第455話 二日酔いの人達

「ふわぁ…」



 ビビアナとの通信を切って欠伸あくびを漏らす、おっと、寝る前にホセの夜着に洗浄魔法掛けておかないと。



「『洗浄ウォッシュ』…よし」



 服と下着を畳んでサイドテーブルに置き、自分もベッドに潜り込んだ。

 お酒のせいで鼻が詰まりぎみになっているのか、ホセは鼻をピスピス鳴らしながら寝ている。



「ふふふ、明日になっても私が服を脱がせた事とか覚えてるかなぁ」



 私程では無いが、ホセも飲み過ぎると記憶が怪しい時があるからね。

 ホセを起こさない様に優しく撫でながら目を閉じた。



「うぅ~…」



 翌朝、ホセの唸り声で意識が浮上した。

 あれ? 聞こえてる声って獣化した時じゃなくて人型の時の声じゃない?

 寝惚けていた頭が覚醒してパチッと目を開くと、うつ伏せのまま頭を抱えて唸るホセ。



「お、おはようホセ、大丈夫?」



 伏せられたケモ耳に思わず頭を撫でてしまう。



「大丈夫じゃねぇ…、完全に二日酔いだ。エドガルドの野郎…ぐぅっ。お前が起きたら魔法で治して貰おうと思って起きるの待ってたんだよ」



 ホセは身体を起こしかけたが、うめいて突っ伏したと思ったらすがる様な目で私を見た。

 起こさず待っててくれるなんて…こういう優しいところ見せられたら治さざるを得ないじゃない。



「ふふ、しょうがないなぁ、『解毒デトックス』」



「はぁ…、助かったぜ。ありがとな」



 ホセは嬉しそうに微笑んで私の頭を撫でた、さっきまで二日酔いでグッタリしていたせいか気怠けだるげで妙に色っぽい。

 二人きりというのもあってかドギマギしてしまう。



「じゃ、じゃあ私は脱衣所で着替えて来るからホセも服を着ておいてね」



 挙動不審を悟られぬ様そそくさと脱衣所へと逃走した。

 そういえば昨夜はあの後エドとエンリケはどうしたんだろう、きっとリカルド達が帰って来たのは遅かっただろうからそれまで二人っきりだったよね。



 エドとエンリケの二人だけか…、まったりと頭の良さそうな話をしながら強いお酒を飲んでそうなイメージしか出てこない。

 二人共酒豪だからサロンで朝になるまで潰れてる…なんて事は無いんだろうな。

 そんな事を考えていたら朝食だと呼ばれて皆と食堂へ向かったが、そこにエドの姿は無かった。



「アルトゥロ、エドはまだ寝てるの?」



「はい、昨夜は飲み過ぎたとおっしゃっていましたから二日酔いの様です」



「珍しいね、しょうがない…治しに行ってくるから皆は先に食べてて」



「ご案内します」



「あ、良いよ、部屋の場所は知ってるから。そんな心配そうな顔しなくても弱ってるからっていじめたりしないから大丈夫だって! 代わりに皆のお世話よろしくね」



 私の言葉にアルトゥロの眉がピクリと動いた、安心させる為に言った言葉が逆に不審に思われたのだろうか。

 本当に虐めたりはしないよ、ちょっとだけ揶揄からかうかもしれないけど。

 私は席に着かずに食堂を出た。



 以前行った事のあるエドの私室へと向かう、そういえば私室に入った事はあったけど、その奥にある寝室には入った事無かったな…。

 わたし用の客室みたいなピンクまみれだったら笑う自信しかないけど、どんな部屋かちょっと楽しみ。



 私室に入る前にドアを軽くノックした、…返事が無い。

 二度寝に突入したのかもしれない、だったら寝ている間に治してあげた方が良いかな。

 寝室へと続く扉をそっと開けると見事にモノクロで他の色は部分的に差し色が入っている程度、無駄が無くてスッキリとしたエドらしい部屋だった。



 起こさない様にそっとベッドに近付いた途端腕を引っ張られたかと思うと、ベッドに押し倒され肘を曲げた腕に体重を掛けて首を押さえ付けられた。

 苦しくて声が出ず、息も出来なくてエドの肩をペチペチと叩く。



「アイル!? …ぅぷっ」



 エドは部屋に入って来たのが私だと気付くと慌てて身体を起こして私を解放した。

 そして驚きの声を上げると真っ青な顔で口を手で押さえる、待って待って、そこで吐かれたら私が大変な事に!!



「ヒュ…ッ、ゲホゲホッ、ケホッ、…『解毒デトックス』」



「あ…」



 解放され、息を吸い込むと咽せてしまった、戦争を経験した人が眠っている時に家族に近付かれて傷付けてしまったっていう話を聞いた事があるけど、きっとエドも同じ様なものなのだろう。

 解毒魔法で一気に楽になったらしく、エドは自分の変化に驚いて声を漏らす。



「ケホッ、朝食に来て無かったから治しに来てあげたよ。『治癒ヒール』」



 自分の声がかすれていたので治癒魔法を掛けた、男だったら喉仏が潰されて命の危険だったかもしれない。



「すまないアイル…。大切な君に…こんな事をするなんて…」



 沈痛な表情をするエド、暗殺者時代の自分が出てしまったのが許せないのだろう。

 体重は掛けられて無いが、ベッドに仰向けになった私にまたがっているのでうつむいたエドの表情はよく見える。




 上半身を起こして少し寝癖のついた頭を撫でた。

 本能みたいものだから仕方ないよ、こっそり近付いた私も悪かったんだから気にしないで、そう言おうとしたけどエドはきっと自分を許さないだろう。

 頭を撫でられた事で驚いて顔を上げたエドの額をペチンと叩く。



「未熟者め! 全く、エドもまだまだだね。さ、未熟者はしっかりご飯を食べてもっと精進しなさい。食堂へ行くから退いた退いた!」



 シッシッと手を振ると、エドは一瞬クシャリと泣きそうな顔になり笑った。



「仰せのままに」



 エドはベッドから降りて立ち上がり、執事の様に一礼すると私の手を取って食堂までエスコートした。

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