左手で再生した右手をギュッと握り締めてポロポロと涙を流し始めた。
「ハッ、嬢ちゃん…ありがとう! 何て礼を言ったらいいかわかんねぇけど、ありがとうな!!」
「アイルっ、ありがとう…!」
『暁』のリーダーが最初に再起動して私にお礼を言った、そしてパメラもハッとした様に私の手を握ってお礼を言いながら涙でぐしゃぐしゃの笑顔を見せた。
「えへへ、どういたしまして」
「じゃあ俺は治癒師にパメラをテントに連れて帰るって言って来る」
気を利かせた『暁』のメンバーの1人が走って行った。
怪我は全部治ったが、体力や失った血は戻って無いのでリーダーの男がパメラを支えて立ち上がらせる。
少しフラついてはいるものの、自分の足で歩けているのを確認してその後をついて行く、その時いきなり足首を掴まれた。
「ひゃぁっ!?」
「お…、俺も治してくれ…! 頼む!!」
パメラを治癒したところを見ていたらしい兵士の格好をした男が私の足首をしっかりと掴んで私を見上げていた。
男を見ると片足が反対の足に比べて明らかに細くなっている、恐らく脹脛が削られているのだろう、これでは一生歩く事は出来ない。
戸惑っていると身体を引きずる様な音と呻く様な声が周りで大きくなる、治してあげたいけど、全員欠損しているのなら100人以上居そうだから魔力が足りないと思う。
「ちょっと待って! 治してあげるのは良いけど、今すぐ全員は魔力が足りなくて無理よ! 今日は1度魔力切れで倒れてるから無理は出来ないの!」
起きていた者達は口々に早く、先に自分を治してくれと騒ぎ出した、その騒ぎで眠っていた者達も目を覚まして周りの言葉から治療してもらえるのかと更に騒ぎ出す。
「何の騒ぎだ!!」
『暁』のメンバーから事情を聞いたであろう治癒師がそこに現れ、一瞬体育館の様な室内がシンとなる。
とりあえず、ずっと掴まれたままの足首を放して欲しい。
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