第568話 ショートカット
「よしっ、これで買う予定の物は全部買えたかな。あとは転移するのに最適な場所を探すだけだね」
「アイル、こっちの方にいい場所があるぞ。商家の住宅地なんだが、基本的に皆仕事に行っているから、昼間はほとんど人通りもないんだ」
「おじいちゃんよくそんなの知ってるね」
「騎士団にいた頃は、治安維持のために王都中歩き回ったからな。
「さっすが~! おじいちゃんデキる男~!」
「ははは、アイルは褒め上手だな」
おじいちゃんと腕を組み、商店街の裏路地へと向かう。
「チッ」
「まぁまぁ、ホセ。今日で僕達はウルスカに帰るんだから、アイルも寂しくて甘えてるんだよ」
私達のあとからホセ達もついて来ているが、どうやらホセは私がおじいちゃんにべったり甘えているのが気に入らないらしい。
そりゃあね、本当はホセのおじいちゃんなのに、血のつながらない私の方がべったりしてるのはいい気がしないんだと思う。
「ホセも素直に甘えればいいのに」
「ははっ、私はホセが甘えてくれてもいいんだがな」
なぜかおじいちゃんに頭を撫でられてしまった。
そして後方では不機嫌そうなホセをエリアスがなだめている。
「本当に一気に人通りがなくなってるね、確かにここならいいかも。一本表通りに出たら人ごみにまぎれやすいし」
「だろう? 馬車ごと移動したいのなら、さすがに街道のどこかに転移してから入らねばならんだろうが」
「うふふ、これで更に色んな調味料を探しに来れる……。あっ、ちゃんと外套のフード被って私ってわからないようにするからね! それとも幻影魔法で獣人の姿になった方がいいかなぁ」
「それは匂いでバレるだろうからやめておいた方がいいだろう。ウルスカの辺りとは気候が違うからな、暑いのであれば日よけ用の外套も売っているぞ」
そうして日よけ用の外套を手に入れた私は、ホクホク顔で屋敷に戻ると、皆と一緒に馬車に乗り込んだ。
といっても、転移魔法使うタイミングを見計らうために、私は御者台に座っているんだけれど。
「それじゃあおじいちゃん、寂しくなったらいつでも連絡してね! お話しするだけでもいいから!」
「ああ、そちらも何かあったら教えてくれ。心配ないとは思うが……気を付けてな」
「うん! それじゃあまた!」
馬車に乗ってる三人も窓越しに手を振っているのか、おじいちゃんが手を振って見送ってくれた。
そしてビルデオの王都を出て一つ目のキャンプ場に到着したので、小窓を開けて相談する。
「ねぇねぇ、もうこのままウルスカの近くに転移しちゃわない? 隠蔽魔法使った状態なら見られないしさ。考えてみれば、もし見られても隠蔽魔法使ってたんだって言い張れば何とかなるよね?」
「その方が楽なのは間違いないね。帰って来るのが早いとか言われたら、途中でおじいさんが冒険者を護衛に雇ったとか、適当に言い訳すればいいよ。僕はアイルに賛成だな……船に乗らなくて済むし」
エリアスの本音は最後のひと言に詰まっていた。
特にあの離島に行きたくないんだろうなぁ。
「いいんじゃねぇ? オレも賛成するぜ、護衛対象もいないのに、ただ移動するのも面倒だしよ」
「ホセの場合はエドガルドのいるトレラーガに寄りたくないんでしょ~」
エリアスはニヤニヤ笑いながらホセをつついた。
「否定はしねぇ」
「どうする? すっとばしてウルスカに帰ったからって、わざわざアイルに会いに来たりして」
「やめろ。それにアイツもそんなに暇じゃねぇだろ」
「ねーねーリカルド、もう転移しちゃおうよぅ」
「わかったわかった! 転移で帰っていいから皆落ち着け」
私達の騒がしさに呆れたのか、リカルドの許可が出た。
「やったぁ! 待っててねビビアナ、アリリオ! すぐに帰るからね~! えーと、一応『
次の瞬間にはウルスカまで馬車で十分ほどの場所にいた。
ちょうどカーブになっているから、真っ直ぐな道と違って遠くから見られる事もない。
「すぐにウルスカに到着するからね!」
ピシャリと小窓を閉めると、隠蔽魔法を解除して馬車を走らせた。
ビルデオと違って涼しい風が頬を撫でる。
ウルスカに到着すると、ちょうどルシオが門番をしていた。
「あっ、ルシオ、ただいま~!」
声をかけながら全員分の冒険者証を渡す。
「え!? 『
「その予定だったんだけどね。色々あって早く帰って来ちゃった」
「そうか、そりゃビビアナ達が喜ぶんじゃないか? おかえり。ほら、冒険者証返すぜ」
門前広場で馬車を降り、馬達を預けて本体をストレージに収納する。
「早く帰ろう!!」
「待て。先にギルドに報告だろ?」
駆け出そうとしたら、ホセに頭を掴まれた。
「はは、先に戻ってていいぞ。アイルは御者をしていて疲れただろう? それに誤魔化す時にアイルがいると色々とバレそうだからな」
リカルドが笑顔で優しい事と酷い事を言っている。
でも先に帰れるんだからいいか。
この後、ちょくちょく転移魔法で戻っていた私と違い、後から帰って来た三人はアリリオに忘れられて泣かれたのはご愛敬である。
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