第198話 共倒れ
「ふわぁ…、おはよぅホセ」
目の前のモフモフの首筋に顔を埋めながら朝の挨拶をすると、ホセは尻尾を振って応えてくれた。
そういえば昨日壁の中に居た人は仲間のところに戻ってたけど、もう部屋に張り付いてはないよね?
もし戻って来てたら部屋に居ないのバレてるだろうな、気付かれずに部屋に戻らないと。
「『
私の使ってた客室にめちゃくちゃ人が集まってる!?
ベッドから飛び出して部屋を飛び出ようとしたけど、騒いでるところに顔を出すのは悪手な気がする。
朝食の時に皆と一緒にシレッと食堂へ向かう方が賢明だろうか、ドアの前で懊悩しているとホセか声を掛けてきた。
「いきなりどうしたんだ?」
振り向くと下半身をシーツで隠してベッドに座っているホセ、相変わらず目の保養になる見事な上半身が眩しいです。
ではなく、ここはひとつ相談してみよう。
「あのね、私が寝るはずだった部屋に人がたくさん居るの。私のベッドで誰か眠ってる…みたいだけど、私は関わって無い証拠として正直にここに居た事を話すべき? それともシレッと皆と一緒食堂へ向かうべき?」
「あ~…、仲間と居たっつって食堂に顔出しゃいいんじゃねぇ? そしたら勝手にビビアナと居たと勘違いしてくれるだろうさ。オレと居たってバレても丁度良い牽制になるだろうからそれでも良いけどよ」
ホセは腰にシーツを巻いて立ち上がると、リュックから着替えを取り出して着替え始めた。
そういえば昨日着た服はまだ洗浄魔法掛けて無いや、皆の部屋回って掛けに行こう。
「ホセ、昨日着た服を綺麗にするから貸して、『
ホセがシーツを取り去る前にそそくさと部屋を出て隣の部屋のドアをノックする。
そこには既に着替え終わったエリアス。
「あれ? おはようアイル、どうしたの?」
「おはよう、衣服の洗浄に来たよ」
「それは助かるよ、ありがとう」
吉備団子で仲間を集める桃太郎よろしく洗浄魔法掛けては共に移動し、最終的にホセの部屋に集まった。
探索魔法を掛けて朝食の準備が出来ている事はわかってるのに、呼びに来ない。
もしかして私が部屋から居なくなってるからこっちは放置されてるのだろうか、食堂に騒ぎが伝わって無いから準備はされている…ってとこかな。
「朝食準備出来てるのに呼びに来ないねぇ、冷めちゃうからもう自分達で行っちゃう?」
「そうねぇ、食堂の場所はわかってるし、行っちゃいましょうか」
私の提案にビビアナも同意してくれたので、皆で食堂へ移動する事にした。
[昨夜のアイルの客室 side]
悲劇の発端は殿下達の手の者の系統が1つでは無かった事、王家の影と呼ばれる隠密部隊…壁の中に潜んでいた者の所属する部隊にはアイルから警告を受けた本人から報告を受けて監視を全て取り止めていた。
もしも殿下達の手の者が王家の影であれば、その時点で計画は実行されなかったであろう。
しかし、側室の子や王位継承権が低い者に王家の影を使う権利は無い、故に母親の実家が用意した子飼いの者を使ったのだ。
当然母親が違えば命令系統も違う、そして横の繋がりなどあるはずも無い。
浅はかな殿下達の中でも自分に自信のある者、2人きりになってしまえばアイルを落とせると確信していた者が2人。
1人はカンデラリオ、醸し出す色気にあてられて嫌と言える令嬢は居ないと評判の王子。
お抱えの薬師に特注で作らせた無臭の睡眠香を買収した夜番の騎士にドアの下の隙間から室内に仕込む様に命じ、1時間後に自分はその解毒薬を服用して部屋に忍び込んだ。
ベッドのカーテンは食事の片付けの時に降ろされており、中が見えない。
手探りでそっとベッドに入り込み、アイルを探したがその手がアイルに触れる事は無く、おかしいと思った時にはカンデラリオの意識は闇の中に堕ちていた。
もう1人の愚か者は王孫のロドルフォ、最も王太子である父に似ていると言われ、物語に出て来る王子様のイメージそのものだと評判で憧れる令嬢は数知れず。
そんな彼が買収したのはアイルの部屋を担当する侍女の1人、彼もまた母親の実家から与えられた人脈により寝台に仕込むタイプの睡眠薬を使わせた。
ちなみにアイルは耐性持ちなので、お昼寝したのは本当に疲れていたせいである。
ロドルフォはカンデラリオと同じく2人きりならば口説き落とす自信があった、しかしそれより特別な関係だと既成事実を作るか、少なくとも周りに思い込ませれば自分の勝ちだと確信していた。
仕込ませた睡眠薬を吸い込めば朝まで目を覚さない、そして朝起こしに来た侍女により目撃される算段である。
当然自分は解毒薬を服用しているので、朝までに少々2人の衣服を乱しておけばアイルが何と言おうと恥ずかしがっているだけだと言い張ってしまえばいい。
そして侍女に鍵を開けておくよう指示した窓からそっと室内に忍び込んだ。
女性の誘いで寝室に忍び込んだのは1度や2度では無いが、移動中に甲斐甲斐しく世話を焼きながらクルクルと表情を変える愛らしい人の寝室だと思うと頭がクラクラする気がした。
実際クラクラしているのだが、それはカンデラリオが仕掛けさせた無臭の睡眠香のせいだったりする。
ベッドのカーテンを僅かに開き、身体を滑り込ませ寝台の上から聞こえてくる寝息を頼りに覆い被さる様に抱き締めようとしたところでロドルフォの意識は途絶えた。
そして翌朝、アイルを起こしに来た侍女の悲鳴により数人の騎士と侍女に抱き合って眠るカンデラリオとロドルフォの姿が目撃されたのだった。
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