第566話 チャルトリスキ伯爵邸到着
『おや、君は冒険者の……。という事は大旦那様が!?』
『ああ、中に乗ってるぜ』
『おお! 旦那様に報せを! さぁ、玄関まで行ってくれ』
屋敷の前に到着したと思ったら、どうやら前回来た時の門番さんがホセを覚えていたらしい。
一人がバタバタと中へ入って行き、話していた門番さんが門を開けてくれた。
「もしこれでホセが雇われた悪い人だったら大変じゃない? もうちょっとしっかり確認しなくていいのかなぁ」
「ははは、恐らく私の匂いも嗅ぎ取ってから判断したと思うぞ」
私の心配はおじいちゃんに笑い飛ばされてしまった。
獣人の嗅覚って便利だよね。
「皆疲れているだろう、今日はゆっくり休めるように準備してもらうからな」
「アイルのお陰でかなり楽させてもらったけどね。それでもひと月くらいは移動に次ぐ移動だったもんねぇ、お風呂と柔らかなベッドでゆっくり休みたいかな」
エリアスはチャルトリスキ伯爵邸を見るのは初めてなせいか、窓の外に見える屋敷を期待の籠った目で見ている。
門から数分進むと馬車が停車した。
『旦那様を送り届けていただき、ありがとうございます! 馬車は馬番が預かりますので、皆さまどうぞ中でおくつろぎください』
『ああ、ありがとう。頼んだ』
どうやら家令のおじ様が出迎えてくれたようだ。
「ここは先におじいさんが出た方がよさそうだな」
「そうか? ではそうしよう」
リカルドの提案におじいちゃんが頷いて立ち上がった。
窓からおじいちゃんが見えたのか、家令のおじ様が馬車のドアを開けて頭を下げる。
「おかえりなさいませ、大旦那様」
「うむ、
「はい、特に問題無く……。何度か陛下から大旦那様がいつ戻って来るのかと連絡が来る以外は」
「そうか……。とりあえず戻った事を知らせる手紙を早急に書くとしよう」
少し呆れているのか、おじいちゃんはやれやれと言わんばかりにため息を吐いた。
そりゃ王様からしたら、自分の息子と一緒に妻の墓参りに行ったまま戻って来ない舅は妬ましいだろう。
「それにしても……、随分と早いお着きですね。あとひと月以上かかると思っておりましたが……、あっ、しかしお部屋の準備は万全ですのでご安心ください」
「では『
おじいちゃんの顔がキリッとして、貴族の顔にないっている。
ウルスカで好々爺的な顔をしているおじいちゃんもいいけど、やっぱりこっちの方が似合う気がする。
ホセには絶対真似できないね!
そんなホセに家令のおじ様が向ける眼差しは、とても優し気だった。
恐らくおじいちゃんの孫だという事を知っているのだろう。
「ではお部屋にご案内いたします」
「こっちの用事が片付いたらサロンでお茶でも飲もうか。一時間もかからないと思うから、それまで部屋でくつろいでいてくれ」
そう言っておじいちゃんは、私達とは反対方向へと向かった。
いやぁ、貴族ってやっぱり色々しがらみがあって大変そうだなぁ。
私たちはそのまま二階のドアが並ぶ廊下まで案内された。
「ではこちらが女性用のお部屋になります。あとはそちらの三部屋は同じ造りとなっておりますので、お好きな部屋をお選びください」
「ん? 女性用って……、オレ達の部屋と何が違うんだ?」
ホセがコテリと首を傾げた。
「準備された香油の香りが女性用の華やかな物だったりと、置いてある物が違うのです。あとはお部屋の色味も……でしょうか」
「ああ、なるほど。けどよ、お前香油なんて使うか?」
「あれば使うよ! だってエドのところにも置いてくれてるもん、ちゃんとビビアナに使い方も教えてもらってるもんね」
「ああ、だからアイツのところに行くと変な匂いさせてんのか」
「変じゃないもん! むぅぅ~」
私とホセが睨みあっているせいで、家令のおじ様がオロオロしている。
「も~、ホセってば正直に余計な香りは必要ないくらい、アイルはいい匂いしているって言えばいいのに~」
「な……っ! ま、まぁ、そりゃそうだけどよ……」
エリアスの冷やかしに、反論しそうになって素直に認めるホセ。
そんな急激な方向転換されたら反応に困るんだけど!?
家令のおじ様もオロオロした表情から、ほっこりした表情に変わってるし!!
「わ、私部屋で休むね!! はい、これ皆の荷物!」
顔が熱い気がして、
そして逃げるようにさっき教えられた部屋へと飛び込む。
「うわ……あ……、すごく素敵!」
エドのところみたいに過剰ではない、大人女子が可愛いと思う落ち着いた色合い。
そして天蓋付きベッドにくつろげるソファやテーブルも置かれている、三十畳ほどありそうな部屋。
さすがお貴族様の客室、広い。
「お風呂もトイレも部屋についてるし、これは嬉しいなぁ。この部屋を私専用にしてもらって、ここを転移する拠点にしたりして……。まぁ、転移するだけならこんなに広くなくてもいいんだけどね。むしろもっと人が出入りしない部屋の方が……、あれ? 反対側にもドアがついてる、クローゼットか何かかな?」
ガチャリとドアを開けると、そこにはソファでくつろぐホセがいた。
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