第291話 いつものホセ
ガタゴトと自動車程度の振動に揺られながら馬車はひた走る。
ホセはちょっと頭を冷やしたいと御者を続ける事を希望した。
車内の会話はホセの耳には聞こえてしまうのでヘタな事は言えないが、昨夜宿屋でビビアナが少しだけ話してくれた。
ビビアナ自身は小さかったから覚えてはいないけど、まだ赤ん坊だったホセを抱いた母親が教会に現れてホセを託した数日後に亡くなったんだとか。
「それにしても…、明日からまた船なのよねぇ…」
ビビアナがハァ、とため息を吐く。
「ビビアナ殿、船といってもゆったりとした大河ですから海の様には揺れませんよ」
エクトルが慰める様に言うと、ビビアナは顔を輝かせた。
「本当!? 良かったわ~、どうにも足元がずっと揺れているのに違和感があるのよね」
「船は船だから揺れると思うんだけど」
エリアスがポツリと呟いてビビアナに睨まれたが、エクトルが宥める。
「まぁまぁ、それでも精々この馬車程度ですよ、パッと見ただけではどちらが上流なのか下流なのかわからないくらいゆるやかな河ですから大丈夫ですよ。教会本部はその上流の支流が集まる湖の中にあるんです三方に橋が架けられているので普段は橋を使いますが、旅に出る時は船を使った方が早いんです、魔物も滅多に出ませんし」
「陸路だと更に時間が掛かるのか?」
「そうですね、河が蛇行しているので、それを避けて進もうと思うとかなり遠回りな上、それなりに魔物が出る森を通らないといけないので教会本部からだと余分にひと月程は掛かります。ですから船着き場のある村や町は河を使うのが当たり前になってます」
リカルドの質問により、教会本部はかなりの僻地というイメージになった。
アマゾンの奥地みたいな感じ?
だけど森に囲まれているのでは無く通るって言ってたから違うかな?
そんな事を考えていたが、昼食の為に街道沿いのキャンプ場に寄った時にまだ元気の無いホセを見てしまうと楽しみにしていた気持ちが
ここはひとつカボチャのコロッケバーガーを出して元気付けてあげよう。
ストレージから出したテーブルの上に各種バーガーを並べていく。
「えーと、これは照り焼きチキンね、こっちは照り焼きだけどハンバーグが挟んであるの。コロッケはカニクリームとコーンクリームとカボチャと普通のやつ。この少し細長いパンのは厚切りベーコンと目玉焼きとトマトで…」
説明していくとホセは迷わずカボチャコロッケバーガーを手に取った。
ふふふ、目を
「んん、いつ食べてもアイル様の料理は絶品ですね」
「本当に! これからも毎日食べたいくらいです!」
カリスト大司教の言葉にオラシオがコクコクと頷いて同意した。
旅に出た当初は
幼い頃からナイフとフォークでチマチマ食べて来たから新鮮で楽しいのだろう。
食事が終わり、片付けて馬車に乗り込もうとしたら頭にポフっとホセの手が乗せられ、「ありがとな」と呟く様に言って御者席へ向かった。
元気出して欲しくて好物を出した事に気付いたらしい、そのお陰か夕方宿泊する村に到着した時にはいつものホセに戻っていた。
そう、戻っていたので当日話していなかった私の
おかしいと思ったんだよね、ホセが『
「ってなわけで、コイツ獣人のガキ見たらヤバいぞ。なんつったっけ、ビルデオだったか? 獣人が王様やってる国に帰りに寄るって言ってたけどよ、赤ん坊抱えた母子家庭のやつを養うから連れて帰るとか言い出してもおかしくねぇな」
「「「「……………」」」」
皆の視線が痛い、こんな事なら忘れるまでホセを元気にするんじゃなかった…、昼間の「ありがとな」の気持ちはどこへ行ったの!?
仲間達と目を合わせられずホセを恨みがましく睨んでみたが、ニヤリと笑い返されただけだった、くそぅ。
「ビルデオには寄らない方がいい様な気がしてきたな…」
「そんなッ!?」
リカルドの無情な言葉に思わず声を上げ、下唇を噛み締める。
「アイル、そんな顔してもダメだよ? アイルの為でもあるんだからね? このままだったら犯罪者になってもおかしくな…ぷぷっ」
「エリアス!? それは
途中まで真面目な顔だったのに、我慢できずに吹き出してるし!
エリアスは絶対私の反応見て面白がってるだけだよね!?
「アイル、帰りにまたアンヘルの弟に会えるんでしょ? それじゃ我慢できないのかい? 俺達のリーダーはリカルドなんだから決定には従わなきゃ」
「ぐぅ…っ、リカルドぉ…。ちゃんと常識的な行動するから…、絶対1人で行動しないから行こうよ…」
エンリケが正論でトドメを刺しにきた、縋る様な目をリカルドに向けると苦笑いしながらホセを見た。
「こう言ってるけど、どうだ? 少しくらいはいいんじゃないか?」
「リカルド! 大好き!!」
ベッドに腰掛けていたリカルドに押し倒す勢いで飛びつく、鍛えてるからガッシリと抱きとめてくれたけど。
「
「うん! もちろん!」
無事に獣人の国へ行ける事になって私は満面の笑みで頷いた。
「うふふ、良かったわね。本当はホセも気になってたくせに…素直じゃ無いんだから」
ホセはビビアナの言葉にフンと鼻を鳴らしたけど、否定はしなかった。
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