第219話 パルテナ到着
「で、あとは具材を魚介類にしたシーフードカレーや、細かく刻んだ野菜を溶けるまで煮込んで素焼きや素揚げにした野菜を後乗せして見た目の彩り重視の物にするのもアリだよ。冒険者ならコレも商業ギルドに登録してあるけど豚カツを乗せたカツカレーは絶対人気の商品になる事間違い無し! ここに私が以前作った豚カツがあるから盛り付け例を見せるね。こうやってご飯の上に置いて半分だけルーを掛けるのも良いし、敢えて豚カツだけでも楽しめる様に掛からない様にしても良いし…っと、出~来た! じゃあ味の確認は…」
「「「「俺が!」」」」
邪魔にならない様に酒場の隅で見学していた冒険者達が一斉に名乗り出た。
しかし私はお皿を酒場のマスターの前に置いた。
「あはは、馬鹿ねぇ、作った本人が味の確認もしないで客に食べさせると思うの? 酒場のマスターが食べるに決まってるじゃない。あなた達はマスターが納得して酒場で出す事になったら食べられるでしょ」
などと説教じみた事を冒険者達に言っている間に酒場のマスターは既にカツカレーの試食を始めていた。
ちなみにカレーは私が下拵えした物を使ってマスターが言われるままに作ったものだ。
マスターは数回咀嚼してカッと目を見開き、ガツガツと掻き込む様に食べては時々頷きながらあっという間に完食してしまった。
「これは…、今度からウチの看板メニューにする!」
「「「「うおぉぉぉ!」」」」
マスターの言葉に冒険者達が拳を高々と突き上げながら喜びの声を上げる。
「じゃあコレで私のカレー講座はおしまいね! 料理人の皆は頑張って研究しながらより美味しいカレーを作り出す事を願うわ」
「「「「ありがとうございました!」」」」
近隣の店から来ていた料理人達は書きとめたメモを握りしめて我先にと帰って行った、きっとこれからカレーの仕込みをするのだろう。
「お待たせ~」
「終わったか、じゃあ行こう」
3時が過ぎた頃に私達はカタヘルナを出発した、御者はエドがしてくれている。
そしてその間に車内でリカルドがギルドで受け取ってくれてた上乗せ報酬の分け前を受け取る、ちなみに私が治癒した分もパーティの報酬と考えて計算してもらった、それでもかなりの額になるので
夕方頃にはセゴニア側の国境砦に到着した、夕方と言っても夏なのでまだ結構明るい。
馬の休憩を兼ねて少し早めの夕食を済ませる事になり、砦の門を入ってすぐ馬や馬車の預かり所があったので各々身体を伸ばしつつ近くの酒場兼食堂に入った。
「残念だけど、ここで泊まらないからお酒はもう少しお預けね」
周りの人達がジョッキ片手に食事しているのを見ながらビビアナが肩を竦めた。
滅多に出ないとはいえ、砦と砦の間にも魔物が出る可能性があるからには我慢するしかないだろう。
特に今は大氾濫の討ち漏らしがこっちに来ているかもしれないし。
でも食事の時に我慢するのは慣れているから平気だもんね。
その代わりパルテナ側の砦に到着したら部屋呑みしちゃおうっと。
「そういえば今夜の宿は大部屋にするの? それとも2人や3人部屋をいくつかとるの?」
大氾濫の恩恵なのか、格安なのに肉厚のボアステーキを切り分けつつリカルドに聞いた。
「そうだな…、俺達は貴族御用達のスイートにして、セシリオとエドガルドは個室がいいかな?」
セシリオには王家から使者としての必要経費が渡されているらしいが、エドは自腹で来ていると聞いたので、私の為に来てくれた訳だから費用を出すと言ったが断られてしまった。
なので今度何かお礼をしようとは思っている。
「部屋のベッドが空いているのなら私も君達と同じ部屋にして欲しいな…、今夜は色々無事に終わった祝杯をあげるんだろう?」
そう言いながらエドが私に流し目を送ってきた、良い事言うね!
「エドガルドがそれで良いなら宿の造り次第だな」
満面の笑みを浮かべる私を見て苦笑いしつつリカルドが答えた、スイートなら部屋で食事も出来る様にテーブルも椅子も置いてあるから酒盛りするにはちょうど良いもんね。
食事が終わって馬達を迎えに行くと、私は率先して御者台に座った、酒盛りを早くする為に馬を急がせるなんてしてないよ、……ちょっとしか。
パルテナ側の砦に到着し、スイートルームもバッチリおさえた。
貴族用の大きなベッドは身体の大きなリカルドとホセに寝て貰って、残りは2人ずつに分かれて従者用の部屋へ。
全員お風呂に入って寝る準備を済ませてスイートルームのリビングで酒盛り開始。
テーブルの上に半端な量になってきたおツマミ数種類とアイルコレクションのお酒も特別に出した。
おツマミの中には他の場所では好まれなくて手に入らなかったが、アデラに頼んで用意してもらったタコで作った唐揚げもある。
サブローが居たならタコも食べられていると思ったんだよね、その予想は正解だった。
アデラ達の住んでいるモステレスは馬車で半日もすれば海、という場所なので氷を使って運べば刺身だって食べられる地域だったのだ。
ちょっとタコ唐でアレなモノがあるけど、きっと皆なら気にせず食べてくれるだろう。
タコだってわかったら気持ち悪くて食べてくれないかもしれないけど、もしかしたらタコ自体知らないという可能性もある。
そんなこんなでちょっとドキドキしつつも自分のグラスにウィスキーを注ぐ、そしてリカルドが黒ビールが注がれたジョッキを片手に口を開いた。
「皆、大氾濫から王族の呼び出し、コルバド経由でやっとパルテナに戻って来た、まだ王都へ行っての謁見が残っているが…とりあえずお疲れさん! 乾杯!」
「「「「「「乾杯」」」」」」
各自好きなお酒を注いだグラスやジョッキを掲げ、待ち侘びた酒盛りが始められた。
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