第567話 協力者

「え? あれっ!? なんでホセが……」



「そりゃ続き部屋のドアを開けりゃ、隣の部屋に出るからだろ。普段宿屋で同じ部屋使ってるから、続き部屋でも大丈夫だと思ったんじゃねぇ?」



 ホセは私と違って全然驚いてない。



「ホセは部屋が繋がってる事知ってたの?」



「入った時にドアがあったからな。アイルが使ってる部屋との距離からそうだろうと思ってたってとこだな。別に普段同室なんだし、問題ねぇだろ?」



「そっか、そうだよね……」



 確かに普段は同じ部屋なんだから、仕切りがある部屋を使っているようなものと考えればいいか。

 納得して頷く私を、なぜかホセは呆れたような目で見てきた。



「それよりなんか摘めるもんねぇ? じいさんが用事を済ますまでまだ時間あるだろ? 御者やってたせいか腹減った」



 お腹をさすりながら訴えるホセに、夕食に差し支えない程度の食べ物をストレージから探し出す。



「う~ん、屋台で売ってた串焼きくらいならあるけど。はい」



「おお! いいじゃねぇか、ありがとな! あむ……っ、ここの串焼き美味うめぇな、帰りも買っていこうぜ」



 表情はホセだけど、色が違うせいで妙に落ち着かない。

 ここはサッサと自分の部屋に戻ろう。



「転移魔法で帰るなら買えないよ? それじゃ私は部屋に戻るね」



「え? 別に呼びに来るまでここにいりゃいいだろ。どうせ一人でいても暇なんだしよ」



「そうだけど……。一人の方がのんびりできるでしょ?」



「別に、アイルがいてものんびりできるぜ? なんだ? もしかしてオレと一緒は嫌なのか?」



「いや、そういうわけじゃないんだけど……」



「けど?」



 ジッと答えを待って私を見つめるホセ。



「う……、だっていつものホセじゃないから落ち着かないんだもんっ」



「へ? あ、あ~……そういや髪の色変えてるんだったな。自分じゃ視界に入らねぇから忘れてたぜ。……珍しく繊細な事言うじゃねぇか」



 ニヤリと笑う姿も、いつもよりニヒルな感じに見えてドキッとしてしまう。

 そんな気持ちを悟られないように、怒ったフリして早口でまくしたてながら後退あとずさる。



「私は元々繊細なんです~!! ホセと違ってね!! そんな繊細な私は自分の部屋で過ごすからっ」



 言い切ったと同時に部屋を隔てるドアを閉めた。

 ふぅ、どうして色が違うだけで、あんなに雰囲気が変わるんだろう。



 おじいちゃんが言った通り、一時間ほどしてからサロンへ呼ばれた。

 さっきまでのラフな格好ではなく、初対面の時のような貴族らしい服装をしたおじいちゃんはカッコイイ。

 ううん、おじいちゃん「も」カッコイイだね!



「待たせたな。もうすぐ夕食の準備もできるが、息子や孫達と一緒では気疲れするだろう? 時間を分けて準備させるように言っておいた。それまでお茶を飲みながら待っていよう」



 メイドさん達が全員分のお茶とお茶請けを用意してくれて、いつの間にかいなくなっていた。

 客に気を遣わせないくらい気配を消すだなんて、すごいプロ意識。獣人ならではの特技かもしれないけど。

 私達はソファに座り、くつろぎながらお茶を飲みながら話す。



「急に帰って来たけど、食材の準備とかしてなかったんじゃない? なんなら私達の分は手持ちの料理とか、町の食堂で済ませてもいいと思うけど」



「ははは、食材は普段から多めに仕入れているから問題ない。十人程度であれば急な来客にも対応できるようにしているしな。ウチは騎士の家系なせいか息子や孫が部下を連れて来て食べさせたりする事も多いんだ。独立したての新人騎士は、生活に手一杯で食事をおろそかにする者もいるからな」



「そっか、それなら大丈夫だね」



「とか言って、本当は町で食事するついでにお酒を探そうとしてたんじゃないの~?」



 エリアスが揶揄からかうように私のほっぺをツンツンと突いてきた。



「そんな事ないよ!? 別に明日行ってもいいわけだし」



「あ、やっぱりお酒は買いに行くんだ」



「だってビルデオにしか売ってない物とか結構あるんだもん。獣人の種族によって好みが違うせいか、品揃えもいいんだよねぇ。定期的に買い物に来たいよ……」



「うむ、その事なんだが……、この屋敷だと人目が多い。かと言って街中に所有している家を使うとしても同様だろう? 結局、隠蔽魔法を使って転移するのが一番確実なのではないか? 人目がない時に隠蔽魔法を解除すれば問題なかろう。まぁ私が行き来する分には、通信魔導具で連絡を取って私の部屋に転移すれば問題ないしな」



 おじいちゃんはおじいちゃんで色々考えてくれていたらしい。

 確かに一人で来るのならその方が楽かもしれない、裏路地だったら人目につかない所もいっぱいあるだろうし、明日にでも目ぼしい転移スポットを探してみよう。



「転移の事をどこまでの人に教えるかによって色々計画が変わるよね。門番さんなら何日かおじいちゃんの姿を見なくても不思議じゃないけど、家令のおじ様だったら何かあった時におじいちゃんを探して、屋敷にいない事がバレる可能性もあるでしょ?」



「確かに……。家令にだけは話してもいいか? 彼が協力してくれるなら、かなり誤魔化すのが楽になる」



「うん、おじいちゃんが信頼してる人なら大丈夫だよ。だけど息子さんやお孫さんには内緒にしてほしいな、貴族であれば色々私を利用できる場面も多そうだし」



「確かに……、息子達は絶対に大丈夫とは言い難いかもしれんな……」



 息子さん達にはうっかり他所よそで話されては困るので、結局家令のおじ様にだけ話して協力を仰ぐことに決めたようだ。

 この日はチャルトリスキ邸に泊まり、翌日皆でいい転移スポット探しと、買い出しに行く事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る