第564話 ナジェールの食堂にて
「よし、皆乗ったね。えーと、それじゃあ……『
他の人達もいたので敢えて聞こえるように隠蔽魔法をかけた。
魔法をかけやすいように、御者は続けて私がしている。
隠蔽魔法で姿が認識できなくなった事で、驚いて立ち上がってる人もいた。
これで帰りにいきなり現れても、魔法で見えなくなるのを知っている人が実在する事で誤魔化しやすくなる……はず!
一応キャンプ場から離れ、ナジェールの港町にあった領主館の近くを思い浮かべ呪文と唱える。
「『
パルテナも夏だったけど、砂漠がある国だけあって更に暑い。
日よけとして外套を羽織ってフードを被った。
予測通り、この領主館の前の通りは人通りが少ない、少し路地に入って隠蔽魔法を解除。
「ねぇねぇ、これからどうする? 市場に行く? それとも先に宿屋を探す?」
御者席の小窓を開けて皆に相談すると、全員が顔を歪め、真っ先にホセが口を開く。
「うわっ、
「小さな小窓開けただけでこの熱気だもんね、外に出たくないなぁ。タリファスの第三王子を確認したら、すぐに移動しようよ、宿泊はせずにさ」
エリアスの提案にリカルドも頷いた。
「俺としては直接確認しなくても構わないから、どこかで食事でもして、そこで噂話でも聞かせてもらうか」
「わかった。じゃあ馬車も置ける大きめの食堂を探すね、おじいちゃんもそれでいい?」
「ああ、そういう所の方が貴族も出入りしているだろうからな。情報を収集するには口を動かす場所の方が入りやすいというものだ」
「そっかぁ、さすがおじいちゃん! それじゃあ移動するね!」
以前来た時の記憶を頼りに、貴族が出入りしそうなお店が並ぶ大通りへと馬車を向かわせた。
心なしか、馬達も暑さにうんざりしているように見える。
「一時間くらいしたら移動するから我慢してね。ちゃんと日陰にいられるところ探すから」
昼食にしてはまだ早い時間なせいか、食堂は空いている時間帯だが、一軒だけすでに馬車が数台停まっている店があった。
見るからに高級そうだが、A級の冒険者証を持つ私達なら入店拒否なんて事もないだろう。
スコール対策なのか、ちゃんと屋根のある馬車置き場なので馬達も安心して休ませておける。
店に入ると、まばらながらそれなりに席が埋まっていた。
「いらっしゃいませ」
「五名なんだが、できれば個室がいい」
「かしこまりました、どうぞこちらへ」
店員に案内されて奥にある部屋に移動していたら、不意にリカルドが足を止めた。
「アイル、あそこにいる貴族……、第三王子の侍従じゃないか? ほら、タリファスの鮫の顎亭にいただろう」
「あ、あ、あ~! ハイハイ、いたね、王子を若様って呼んでたおじさん。なんか……、一気に老けてない? あの時はギリおじさんだったけど、今は完全におじいさんだよ」
「ちょっと話を聞いてこようと思うから、先に食べていてくれ」
第三王子の侍従の方へ向かおうとしたリカルドを、私は
「待って、直接聞いたら自分達に都合のいい事しか言わないかもしれないよ。きっとタリファスからは連れ戻せって言われてるだろうし、もしかしたら私達を利用しようとするかも。隠蔽魔法で盗み聞きしてから、改めて同じ事言うか確認してもいいんじゃない?」
何度も貴族と話したから、私だって学習するのだ。
だからリカルドの目玉が落ちそうなほどの驚き方は失礼だと思うの。
おじいちゃん達に先に適当に注文しておいてもらって、私とリカルドは個室で隠蔽魔法をかけて侍従ともう一人の貴族がいる席に近付いた。
「ではやはり王子は……、タリファスに帰らないとおっしゃっているんですね」
「そうですね、今はバナナの研究が楽しくなってきたとおっしゃっているようです。それとバナナ農園の後継者といい仲になっているとか……。それだけならばその娘をタリファスに連れて行けばよかったのですが、どうやら四人目の賢者様に契約魔法をかけられて、ナジェールを長く離れられないようです」
「く……っ、あの時賢者様が頷いていてくれれば……! いや、せめてナジェールの話をしないでいてくれればこんな事には! いや、この国が悪いとかではないんですけどね」
どうやらナジェールの貴族から、侍従が話を聞いているようだ。
…………私の話題が出ているんですけど。
「このままだとあの侍従に逆恨みされないか? というか、すでに恨まれているようだが?」
「いやいやいや! あれって私のせい!? 私が言わなくても調べて自分で気付いた可能性もあるじゃない!」
隠蔽魔法で気付かれなくなっているが、一応観葉植物の陰で声を潜めて会話する私達。
だけど私的にはいい事を聞いた。そうか、第三王子ってばバナナの研究をしてくれているんだ。
ぜひともナジェールに残って、そのまま種無しのバナナの研究を続けていただきたい。
「とりあえず状況も居場所もわかった事だし、皆の所に戻って食事にしよう」
「賛成!」
何ならおじいちゃんを送った後にまた寄って、バナナの研究の進捗具合を見に行くのもいいかもしれない。
個室に戻った私達は知った情報を共有しつつ、名物と言われて出されたイカバター醤油に舌鼓を打つのだった。
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