第18話 棒手裏剣の威力

 サラダとベーコンエッグとパンというシンプルな朝食を済ませてブラス親方の工房へと足を運んだ私とホセ。

 来る途中で魔法を使える事を親方に話しても問題無いかとホセに相談したら問題無いとの事、職人気質で口が堅い上に本人も魔法を使える世代なので事を大きくしないだろうという事で魔法解禁の試しをする事にした。



「お、もう来たのか、いい仕上がりになってるぜ」



 私の顔を見るなり親方はいそいそとカウンターの下から棒手裏剣を取り出した、今日はカミロは居ない様だ、布張りのトレイに乗せられた棒手裏剣は美しいと言うのがピッタリな仕上がりで、手に取って軽く構えると以前から使っている物の様に手に馴染んだ。



「凄い、投げる前から最高の出来だってわかる」



「はっはー、お嬢ちゃん見る目あるじゃねぇか!」



 ポロッと溢した言葉を聞いて笑う親方、半分は鑑定のお陰なんです、とは言えずに日本人の特技愛想笑いで誤魔化した。

 親方が立ち上がって顎をしゃくる、裏の試し場に行くぞって事みたいなのでついて行く。



「さぁ、投げてみな」



 言われてチラリとホセを見ると軽く頷いてくれたので棒手裏剣に魔力を通した、するとまるで棒手裏剣が手の延長みたいに感じる。

 投げる時に伸ばした指先で的の中心に触れる感覚になり、スコンという軽い音と共に的の中心に刺さっていた。



「凄い、こんな感覚初めて…」



 魔力操作はホセと最初に会った時に飲み水用の水球を動かして経験していたが、純粋に魔力だけを動かすのと武器に魔力を通して操作するのは感覚が違う。

 投げる度に本来ならクルクル回転しちゃう様な投げ方をしたり、態と横に投げたり、魔力量を変えてみたりと試したが、全て的に吸い込まれる様に命中した。

 魔力量によって威力が変わるらしく、魔力を多めに流したら的を貫通してしまった。



「お嬢ちゃん…、魔力操作してなかったか? この時代にそれが出来る人族が居るなんて…。エルフ…じゃねぇよなぁ…?」



 パチパチと瞬きを繰り返し、私の胸に視線を向けてから耳を確認した。

 エルフってやっぱりスレンダーなんだね、いいんだ、数年後には絶対間違われなくなってるから。



「わかってると思うけど内緒で頼むぜ、カミロに話すかどうかはおやっさんに任せるよ。あ、ちなみにアイルは昨日正式に俺達のパーティに加入する事になったんだ、お勧めの防具見繕ってくれないか?」



「ふ…ん、信用してバラしてくれたんだ、それに応えねぇヤツは男じゃねぇさ。お嬢ちゃんついて来な、店にちょうどいい防具があったはずだ」



 棒手裏剣を回収して親方の後について行く、店内にあった籠手や胸当てをカウンターの上に並べて軽く身体に宛てがう。

 一応袖に仕込む棒手裏剣が出し入れしやすい様にと籠手は左だけにした、実際はストレージから出すから関係無いんだけど。



「体力も筋肉も無さそうだから皮の方がいいだろ、手入れの仕方はホセ達に教えてもらえ。うん、籠手はコレでいいな、胸当ては…こっちでいいか」



 3つ並んだ胸当ての内、親方が持ち上げたのはつるんペタンなシルエットの物。

 私は無言で膨らみが作られている方を掴んだ、すると親方が可哀想なものを見る目で私を見た。



「さっ、3年後にはこれでも小さいと思うくらい成長するから! 本当よ!? 成長期なんだからその度に買い換えるよりは経済的だもの!」



 親方の視線に居た堪れなくなって思わず力説してしまうとホセがそっと両肩に手を置いた。



「アイル、これでもオレ達はBランク冒険者なんだぜ? 装備の買い替えくらいいつでもしてやるから親方に任せとけ、な? 考えてもみろ、今後他のパーティと合同で野営をする事もある。その時胸当てを外したアイルを見てそいつらがどんな顔をすると思う?」



 そう言われて想像してみた、「コンプレックスだから装備で胸を盛っていたんだな」という生温かい視線を向けられる私が頭に浮かぶ。



「く…っ、親方の選んだ方にする…」



 ホセに菩薩の様に優しい微笑みを浮かべられるという屈辱に耐えながら何とか答えを絞り出した。

 慰める様に頭を撫でられて余計に情けなくなる、3年後には絶対見返してやるんだから!



 防具を装備して一端の冒険者らしくなった私はホセと共に冒険者ギルドへと向かった、他のメンバーと待ち合わせして私のパーティ登録をするのだ。

 半端な時間なので冒険者ギルドの中は人もまばらだった。



「こんにちは、『希望エスペランサ』は今日まで休養日だったのでは?」



「やぁ、バネッサ。今日は依頼じゃなくてアイルのパーティ登録に来たんだ」



 リカルドが爽やかにそう告げるとギルド内が騒ついた、それも仕方ないだろう、Bランクというベテランパーティに一昨日登録したばかりの新人が入るというのだから。

 しかし私がストレージを持ってる事を知ってるバネッサはニコリと笑いかけてくれた。



「では『希望』は益々活躍してくれますね、楽しみです」



「でっしょー? あたし達がAランクになるのも近いかもよ?」



 ビビアナが背後から抱き着いてきた、こうやって認めてもらえる事が嬉しくて何だか心が擽ったい。

 パーティ登録する時にはパーティメンバー全員の承認があるという証明として全員のギルドカードが必要らしい。



 何やら魔導具にカードを翳して登録完了した様だ、手元に戻って来たカードを見ると【パーティ名『希望』】と記入されている。

 本当にパーティの一員になったんだと実感が湧いてきてカードを眺めながらニヨニヨ笑っていたら皆に頭を撫でられてしまった。

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