第184話 治癒魔法の条件?

 治癒師はすぐにパメラを見て瞠目した、獣人は少ないから手を欠損した事を覚えていたのだろう。

 そして足首を掴まれ怪我人達から縋る様な目を向けられている私を見て現状を理解したらしい。



「3人目のエルフが居るという噂は聞いたが…、エルフでは無いな…まさか賢者!?」



「…………」



 私の耳を確認して自分が出した結論に動揺する治癒師、果たして賢者と名乗るべきか、それって「私天才なんです」って言うみたいで恥ずかしい。

 正直賢いかと聞かれたらバカでは無いけど称賛される様な知能の持ち主でも無い。



「質問を変えよう、治癒魔法が使えるのか!? …いや、使えるのですか?」



「使える」



 場の雰囲気に呑まれて言葉が端的になってしまった、コクリと頷くと周りから歓声の様な声が上がる。

 治癒師も歓喜と言うのが相応しい表情を浮かべた、ここに居る人達はポーションじゃ完治出来ない人達ばかりなのだろう。



「ならば3人…、3人だけ先に治癒して頂けませんか!? 死にかけている者が3人居るのです!」



「3人なら大丈夫だと思う、すぐ案内して!」



「こちらです!」



 走り出した治癒師の後を追って走り出す。

 おっと、テントに戻って来ないってビビアナが心配してるかも。



「ウチのパーティメンバーに後で戻るって伝えておいて!」



 追い越す時に『アウローラ』のメンバーに伝言をお願いして治癒師に続いた。

 さっきの場所に居た人達より重傷なだけあって適当に寝かせておけなかったのだろう、12畳程の広さの部屋にベッドが3台置かれていて、その上に今にも死にそうな3人が横たわっている。



「お願いします」



「欠損部分も治すから包帯を先に取ってくれる? すぐに治すからそっちの人をお願い。『完全治癒パーフェクトヒール』」



 怪我人は呼吸も浅くて1分1秒を争うと判断して治療道具と一緒に置いてあったハサミを使って少々乱暴に包帯を切って治癒魔法を掛けた。

 血の気は引いたままだったが、抉れていた脇腹や欠損した脚が治り呼吸が穏やかに変わる。



「次はその人ね、3人目の包帯外しておいて!」



 ホッとする間も無く次の人の治癒に取り掛かる、まるっと左腕が無くて包帯を外したせいで血が滴り始めたので急いで治癒魔法を掛けた。

 3人目は大きな爪でやられたのか頭蓋骨が見える程の深い4本の線になった傷が顔にまでついていた、これは片目は確実に失明だろう。



 3人目にも治癒魔法を掛けると、逆再生の様に傷が無くなっていく様子を治癒師は息を飲んで見ていた。

 1人目と2人目に治癒魔法を掛けていた時は包帯を取っていたからちゃんと見れてなかったもんね。



「あ…、ありがとうございました! この3人はポーションを飲ませ続けて何とか命を繋いでいましたが、傷が深過ぎて諦めそうになっていたんです。その時手首から先が欠損していたはずの獣人女性の手が元通りに治ったからテントに戻ると報告を聞いてまさかと思ったんですが…」



「そういえばエルフが2人居たけど、治癒魔法は使えないの?」



「あのお2人は治癒魔法は苦手らしく、擦り傷程度しか治せないそうです。治癒魔法の使い手は魔導期でも少なかったそうですから、三賢者でも賢者アドルフしか使えなかったそうですし」



「あ~、アドルフはドイツだっけ、もしかして治癒魔法に医学知識が必要なのかも。昔はドイツが医学の本場みたいな感じだったもんね、私も海外ドラマや漫画で人よりは詳しい自信はあるし」



 ブツブツと独り言を漏らし、1人で納得して頷く。

 韓流時代劇にハマった時は鍼にも興味持ったけど、ツボとか覚え切れそうに無かったなぁ。

 でも友達が妊娠した時は本当に脈が強くなるのか触らせてもらった事はある、独身の友達と同時に脈をとったら全然力強さが違って吃驚びっくりしたのはいい思い出だ。



「流石賢者様、医学の知識をお持ちなのですね。魔導期の治癒魔法が使える治癒師は基本的に教会に所属していて聖女様もそこで学んで一部が治癒魔法を使える様になっていたそうです」



「うん? 聖女の一部? 治癒魔法使えなくても聖女なの?」



「はい、聖女とは女神の御力を感じ取れる者で、加護を受けているのか殆ど病気もせず、状態異常の耐性も強く怪我の治りも早かったそうです。もう今はいないんですけどね」



「へぇぇ…、あっ、皆のところへ戻らなきゃ。大氾濫スタンピードが収まったら他の怪我人の治癒もするから、それまでは頑張ってね。あと…出来るだけ私の事は秘密にしておいて欲しいな~、なんて…」



「無理でしょう。あれだけ目撃者が居るのですから。私に出来るのは貴女の元へ怪我人が押し寄せない様に説得するくらいです」



 ですよね~! わかってたけど、やっぱり無理か…。

 ガクゥと肩を落として帰ろうとしたら治癒師に声を掛けられた。



「あの、私は治癒師のフェルナンと申します、貴女のお名前を聞かせて頂いても?」



「……『希望エスペランサ』のアイルよ、もし命の危険がある怪我人が出たら呼び出して」



 一瞬躊躇ったがどうせその内バレるだろうと諦めて名乗り、ヒラヒラと手を振って部屋を出た。

 部屋を出ると魔道具の灯りに照らされた渋い顔のホセが腕を組んで壁に凭れた状態で立っていて、心配と怒りの混じった表情でジロリと私を睨んだ。



「……大丈夫なのか?」



「あ、うん! 命に関わる様な怪我した人はとりあえず治癒したから心配無いよ!」



「バカ、お前だよ!」



「あぅっ」



 ビシッと頭に手刀を落とされた、手加減してるのはわかるけど、それでも痛い。

 頭を抱えてのたうち回る私に呆れた視線を向けながらため息を吐いた。



「はぁ…、ったく、倒れたクセに無理すんなって言ってんだよ」



 どうやら怪我人では無く私の心配をしてくれていた様だ、私優先に考えてくれている事が何だか擽ったい。

 今なら少しくらい甘やかしてくれそうだ。



「ホセぇ~、お願いがあるんだけどォ」



 腕を伸ばした状態で手を組んで身体をくねらせて上目遣いで瞬きを繰り返す。



「な、何だよ…」



 明らかに警戒しながら胡乱気な目を向けられてしまった、失礼な。



「このまま普通に怪我人の居る場所を通ったらすぐに治癒魔法掛けてくれって言われると思うの、そうするとヘタしたらパニック状態になるじゃない? 大氾濫が収まったら治癒するつもりだけど今日は眠いし魔力的にも無理だから、この部屋の怪我人治癒して力尽きたって事にしてホセがグッタリした私を背負って連れ出すっていうのはどうかなと思って」



「ああ…、そういう事なら「お姫様抱っこでもいいよ? ほら、背負ってると自分で乗っかった感があるし? お姫様抱っこの方が弱ってる感じがするでしょ!?」



「……………しょうがねぇな」



 若干呆れた眼差しを向けられた気がしなくもないが、無事にお姫様抱っこで運んで貰えた、気絶したフリしてたら運ばれてる途中で本当に寝ちゃってたけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る