第327話 リニエルス伯爵邸の夜

 夜は空調の魔導具使ってても冷えるからとラファエルが寝る前に皆にホットワインを用意してくれた。



「あったまるね~」



「ほぅ、ホットワインというのは初めて飲んだが悪くない」



「ふふふ、おじいちゃんってば、アルコールが抜けてるから物足りないんでしょ~?」



「ははは、バレたか」



「アイルも同じ事思ってるからだろ」



「ははは、バレたか」



 ホセのツッコミにおじいちゃんの真似をして答えると、皆が笑った。

 そんな団欒だんらんをしていたら執事がエリアスが帰って来たと知らせに来て、すぐにエリアスがリビングに姿を見せた、妙にグッタリとして。



「ただいま…」



「どうしたんだ? 戻るのは朝になると思っていたんだが」



 リカルドが声を掛けるとエリアスはその場にへたり込んだ。



「聞いてよ~、僕美人局つつもたせに引っかかってさぁ、妙に積極的だなぁとは思ったんだけど、たまにそういう子もいるからつい騙されちゃったんだよね。家に行ったら明らかに男と住んでる感じがしてるし、帰ろうとしたら案の定ドアの陰から男が出て来て問答になって…あ、ありがとう」



 ビビアナがグラスに入ったホットワインを手渡すと、ひと口飲んでホッと息を吐いて続きを話す。



「本気でやり合う訳にもいかないから、とりあえず花街が近かったから逃げ込んで…時間を潰して…それから屋敷に戻ろうとしたら見つかっちゃってさ、全力疾走して来たって訳。しつこいよねぇ、だけどここで見つかってもさすがに貴族屋敷にまで怒鳴り込んでは来ないでしょ」



 ふ~ん、娼館で時間を潰してたって訳ね、娼館特有の匂いしてるし。



「バカねぇ、姿絵が出回ってるんだからそういうやからが出て来る事くらい予測しなさいよ。今後はその辺の子じゃなくてちゃんとしたところで遊びなさい」



 ビビアナに叱られてるエリアスを見ながら私は思う、私が関わったせいで皆に迷惑掛けてしまっているのだろうか、と。

 申し訳ない気持ちになりながらホットワインをチビチビと飲む。



「おい、エリアスが美人局に引っかかったのは初めてじゃねぇからな。しけたつらしやがって、どうせ的外れな碌でもねぇ事考えてたんだろ?」



 ショボンとしていた私の頭にホセが手を乗せた。



「そうよ、フラフラついて行くエリアスが悪いんだからアイルが気にする事なんて無いわ。Aランク以上の冒険者になると人気があれば姿絵が出回るのは当たり前の事なんだし。見た目良いエリアスの姿絵はそれなりに人気があるんだから当然の結果なのよ」



「見た目だけはって…、酷いよ」



 続くビビアナの辛辣しんらつな言葉に今度はエリアスが肩を落とした。

 冒険者としての実力もあるから顔だけって事は無いと思うけど、男としての長所は顔だけかなぁと思うので何も言えない。



「さて、そろそろ寝ようかな」



「え!? もう寝ちゃうの!? 可哀想な僕を慰める為に一緒にお酒飲んでくれないんだ?」



 顔だけ発言には触れずに立ち上がった私をエリアスがチラリと見た、お酒の言葉に思わず動きを止める私。

 そんな私を見てエリアスはにっこりと笑顔になる。



「あ、ごめんね、気にしないでアイルは寝て良いよ。ホセとラファエルは付き合ってくれるよね?」



 エリアスは間違いなく付き合ってくれるであろうラファエルと、私への牽制であろうホセを指名した。



「うん、付き合うよ」



「オレもかまわねぇよ」



「べ、別に私も付き合って良いけど…。今日酒屋でお酒を追加で仕入れて来た事だし」



「いいんだよ、僕みたいな顔だけしか取り柄の無い男に付き合わなくても」



 顔だけって言ったのは私じゃないのに、庇わなかったから根に持ってる様だ。



「ならば私も付き合おうではないか」



 あっ、おじいちゃんが裏切った!?

 ちゃっかりおじいちゃんの隣に座るビビアナ、エンリケとリカルドはホットワインをまだ飲み終わって無かったので最初から座ったままだ。



 心なしか皆がニヤニヤ笑いながら私を見ている、私がエリアスに屈するかどうか観察しているのだろう。

 ここからは私とエリアスの勝負という事か…。



 しかし私にはまだ手札があるのだ。

 ストレージから今日かったお酒の瓶を取り出し、銘柄がエリアスに見える様に持つ。



「あ」



「せっかく買い物途中で姿を消したエリアスの為に、エリアスが好きなお酒を買っておいたんだけど必要無いみたいだねぇ?」



 思わず声を上げたエリアスと私をワクワクした顔で見比べる仲間達。

 その間にもメイドさんが氷やグラスを準備している、お酒が私のストレージに入っている事を知っているからね。



「く…っ、ラファエル、あのお酒ってある?」



「え? アレは…」



 ラファエルがチラリと家令のレアンドロに視線を向ける。



「残念ながらあの銘柄はラファエル様もガブリエル様もたしなまれませんのでございません。次にいらっしゃる時には準備しておきます」



「あ、うん…、ありがとう」



 明らかにしょんぼりしてレアンドロにお礼を言うエリアス。

 ふっ、勝った…!



「はは、2人共素直に飲みたいって言えば良いのに」



「「……………」」



 勝負がついたと思った瞬間放たれたエンリケの正論により、今回の闘いは引き分けとなった。

 なお、きっちり3杯飲んだ時点でホセの手によりネックレスが着け直された事を追記しておく。

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