第562話 安全の対価

「戻らなきゃだよねぇ……」



「むしろ早く戻らないと、言い訳もできないまま広まっちゃったら大変でしょ? 急いで事の顛末を報告するのと、王城でのゴタゴタと片付けた皆が宿屋に戻ったらアイルがいた場合……どっちが起こられないと思う?」



「う……っ、すぐに戻る……! ビビアナ、アリリオ、近い内にまた戻って来るからね! 『転移メタスタシス』」



 苦笑いするビビアナと、私に向かっ手を伸ばしているアリリオに後ろ髪を引かれる思いで転移した。

 当然転移した先には一瞬驚いてあきれ顔の仲間達と、驚きで固まったままの王様と侍従長。



「た……ただいま……戻りました……」



 侍従長以外はソファに座ってお茶を飲みながらくつろいでいたが、なんか……仲間達がちょっと疲れているような。



「えーと、転移魔法の事は……」



「王様にはご説明した。話が広まるまでは黙秘してくれるそうだ。向こうは大丈夫だったか?」



 リカルドに聞かれ、説明する。



「アファナントカって国の使者が来て、ビビアナとアリリオを招待したいって申し出だったんだって。エンリケだけはいたけど、不安になって連絡したんだと思う。幸いエンリケが話して追い返してくれたから大丈夫だって」



「アファ……アファトルガか?」



「そう、それっ! ……です」



 出てこなかった名前が王様の口から出てきてスッキリ。

 だけど、危うく王様にタメ口きくところだった。

 パルテナ国王は敬語を使うに値するいい王様だから、ちゃんと対応しておきたい。

 


「アファトルガは五国大陸にある国のひとつで、賢者サブローが最初に現れた時にいた国だ。賢者サブローがいた時は色々と恩恵を受けていたからこそ、異世界でも同じ国出身のアイル殿をどうしても引き入れたかったのだろう。ビビアナとセシリオの子がアイル殿の愛し子だという事は有名だからな」



「ああ……、鰹節も五国大陸内だけで消費しちゃうくらい人気みたいだしね。またひと儲けしたいのかも」



「鰹節……? そういえばアファトルガの特産品にそのような物があったな。五国大陸の外に輸出すほどには、大量に作れないらしいが……。それにしても、五国大陸のアファトルガまで出張って来たとなると、他の国も警戒した方がいいかもしれないな」



「え!? もしかしてこれからも警戒が必要って事ですか!?」



「うむ、この王都や要塞都市エスポナを経由する国々であれば、事前に連絡をせざるを得ないが、五国大陸やタリファスであれば連絡が行き違ったなどの理由が通らなくもないからな」



「こうなったら毎日ウルスカに戻るしか……」



「アイル、落ち着け」



 ビビアナとアリリオを守るために燃えていたら、ソファの端に座るリカルドに頭をポンポンされてなだめられた。

 リカルドは座ったままなのに立った私の頭に手が届く、という悲しい現実に打ちのめされながらも心を落ち着かせる。



「ビビアナ達の事は王様が対処してくれるってさ。ちゃんとお礼言いなよ」



「対処?」



 エリアスがお礼を言えと言っているけど、意味のない対処だったらお礼は言えない。

 王様に視線を向けると説明を始めてくれた。



「先ほどのウルスカからの通信があった時点で、アイル殿を招待したいと書簡を送ってくる国外からの使者の可能性が高かったからな。我が国にはもうアイル殿の不興を買うようなマネをする貴族はおらぬだろう。なにせ王子達からの信頼も厚い賢者殿なのだから」



 そう言って王様はニヤリと笑った。

 そうか、次代の王からも気に入られてる賢者を敵にすれば、家門の今後に響くというやつか。



「とりあえず王都の騎士の中から希望者を募り、数名をウルスカに向かわせよう。次いで国外から来た者は王都で許可を得ねばウルスカに入れぬと、国境で告知するとしよう。これで妙な輩はウルスカに入れぬゆえ、アイル殿も安心してもらえるのでは?」



「はい! ありがとうございます!」



 これはかなりありがたい対策を取ってもらえた、他国の使者がウルスカに勝手に入れないんだもんね。

 しかも、事前にウルスカに来ると把握できるなら、増やしてくれる騎士に警護してもらうとか、色々対処もしやすいから安心だ。



 まぁ、いつだって最終手段として私が戻るという選択肢もあるもんね!

 さっきの様子を見る限り、エンリケがいれば大丈夫っぽいけど。



「それで……だな。これだけ王様にご配慮いただいて何も返さないのは礼儀に反するだろう?」



 何やら回りくどい言い方をし出すリカルド。



「そりゃ、私にできる範囲であればお礼する気満々だよ?」



 私がそう答えると、あからさまにリカルドは安堵の表情を浮かべた。

 え、ちょっと待って、最初から私に何かやらせる気だった!?



「アイルならそう言ってくれると思った。実は王様はずっと公務で、久しく国外に行ってないそうなんだ。それで休日を設けた時に、転移魔法でどこかへ連れて行って欲しいそうだ。できれば王妃様と二人で」



 つまりはお忍びデートしたいから、自分が王様とバレない国外へ行きたい……と。

 ビビアナ達を守ってくれるお礼としてはお安い御用というやつだ。



「それくらいなら喜んで! その代わり、もしまた他国の使者がウルスカに来ても対応できるように、派遣する騎士はできるだけ弁の立つ人選をお願いしますね」



「あいわかった。すぐにでも人選を開始しよう」



 こうして謁見を終えた私達は王城を出るとすぐに預けてあった馬車に乗り込んだ。

 転移魔法がバレた事はマズかったかもしれないけど、結果的にビビアナ達の安全度も上がったし、王様夫妻の仲もよくなりそうで心置きなく王都を出発した。



   ◇   ◇   ◇


更新お待たせしております。

そしてお待たせしている理由のひとつ、新作悪役転生異世界ファンタジーの公開を開始しました!

https://kakuyomu.jp/works/16817330667905655948


なんか……、男主人公なのにアイルより女子力高くなりそうな予感してますw

楽しく読んでいただけると思うので、ぜひご一読ください。( *´艸`)

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