第157話 帰宅

 ギルド長室から出た私達はギルドの酒場で夕食を済ませる事にした、夕食には早い時間だけど依頼を済ませた冒険者達が次々に戻って来て酒盛りを始めている。

 食事が終わる頃には解体に出した黒猪ブラックボアを持って帰れるだろう。



 食事をしていたら顔見知りの冒険者達が「おかえり」や「戻ってきたのか」と声を掛けて来た、その中に私に代わってをしてくれたバレリオが居た。



 あの時順番も代わってくれたし、お礼をしなきゃと思いつつ公爵家兄妹の事ですっかり忘れていた。

 厨房に手間賃を払って赤鎧を茹でてもらい、ここでも2体分の解体ショーを実演。

 1体はウチのパーティのお腹に収まるのだけれど。



「はい、どうぞ。この前私の代わりに新人の教育してくれたでしょ? そのお礼だから遠慮なく食べて!」



「コレ…、匂いは良いが…食って大丈夫なのか?」



「もちろん、凄く美味しいんだよ。ホラ見て」



 どうやらバレリオは赤鎧とはじめましての様だ、私は解体済みの赤鎧を頬張っている『希望エスペランサ』の皆を指差した。

 その食べっぷりを見た人達はあんぐりと口を開いている、バレリオも。

 そんな姿を見た私がやる事はひとつ。



「はい、あ~ん」



 1番食べやすい脚を口に突っ込んだ。



「んぐっ!? …んんっ、ウマイッ!! 何だこれ、不思議な甘味があって…口当たりが優しくて…見た目を裏切る美味さだな! 嬢ちゃんありがとよ!」



「ふふっ、どういたしまして。お礼だから遠慮なく食べて。あっ、私も食べるからね!?」



 妙に上手いバレリオの食レポを聞いて振り向いたら、私達のテーブルの赤鎧がほぼ食べ尽くされそうになっていたので慌てて参戦する。

 タリファス出てから食べて無かったから皆も食べたかった様だ、食べようと思えば見たくなくなるくらい食べられるんだけどね。



 く…っ、結局脚は全部食べられていたので甲羅の中に出した解れた身しか食べられ無かった…!

 いいもん、今度脚と爪ばっかり大量に出してやる、本体の部分はあん掛けカニ玉にしようかな、それともカニクリームコロッケに…ふふふふ。



 野望を膨らませつつ解体された黒猪を受け取る頃にはカウンターにバネッサの姿は無かった、もしかしたら酒場から漂う赤鎧の香りに我慢出来なくなって早退したのかもしれない。



「はぁ…、やっと気ぃ抜いて眠れるぜ」



 家に到着して靴を脱ぎながらホセが呟いた、ホセは皆が目を覚ます朝はともかく、夜中の眠りは凄く浅いらしい。

 自分の縄張りであるこの家の中以外では一晩中ぐっすり眠る事は無いせいで朝寝惚ける事が多いと本人が言い訳していた、私の胸を触った後日に。



「すぐにひと眠りする? 夕食が早かったし、簡単な夜食作っておくつもりだけど。とりあえず皆綺麗にしとこうか『洗浄ウォッシュ』」



「おぅ、助かる。ありがとな」



「アイルのお陰で風呂は省略出来た事だし、俺はちょっと飲み足りないからリビングで飲もうかな」



「「賛成!」あたし楽な格好に着替えてこよっと」



 リカルドに便乗してエリアスとビビアナも飲む様だ、清酒飲むなら魚を焼けばいいけど、ウィスキー系ならサラミとか肉かなぁ。

 全員一旦部屋に戻ってホセ以外は楽な格好でリビングに下りて来た、私はそのまま厨房に籠って夜食とついでにおつまみの準備。



 魔導具の冷蔵庫もあるから各自氷やマイグラスを準備してリビングのパーティ共有のアルコールコレクションから好きなお酒を選んで飲み始めた。

 食後だし、とりあえずのおつまみにミックスナッツに岩塩掛けて出しておいたので暫くはもつだろう。



 さて、何を作ろうか…、考えてる時間が勿体ないので、とりあえず寸胴鍋に押し込んだ2体の赤鎧を茹でながら考える。

 ちなみにこれは今日食べ損ねた脚を食べようとかそういうつもりじゃない、1本しか食べるつもりは無いし。



「ハッ、本体の身を使って贅沢カニ茶碗蒸しとか最高じゃない…!? あ、でもだし汁冷ます時間が掛かるから作るのは明日かな。でも口がカニを求めてる状態になっちゃったし…、よし! カニ玉あんかけ豆腐にしよう、飲んだ後のシメにも丁度良さそうだし」



 豆腐をストレージから出して冷蔵庫で冷やしておく、そうすれば温かいのと冷たいの同時に楽しめるもんね。

 茹で上がった赤鎧を取り出し粗熱を取って解体、ストレージから鶏がらスープを出して鍋で温めつつ、ビビアナが頑張ってくれたおろし生姜を少々、醤油と塩で味を整えて解し身を加えたら水溶き片栗粉を入れてとろみをつけ、クルクル混ぜて水流が消えない内に溶き卵を少しずつ流し入れる。



 よし、これで食べる時に豆腐に掛ければ良いだけだ、でもやっぱりカニの華は脚を豪快に食べるやつだよねぇ、むぐむぐ美味しい。

 脚を2本だけ食べて残りはストレージに収納し、脚の殻はゴミ箱の底にそっと沈めてその上から甲羅を捨てた。



 よし、証拠隠滅は完璧だ、ちょっぴり罪悪感を抱いた私はその後ちょっと豪華なおつまみを作った。

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