第199話 謁見

 皆で食堂へ向かっていると、1人の侍女と遭遇した。



「あ…っ、賢者様!? こちらにいらしたんですか!?」



「おはようございます、部屋だと落ち着かなくて昨夜は仲間の部屋で寝たんです。そろそろ朝食だろうから食堂へ行こうかと…何かありました?」



 当然何かがあったのはわかってはいるけど、私に知られたくないだろうから誤魔化すはず。



「い、いえ、お姿見えなかったのでお探ししておりました。それでは食堂へご案内致します」



 見事に動揺を抑え込んで楚々とした動きで私達を食堂へ案内してくれた。

 ちなみに探索魔法は未だ展開中なので、食堂への案内が終わってドアを閉めた瞬間競歩の様に素早く歩いて報告に行った事も把握している。





「へぇ~、そうだったんだ。てっきり分断されちゃったのかと思ってたんだよね」



 食事しながら昨日の話をしていたらエリアスがそんな事を言った、やっぱり到着直後から急に会えなくなったらそう思っちゃうよね。

 私の部屋の場所も教えて貰ってなかったみたいだし。

 何と言うか、賢者をこの国に留まらせようと色々必死過ぎて引く。



 食後は衣装部屋に連れて行かれた、広間と言える大きな部屋に沢山のドレスが吊り下げられていて、男性陣も隣にある男性用衣装部屋に連れて行かれた。

 私とビビアナは採寸後、部屋にあるお風呂でエステのフルコースよろしく磨かれ、バスローブ姿で出てきたらサイズの合うドレスが何着も並べられていた。



 ビビアナの分のドレスは洗練されたデザインで素敵…、しかし私の分は明らかに子供用。

 発育の良い子供も居るので悔しいけど胸が苦しいとかは無い、無いけど…!

 明らかにデザインが甘いというか、可愛らしいのだ、大人用に比べてフリルとリボン多め。



 極力シンプルな物を選ぶと、今度はメイクが始まった。

 頭を魔法で乾かすと凄く羨ましがられた、特に今は夏だから魔道具のドライヤーを使うのも大変だもんね。



 とりあえず自分のドレスが子供用で良かったと思ったのは、ビビアナがコルセットで締め上げられている時だった。

 子供用はソフトコルセットと言う様な軽い締め付けで済んだ、元々スタイルの良いビビアナを更に締め上げるなんてどれだけウエストを細くすれば気が済むんだろう。



 しかしその甲斐あってビビアナの仕上がりは女神の様に美しかった。

 私もガブリエルと夜会に出た時とはテイストは違うが、充分「コレが私!?」状態になったと言えよう。



 準備が終わると謁見の間の控え室へと案内された、そこには待ち草臥れた男性陣が。

 3人共イケメンなのは知ってたけど、着飾ると中々の破壊力だ、侍女達もうっとり見てるくらいだもん。



 リカルドは貴族なだけあって黒地に金の刺繍が施されたゴージャスな衣装を完璧に着こなしているし、エリアスもボルドーに銀糸のアクセントが入った衣装がよく似合っている。

 そしてホセはリカルドと対になってる様な白地に金糸という衣装が褐色の肌に映えて、黙っていたら貴族に見える。



 この3人は下手したら殿下達より王族らしく見えちゃうかも。

 そんな3人は私達が姿を見せると軽く目を見張った、特にビビアナなんて女神レベルだもんねぇ。



「お、やっと来たか。それにしても2人共化けたな、オレ達より遥かに時間が掛かる訳だぜ」



「素直に褒めなよホセ、2人共凄く似合ってるよ」



「ああ、アイルは夜会の時とは違って可愛い感じだし、ビビアナは貴族令嬢だと言っても通じるぞ」



「うふふ、ありがと。3人も貴族に見えるわよ? あ、リカルドは元々貴族だったわね」



 ビビアナの言葉に侍女がピクリと反応して目付きが変わった、恐らく結婚相手としてロックオンされたのではなかろうか。

 王様に謁見出来るAランク冒険者という実力がありなら貴族、しかも賢者の所属するパーティのリーダーとくれば美味しい結婚相手だろう。



 だけど移動中の宿屋で話し合ったら全員一致でこの国から早く出たい、だったもんね。

 1時間程待たされ、その間に作法を軽く教えてもらった、国によって違ったりするので外国の使者などには必須らしい。

 そして案内されて謁見の間の大きな扉が左右に開かれた。



 広いというか、玉座が遠い。

 リーダーのリカルドを先頭に貴族達が左右に控える中進み、説明された絨毯の模様の所で跪いた。



「此度の大氾濫スタンピードでの活躍、見事であった。Aランクパーティ『希望エスペランサ』に褒美をとらせよう、まずは「恐れながら、希望を述べて宜しいでしょうか」



 このまま爵位なんて貰っちゃったらシャレにならないので先手を打たせてもらう、リカルド達が言うと無礼者とか言われても反論出来ないので当然私が。



「無礼な! 陛下がお話されている最中だろう!!」



 玉座の下に控えていた大臣っぽい貴族が怒鳴った。

 ギルドの冒険者の方が断然迫力あるから怖くないもんね、内心ニヤリと笑みを浮かべる。



「失礼、望まぬ物を押し付けられて褒美と言われても迷惑になるだけですので希望をお伝えしたいのです。既に一刻も早くこの国を出て2度と参らぬ様にしたいと考えておりますので」



「「「なっ!?」」」



 シレッと答えると王様も含めて声を上げた、何が不味かったのかサッパリわかってないよね?

 もうその時点で色々アウトだってわからないんだろうなぁ…、寧ろ何がアウトなのかわからないってのが正解か。

 さっき怒鳴った大臣が顔を真っ赤にしてプルプルしている、そして私を指差して再び怒鳴る。



「貴様…ッ、陛下に対して何たる不敬! この無礼者を牢へブチ込め「わかって無いなぁ」



 血管切れそうな大臣の言葉を遮り立ち上がる、エリアス小声で「やるねぇ」とか言わない!



「私が賢者だって知れ渡っているんでしょう? あなたの態度に怒ってこの王宮を瓦礫に変えて姿を眩ます事も出来るって……わかってて言ってるのかしら?」



 私の発言で謁見の間は大人数が居るとは思えない程シンと静まり返った。



◇◇◇


次回200話記念閑話!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る