第17話 夢の中

「アイルがパーティの一員になったんなら装備品はパーティの共有財産から支払う事になるな、明日取りに行くなら渡しておこう。エリアス」



「うん、値段はもうわかってるの?」



「えと…、銀貨4枚…」



「わかった、じゃあ明日武器を取りに行く時に渡すね、ホセ、ついでに防具も一緒に見繕ってあげて」



「了解」



 夕食後に私のパーティ加入が決まり、話し合いが行われている、ちなみに親子丼は好評だった。

 リカルドはテキパキと決めるべき事や指示を出し、流石リーダーだと思わされた。

 そしてどうやらエリアスが会計係の様だ、確かにキッチリしてそうだもんね。



 話し合いが終わり、魔導具でお湯が沸かせるお風呂に入って自室で寛いでいたら、あっと言う間に夢の世界に旅立った。

 でも本当に夢の世界なんだろうか、母が泣きながら長細い大きな箱を引き取っている。



「検死が終わりましたのでお嬢さんをお返しいたします、あの…、水は飲んでいなかった様で死因は溺死ではなく川に落ちた時点で心臓麻痺で亡くなったらしく、最後は苦しまずに亡くなっているとの事です」



「うぅ…、愛留…っ、ありがとうございます、せめて最後が辛く…無かったとわかっただけでも…っ、ふぐ…っ」



『お母さん…』



 女神様の水鏡を通り抜けた時点で死んじゃった訳だから全く苦しんでないのは本当だよ。

 家の中に運ばれた私の身体が入った棺桶に引っ張られる様に移動すると、そこには憔悴した弟の姿があった。



「姉ちゃん…、おかえり…。俺がバカだったばっかりに…、ごめんな…っ、元はといえばあの時に如月さんの連絡先を加奈子姉ちゃんに教えてなきゃ今頃とっくに結婚して幸せになってたはずなのにっ、何であの性悪を見抜けなかったんだろ、ごめん、本当にごめんなさい…っ」



 棺桶に縋りつきながら泣く弟の頭をそっと撫でる、感覚は無いから通り抜けているのかもしれない。



『あんたがバカなのは今更でしょ、響翔ひびとが教えてなくても加奈子はきっと別のルートから調べてたはずだから気にしないで。それよりちゃんと大学卒業しなさい、お父さんとお母さんの事頼んだわよ』



 当たらないとはわかっているが、最後にいつもの様に軽くペシンと頭を叩いた。



「姉ちゃん…?」



 自分の頭に手を当ててポツリと呟いた、ポカンとしたその表情は幼い頃と変わっていなくてクスッと笑ってしまった。

 最後に自分の部屋を見たいなと思ったら天井を通り抜けて2階の自室に移動した。



 そこにはベッドに凭れ掛かってお酒を飲んでる父が居た、魂が抜けた様な顔で日本酒を煽っている。

 こんな父は見た事が無い、今になってちゃんと愛されていたんだと自覚した。



「煙たがられてももっと構っておけば良かったなぁ…、まさか…嫁に行くんじゃなく居なくなるなんて…」



 片手で目を覆い肩を震わせる父の姿に胸が痛む、もっと親孝行しておけば良かったなぁ。



『ごめんね、お父さん…』



 父から見えなくても気不味くて窓の外に目を向けると私が落ちた川が目に入った。

 次の瞬間には川縁に移動していて、そこには死ぬ間際に見た元彼…亮太が居た。



「加奈子は殺人容疑で逮捕されたよ…、俺…ちゃんと証言するからな、あいつが死んでよって言ったのをちゃんと聞いたし、絶対許さない…!」



 涙ながらにそう言うと花束をガードレールの下に置いた、加奈子のせいで皆に嫌われてると思ったけど、意外にも多くの花束や飲み物が死亡現場に置かれていて驚いた。

 そしてそこにもうひとつ花束が置かれた、置いた人は初めて結婚したいと思った人、如月隆臣だった。



「…愛留の知り合いですか?」



 隆臣がポツリと亮太に言った、私を呼び捨てにしたせいかピクリと眉根を寄せて頷く。



「ええ、亡くなる前、最後に付き合っていたのは俺なんです」



 一瞬隆臣は瞠目したが、言い方で既に別れていた事に気付いたのだろう、そしてその原因は加奈子だと予想していると思う。



「僕は…一時期婚約までしたんですが加奈子に妨害されて別れる事になったんです…。だけど忘れられなくて…、なのに…もうこの世に居ないだなんて信じられない…」



『何のマウント取り合ってんのよ、こちとら半分はあんた達のせいで恋愛なんてする気も無くなったっていうのに! どうせその執着も罪悪感からきてるだけだわ。まぁ…、加奈子がいなけりゃ幸せになってたかもしれないけど…、むしろ相手が私じゃなきゃ加奈子に関わる事も無く平和だったかもね。そうね、いい思い出もあるからそれでチャラにしてあげるわよ、だから私の事は忘れてちゃんと結婚しなさいよ!』



 少しでも伝わるといいなと思い、聞こえないのはわかってるけど言わずにはいられなかった。

 不意に2人が私の方を見た、もしかして見えてる? それとも声が聞こえた?



「なんだか…、愛留に叱られた気がした…」



「え? あなたも? 俺も今そんな気がして…。本当に叱られたのかもしれませんね、しっかりしなさいよ! とか言ってそう」



「確かに…」



 男2人は涙を滲ませながら笑い合った、その姿を見て少しだけ心が軽くなる。

 あれ? 身体も軽くなってるのか視点がどんどん高くなっていってる様な…。



「家族の事とか気にしてると思って~、向こうには聞こえなかっただろうけど、最後の挨拶は出来たかしら? あなたが教会で祈ってくれたから精神だけ呼んでみたのよ~、向こうの世界では上手くやってる? まぁ、あれだけ加護付けてれば大丈夫に決まってるわね、良縁の加護で困ってたら手助けしてくれる人に出会えるはずだし。あ、もう戻さなきゃ昏睡してると思われちゃうわね、それじゃ!」



「あ、ちょ…っ、待…」



 相変わらず人の話を聞かない女神様だ、でも最後に家族の顔を見られて良かった。

 眠った気はしないけど、カーテンの隙間から差す朝日を見て身体を起こした。

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