第563話 やっちゃう?
「やったな……」
「やっちゃったねぇ」
「いつかはそうなると思ってたけどよ、予想より早かったな」
「ま、まぁ、あの状況だとアイルに行くなという方が酷というものだろう。リカルドも許可を出した事なんだからそう言ってやるな」
王都を出た瞬間、しみじみと呟くリカルドを皮切りに、次々と私をイジる仲間達。
味方はおじいちゃんだけだよ!
会話するために御者席の小窓を開けたのだと思ったけど、これを私に聞かせるためだったのか!
私が御者席に座った時に誰かが開けたのだ、私の予測ではエリアスかな。
「だけど何とかなりそうで良かったねぇ~、アイル?」
ほら! 絶対小窓開けたのエリアスじゃん!!
「結果良ければ全て良しだもん! ぅわわっ、ごめんごめん」
いきなり大きな声を出したせいで馬達がいなないた、謝るとブルルと不満そうなアピールをしてから歩調を戻す。
「全く、困ったエリアスだよね~?」
馬達を味方に引き入れようと話しかける。
きっと真心は通じると思うの。
「僕かなぁ?」
ニヤニヤしているのがわかるエリアスの声。
「そうだよ、だってわざと意地悪してるのエリアスだもん」
「おかしいなぁ、僕は何とかなりそうで良かったねって言ったんだよ? どこが意地悪なのさ」
「ぐぬぬ……」
やはり口ではエリアスに勝てない。
私はピシャリと音を立てて小窓を閉めてやった。
三時間ほど馬車を走らせただろうか、そろそろ馬達を休憩させないと。
キャンプ場が見えたので、馬達の水飲み場の近くへと馬車を移動させた。
馬車が止まると、みんなが降りてきて馬達を馬車から外してくれている間に、私はストレージから休憩セットを取り出す。
シートとローテーブルとお茶とお茶菓子。
そしておやつを食べながら提案する。
「ねぇ、もう王様にはバレちゃったしさ、隠蔽魔法かけたまま転移しちゃえば転移した事バレないんじゃない? ずっと隠蔽魔法使ってただけだって言い張ればさぁ。そうすれば早くウルスカに戻ったとしても、おじいちゃんが途中で他の護衛を雇って帰ったとか適当に言い訳したら問題無いって!」
「「「「…………」」」」
私の提案に、みんなは俯いたり頭を抱えている。なんで?
「ダメかな……? ビビアナ達は私が守ってるって知らしめないとやっぱり心配だしさぁ」
リカルドに上目遣いで甘えてみたけど、そんな手段が通じる相手ではない。
しかしいくら私の魔法がある分快適な旅とはいえ、移動に次ぐ移動、そして長い船旅も待っているせいか、眉間を摘むようにして俯いてしまった。
よし、リカルドはもう一息だ、誰かを味方にして援護してもらえば、きっといける!
私はエリアスをロックオンした。
「エリアスだってさ、あの必ず宿泊しなきゃいけない離島とか、船の上で合計三週間くらいかかるじゃない? すごく退屈だったよね? 私とホセを喧嘩させて暇潰しするくらいにさ」
じとりとした目を向けると、エリアスは眩しそうに空を見上げた。
「そういえば舩の上でもこんな綺麗な空だったよねぇ。景色が海と空しかなくて……、リカルドも他の乗客がいるからまともな鍛錬もできなくて大変だったっけ。僕は転移魔法使う事に賛成してもいいかな」
よし。
きっとホセはみんながいいならいいって言いそうだから、先におじいちゃんを落とそう。
「おじいちゃんもさ、ビルデオにいる家族が心配でしょう? 向こうに到着したらさ、転移専用の部屋を作っておいてこっそり行き来すればいつでもアリリオにも会えるよ? もうずっと会ってないから、そろそろ会いたくなってるんじゃない?」
「そうだな……、赤子は数日見ないだけでも成長するから、今はどれだけ成長しているか会いたくはある。だが『
そう言って少し寂しそうに微笑むおじいちゃん。
ここでその微笑みは最高の後押しです。
これでイケるだろうと、リカルドの方に振り向いたら、さっき私がエリアスに向けたような眼差しを向けられていた。
「今、出会った頃のアイルを思い出していた。あの頃は良くも悪くも心配になるほど純粋で素直だったな……。はぁ、まぁいい。カリスト大司教達に王様という大物にバレている時点で色々手遅れだろう。…………苦労するのはアイルだしな」
最後のひと言が不穏過ぎるけど、この先の旅程を短縮できるのなら目を瞑ろう。
「あ、しかし一ヶ所寄りたい国があるんだが、いいか?」
「リカルドがそんな事言うの珍しいね、どこ?」
「ナジェールだ。ほら、タリファスの第三王子がナジェールに向かっただろう? 今はどうしているのか、これからどうする気なのかを知って置いた方がいいと思ってな」
「バナナの国だね! 私もちょっと進捗が気になっていたから、移動先をナジェールにしようか」
「アイル? 作物の品種改良って、そんなにすぐにできるものじゃないからね? 数年、もしくは数十年かかる事もあるんだから」
エリアスが残念なモノを見る目を向けてきた。
農村出身らしいから、作物の事は詳しいのかもしれない。
「そ、そんな事くらいわかってるよぅ! ほら、全くめどが立ってないのか、少しでも希望があるのかはわかるでしょ!? それに忘れられてるより、気にかけられてた方がやる気も出るじゃない?」
「へぇぇ~?」
明らかに疑っているが、私達が行った時に種の無い突然変異が実ったなんて、そんなご都合主義みたいな事思ってないもん、少ししか。
バナナはともかく、旅程がうんと短くなる事が決定したので、ウキウキしながら休憩セットを片付けた。
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