第500話【閑話】ビビアナの過去
「あっ、お腹が張ってきちゃった。ちょっと待ってね。……ふぅ」
「大丈夫かビビアナ? 抱き上げて行こうか?」
「うふふ、大丈夫よ。それにアイルが歩けるなら歩いた方が安産になるって言ってたじゃない」
家の階段の途中で立ち止まり、お腹をさするあたしの顔を心配そうに覗き込むのは夫であるセシリオ。
王都で騎士をしていたというのに、あたしのためにウルスカに来ることを決断してくれた愛しい人。
孤児院で育ったあたしがこんなに幸せになるなんて、あの時は想像もしてなかったわね。
◇ ◇ ◇
「マザー、すまないがこの子をここに置いてやってくれないか?」
「えぇ!? ビビアナではないですか、どうしたのですか!?」
「ビビアナの親が二人共疫病で死んでしまったんだ。二人が生きている間はウチで預かっていたんだが、いつまでも預かっていられないし……」
そう言ってマザーにあたしを預けたのは、ウルスカ近くの同じ村に住んでいた村長。
当時は二歳になったばかりで実際には殆ど覚えてないから、後で聞いた話で記憶を修正しているかもしれないけど。
村に教会が無く、時々両親とウルスカの教会まで来ていたおかげでマザーとも面識があったからあっさり預けられた事を覚えている。
しばらく村長のところにいて両親と離れていた事も大きいとは思うけど。
翌週には両親が迎えに来ないと大泣きしてマザーやシスター達を困らせたらしいけど……あたしは覚えてないわね。
それから一年もしない内にホセとホセの母親が孤児院に来て、それからは姉としてホセの面倒を見ていたわ。
小さい頃のホセは可愛かったわねぇ。お姉さんぶっていたあたしの言う事を素直に聞いていたし、なにより見た目も可愛かったのよね~!
あの頃のホセをアイルが見たら、抱き締めて離さないんじゃないかしら、うふふ。
今は孤児院を出て他の町へ行っていなくなった人達だけど、色んな人がお世話してれたり、色んな事を教えてくれたわ。
その中には冒険者になった獣人のお姉さんもいて、あたしとホセは凄く可愛がってもらったのよね。
あたし達が冒険者になったのは彼女の影響も大きいんじゃないかしら。
ウルスカに留まった人達もそれなりにいるけど、女性は娼婦になった人が少なくないのは後見人がいないという事が理由でしょうね。
だけど彼女達が孤児院に顔を出して色々教えてくれたから今のあたしがあると言っても過言じゃないわ。
「いい? ビビアナ、成人する少し前に貴族がお忍びで訪れるような店に出入りしなさい。女遊びに飽きて、何も知らない女の子を一人前の女性に育てるのを趣味としてる人が一定数いるの。そんな男を捕まえて育ててもらうといいわ。あんたは冒険者になりたいって言ってたでしょ? だったら貴族の依頼を受ける事もあるはずよ、その時に困らないように知識は必要だもの。利用できる物はなんでも利用しなさい」
そう言われるまでそんな事を考えもしなかったから、凄く驚いたのを覚えているわ。
それで貴族がお忍びで来るという店に
女遊びに飽きているという時点で年上なのは当然だけど、その人は三十代後半だったかしら。
色んな店に連れて行ってくれて、プレゼントもたくさんもらったわ。
成人したと同時に夜を共にしたけど、その時には凄く彼を尊敬していたし、後悔はしてない。
あたしの誕生日は孤児院を出た日でもあったから、冒険者ギルドに行くためホセが宿屋に迎えに来る時間に間に合うよう急いで戻ったのよね。
あの日は会った途端にしつこくあたしの匂いを嗅いで、泣きそうな顔していたっけ。
あれは姉を取られたと思ったのかしら、今となっては絶対に答えてくれないでしょうねぇ。
二年後にはホセも孤児院を出て一緒に宿屋で生活するようになったわ、幸いあたし達は腕が立ったから生活に困る事もなかったし。
一年後にはトレラーガまでの護衛依頼を受ける事もあったわね、大抵は合同だったけれど。
トレラーガからウルスカに戻る護衛依頼を受けた時にリカルドとエリアスが一緒になったのが二人との初対面だったかしら。
最初エリアスは口説くような事を言っていた気もするけど、脈が無いとわかったらアッサリ引き下がったし、リカルドも下心を含んだ視線を向けて来なかったから二人共結構好印象だったわね。
数日ウルスカに滞在するというから、あたしとホセだけじゃ厳しい討伐系採取依頼を一緒に受けたりしたのよね。
その時に凄く連携がとりやすいと四人共思ったのが切っ掛けでパーティを組む事になったの、それが今の『
二人が拠点をウルスカにしていいと言ってくれた事には凄く感謝しているわ。
パーティを組んで一年もしたら今の家も買う事ができたもの、トレラーガだったら家も土地も高いからあと数年は宿屋暮らしだったはずよ。
なにより孤児院から……マザーから離れたくなかったし。
ん? 恋愛はどうだったかですって?
そうねぇ、時々色んなプレゼントしてくれるお忍び貴族と遊んだりはしていたけど、ある日凄く緊張した新人冒険者が声をかけて来たの。
貴族籍を抜けて独り立ちするためにウルスカに来たばかりで、あたしに一目惚れしたんですって、うふふ。
その時これまで感じた事の無い胸の高鳴りというか、高揚感を覚えたのよね。
それで付き合う事になって、手取り足取り腰取り優しく色々教えてあげたわ。昔あたしがそうしてもらったようにね、とっても……楽しかった。
だけど段々彼氏ヅラというか、ずうずうしくなってあたしを束縛したがるようになったからサヨナラしたの。
そうしたらいつの間にかその彼はウルスカからいなくなっていたわ。
何度かそういう事があって、パーティの男共が何か言いたそうにしていたけど、その頃にはアイツらはあたしにとやかく言う資格が無いくらいには遊んでいたからか口に出す事は無かったわ。
そんなこんなで食生活以外が充実してたんだけど、あの日ホセがアイルを連れて来た事で食事だけじゃなく、心まで満たされる生活になったわ。
これまでも楽しかったけれど、アイルが来てから皆も以前よりたくさん話すようになったし、よく笑うようになったのは間違い無いわね。
アイルがいなかったらセシリオと出会う事も無かったでしょうし。
今は女神の化身になったみたいだけど、あたしにとってはアイル自身が幸運の女神だわ。
ふふ、そんな事考えていたらアイルに会いたくなってきちゃった。
通信魔導具で連絡をくれたから、あと数日だけ我慢ね。
帰って来たら子供の頃のホセみたいな満面の笑みで抱き着いてくるかしら、それともお腹を気遣って
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