第16話 パーティ
「まだ炉の火を落としてないから明日の朝にゃ出来てるぜ、いつでも取りに来な」
取りに来るにしても誰かと一緒じゃないとビビアナに叱られてしまう、伺う様にホセを見たら頷いてくれた。
「いいぜ、取りに来る時も付き合ってやるよ」
「ありがとう! じゃあ、明日の朝取りに来るわね」
「おぅ、任せとけ。 そういや靴はどうする?」
「それはもう少しお金を貯めてからにするわ、その時はよろしくね」
仕込み靴の話をホセにはしていないせいで首を傾げていたけど、隠し技なので態々話すつもりは無い。
オマケの棒手裏剣もそのまま貰って工房を出ると、ホセには少し町の探索に付き合ってもらう事にした。
石畳の路地裏を歩いていたら祈る様な声が響いて来た、大人と子供の声が重なり優しい歌の様なその声に誘われて歩いて行くと教会があった。
「ここがオレとビビアナが育った孤児院のある教会さ、今はお祈りの時間みたいだな。オレは面倒だったからよく逃げ出してマザーに叱られたよ」
「ふふっ、ビビアナにも叱られてたんでしょ。目に浮かぶわ」
「バレたか。ここまで来たついでに顔出して行くか、アイルをマザーに紹介するよ」
今までとは違う優しい微笑みにちょっとドキッとした、悪戯小僧の真剣な表情を見た様な…、これがギャップ萌えというやつか…!
私の中ではホセのイメージはやんちゃ小僧なので優しい微笑みは予想外だったのだ。
しかしあくまで鑑賞対象としてだけど、推しと恋愛は別モノだからね、うん。
ふと声が止み、ホセが教会の扉を開けると中に居た人達が一斉にこちらを向いた。
「あっ、ホセ兄ちゃんだ!」
「ほんとだ、ビビアナ姉ちゃんは!?」
「知らない子連れてるぞ」
知らない子…、子って言われた…。
密かにショックを受けつつ子供達に集られているホセを笑顔のまま見ていたら、優しそうな初老のシスターが声を掛けて来た。
「教会へようこそ、あなたはホセのお友達かしら?」
「お友達…ですかね? 先日知り合ったばかりですがホセ達の家でお世話になってるアイルと言います。あの、あなたがマザーですか?」
「ええ、そうよ。ホセが話したのかしら?」
「ホセとビビアナから聞いてます、お酒に酔ったホセを叱ったら私、マザーと間違えられたんですよ、ふふふ」
あの時のホセを思い出して笑ってしまった、マザーもあらまぁと目を見開いてから上品に笑っている。
「あっ、アイル! バラしたな! お前達、いい加減離れろ! また今度遊びに来るから!」
子供達に纏わりつかれていたホセが手足にくっついた子供達をそのまま引き摺りながら近付いて来た。
「ホセ兄ちゃん、その子も孤児院に入るの?」
「いいや、こう見えてもアイルは15歳らしいからな、孤児院に入ろうと思っても入れねぇよ」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
今の驚きの声にマザーの声も混じっていたような、ヌゥ…、童顔で若く見られるのは慣れてるけど、ここまで驚かれるとクるものがある。
子供達にガン見されてるし。
「コラコラ、女の子をそんなに見つめるのは口説く時だけにしろ。今日はアイルをマザーに紹介したかっただけだからもう行くよ、今度はビビアナも一緒に連れて来るから、またな」
「せっかく新しいお友達ができると思ったのに~」
ホセが私と子供達の間に身体を割り込ませてガードしてくれた、というか、その説得の仕方はどうなんだ。
1人の女の子が残念そうにしてくれたので次来た時は遊ぶ約束をし、ホセと女神像にお祈りをしてから教会を後にした。
女神像はやはりあの時の女神様に似ていたので本人なのだろう。
「なんか男の子が多かったね、だから女の子のお友達が欲しいのかな?」
教会を出てから教会にいた子供達を思い出した、孤児院の男女比率は大体8:2で男の子が多かった、あれでは女の子の肩身が狭いんじゃなかろうか。
「あ~…、娼婦の子供が男だと娼館で育てられないからな、女だと将来娼婦にできるから主人が育てるのを許してくれるんだ。避妊薬はあるけど貴族や金持ちの妾になるのを夢見て避妊薬を飲まない奴はどうしてもいるからな…。けど、本当に妾になれる奴なんて一握りなのさ」
「な、なるほど…」
おおぅ、この世界の闇を覗いてしまった気がする、子供からしたら親元で娼婦になるのと孤児として育つのはどっちが幸せなんだろう。
私が沈んだ顔をしていたのか、態とらしいくらいに明るい声でホセが話しかけて来た。
「さ、金は預かって来てるからたっぷり肉を買って帰るぞ!」
「そうだね、今日の夕食は何にしようかな…。ホセは何のお肉が食べたい?」
「昨日の唐揚げが美味かったからまた鶏がいいな…。でも歯応えはボア系の方があるんだよなぁ。間をとってパイソン系も…、いや、でもやっぱり鶏だな」
「私が食べた事無いお肉もありそうだからひと通り買ってもいい? とりあえず今日は鶏を使って親子丼にでもしようか…、丼物を作るならやっぱ魔導炊飯器欲しいなぁ」
「お? じゃあ買っていこうぜ、魔導炊飯器」
「え、でも私が居なくなったら使わなくなるでしょ? いつまでいるかわからないし態々買うのもどう「ずっと居ろよ」
「え?」
「そうだよ、オレ達のパーティに入ればいいじゃないか。皆も絶対賛成するはずだからな、アイルが作った飯は全部美味かったし、食べられなくなるのは嫌だ! アイルが出て行ったらきっと皆で探し出すぞ」
「パーティか…、確かに皆ならもう魔法の事知ってるから目の前で使っても問題は無いね…。だけどランクとかあるでしょ? それに本当に皆賛成するか分からないし」
「大丈夫だって、皆アイルが強いのも知ってるし、何よりアイルが作る飯の虜だからな! 帰ったら聞いてみようぜ」
なんだろう…、この胃袋を掴んだというより餌付けしてしまった感が強いのは。
きっと勢いよく振られているホセの尻尾のせいかもしれない。
その日の夜、結局満場一致で私もパーティの一員になる事が決定した。
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