第565話 二度目のビルデオ
「満腹満腹~!」
どうやらエドの元同僚である『
海が近いから醤油に合う料理は作り放題だよね!
「アイル、帰りはまた寄るんだよね?」
「うん、南国フルーツを買い込んで、あとはバナナの進捗状況も確認したいしね! エリアスはどこか寄りたい所でもあるの?」
「そういうわけじゃないけど……、ここの女性たちは開放的な恰好してる人が多いから目の保養になるなぁって」
「…………ふーん、よかったね」
「あ、やめて、そんな目で見ないで。別に声をかけようとか思ってないからいいじゃないか」
安定の返答に、聞いたものの興味を持てずに適当に返事しただけなんだけど。
「それじゃあ、ここからは俺が御者をするか。ほら、アイルも暑いだろ? 早く乗れよ」
「あ、うん。ありがと……」
「馬達も大変そうだし、すぐに出発しようか」
ホセが御者を買って出てくれ、リカルドの号令で出発した。
港町を出てから、隠蔽魔法を使ってビルデオの国境付近に転移する予定だ。
馬車の中では、おじいちゃんがいつもより落ち着きがない。
「おじいちゃん、家に帰るの楽しみ?」
「ああいや……、妻の墓前に何と報告しようかと考えていたんだ。本当なら娘の墓をビルデオに移動させたいところだが、そうなるとホセも複雑だろうし、ビルデオの貴族達からも色々勘繰られる事になるからな。王も知れば墓参りをしたいと言うだろう、お忍びで行くには遠すぎるし、かと言ってアイルの転移魔法を知られるわけにもいかんからなぁ」
忠義はあるだろうに、それでも私を優先して考えてくれている事に嬉しくなる。
「えへへ。おじいちゃん大好き!」
「おぉ? どうしたんだいきなり。私もアイルが大好きだよ」
おじいちゃんの腕に抱き着くと、驚きながらも空いた手で頭を撫でてくれた。
「あのね、ビルデオの王様には転移魔法の事を話さないって契約魔法で縛らせてもらえるなら、こっそりウルスカに連れて行く事は可能だと思うの。さすがに先にパルテナの王様には報告は必要だと思うけど。そうしたら逆にビルデオにウルスカの王様と王妃様をお忍びで遊びに来させてもらったりできるでしょ!?」
「な、なるほど……。では陛下が了承すれば契約魔法を使ってもらおうか、前回のように不意打ちは無しだぞ」
「わ、わかってるよぅ」
前におじいちゃんの家に行った時、契約魔法を使うって言わずに約束させたもんね。
あの時はホセの命もかかっていたから、だまし討ちみたいになったのは仕方ないと思うの。
しばらく進むと、御者席からホセが話しかけてきた。
『おい、最初の休憩場所に到着するぜ。ここで魔法使うか?』
ホセの言葉に私達の視線はリカルドに集中する。
「そうだな。先に馬を休ませてから移動しようか。転移するにしても、いきなり王都の中心というわけにはいかんだろう。国境の手前に転移してから入国した方がいいと思う」
「わかった。それじゃあ、休憩所の出発前にホセに魔法をかけなきゃね! 前と同じ色にしておこうか、屋敷の人達に見られているし」
「あ、そっか、そのままだと見た目で王様の子供ってバレちゃうかもしれないんだっけ。だ、第一王子様だから……プッ」
『てめぇエリアス! 聞こえてるからな!!』
声を震わせ、最後に噴き出したエリアスにホセの怒声が投げつけられた。
おじいちゃんはそんな二人のやり取りに、複雑な顔をしている。
あの公爵がいなかったら、娘も孫もいつでも会える距離に住んでいたんだもんね。
キャンプ場で休憩ついでにホセに幻影魔法をかけた、久々のエキゾチックな黒ホセだ。
再び馬車に乗り来み、ビルデオの国境付近に転移する。
幸い誰もいなかったので、隠蔽魔法も解除して大河にかかる橋を渡り、ビルデオ国内に入った。
前回ビルデオに来た時は、ホセに身内がいるってわかったばかりで、ホセは複雑そうにしていたなぁ。
しんみりながら窓の外を見ていると、いきなりエリアスが笑い出した。
「ふふふっ、そういえば彼に最初に会ったのはこの辺りだったよねぇ」
「彼? 彼って誰?」
「ほら、アイルが
「もうっ! 忘れてたのに思い出させないでよ!!」
「いやぁ~、こんな面白い事忘れろって言う方が無理だよ~、あははは」
ハッとしてリカルドとおじいちゃんを見ると、私から目を逸らしてへの字口をしている。
明らかに笑うのを我慢しているのがわかった。
今回は冒険者ギルドに顔を出す事はないだろうし、もうあの人には会う事もないだろう。
気にしなくていいとは言ってくれたけど、私からしたらできれば思い出されたくないから会いたくないなぁ。
いい人ではあったけどね。
「ホセ、そこの道は左に曲がると早く到着するぞ。二つ目の角を右に行けば屋敷が見えてくる」
『わかった』
何気ない道案内だったけど、おじいちゃんの居場所はここだったんだと思ってしまった。
ビルデオに入ってからおじいちゃんの表情も明るくなってる気がするし。
会おうと思えばいつでも会えるとわかっているけど、これからはおじいちゃんと離れて暮らすかと思うと寂しさに襲われて唇を嚙み締めた。
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