第6話 冒険者ギルド

「人がいる…」



「そりゃ町だからな、人くらい居るよ」



 私の呟きにリカルドが小さく笑った。

 瞳を潤ませながら門番の列に並んでいると、それ程人がいなかったお陰ですぐに順番がきた。



「おお、『希望エスペランサ』じゃないか、その様子だと討伐は無事終わったみたいだな。…ん? その子供は?」



 子供って言われた…!

 ショックを受けて目と口を開けて固まっていると、リカルドが苦笑いしながら代わりに説明してくれる。



「おいおい、こう見えても15歳の成人した立派なレディなんだ、しかも俺達が助けられた程の実力者だから見た目で判断して痛い目見てもしらないぞ? 迷子らしいんだが身内は居なくて身分証も無いと言うからここまで一緒に来たんだ」



 そう言うリカルドも10歳と間違えてたよね?

 ジト目を向けると頭を撫でられた、イケメンのヨシヨシくらいじゃ誤魔化されないんだからね! 今回だけなんだから!



「はは、そりゃすげぇ、じゃあ成人しているお嬢さんは保証金の銀貨1枚出せるかい?」



「あ、それは俺が払うよ。後で返して貰うけどな」



 流れる様な動作で銀貨を支払うとこちらにウインクひとつ、この仕草が嫌味に見えないのって凄い事だと思う。

 良い人達だとは思うけど、変に貸しを作るのは怖いからちゃんと返しますとも。



「うん、確かに。通っていいぞ、お嬢さんを見つけたのがあんたらで良かったよ。色々大変だろうけど頑張るんだよ」



 門番さんにも頭を撫でられてしまった、何だか労るような視線を向けられた気がして首を捻っていると、今度はビビアナが私の頭を撫でながら言った。



「彼の態度はアイルの目が原因よ、泣き虫さん」



 どうやらさっきの号泣で目が真っ赤になっていたらしい、道理でさっきから目元が熱い気がした訳だ。

 恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でもわかった、両手で顔を隠して呪文を唱える。



「『治癒ヒール』…もう赤くない?」



「「「「………」」」」



 4人は無言になった後、慌てて辺りを見回して目撃者が居ない事を確認するとホッと息を吐いた。

 そしてリカルドが向かい合わせに両肩を掴むとグッと顔を近づける。



「頼むから不用意に人前で魔法を使うのはやめてくれ、この場でアイルの争奪戦が始まってもおかしくないんだからな?」



 そんな大袈裟な、と思ったが、リカルドや他の皆が思いの外真剣な顔をしていたので素直に頷いておいた。



「わかった…。使うならバレない様にする」



「そうしてくれ、とりあえず冒険者ギルドの裏でなら守秘義務もあるから大丈夫だとは思うが…。ギルマスに言ってしっかり口止めをしておいた方がいいな」



 そして冒険者ギルドに入ると一斉に視線が集まった、正確に言うと『希望』のメンバーに。

 どうやら彼らは有名人な様で、あちこちから労いの言葉が掛けられている。



 そして思った事がひとつ、異世界だから顔面偏差値が高いという訳じゃなかった、『希望』のメンバーが異様に美形集団なだけの様だ。

 ギルド内は半分が酒場兼食堂で、もう半分はカウンターに受付嬢が居るというイメージ通りのものだった。



「『希望』の皆様お疲れ様でした、確認しますので討伐部位をお出し下さい」



 カウンターでデキる女オーラが出ている20代後半の紫の髪に茶色の目をした美人さんが言った。



「バネッサ、今回は裏で出していいか? ちょっと訳ありだからギルマスも呼んでくれるとありがたい」



 リカルドが声を潜めてそう言うと、バネッサと呼ばれた受付嬢は頷いてから奥へと向かった。



「じゃあ俺達は先に裏へ回っておこうか」



 慣れた様子で3つ並んだ右端のドアから奥へと入って行くとエプロンをした男性が3人で魔物を解体していた。

 大きな猪みたいな魔物から内臓が取り出されるシーンは結構衝撃的でそっと目を逸らす。



 結局ギルドマスターとバネッサが来た時には私は1人壁と仲良くしていた、視界に入らなくても生々しい音とか臭いはするし、解体場の男性達にも笑われてしまった。



「待たせたな、で? どんな訳ありなんだ?」



「ああ、ちょっと待ってくれ、アイルこっちへ来てくれ」



「はーい」



 呼ばれたのでテテテッと駆け寄ると黄色の短髪にオレンジの目をした40歳くらいのホセより大きいおじさんが居た、どうやらこの人がギルマスの様だ。



「ここへ出してくれ」



 リカルドが指差した台の上に大蜘蛛と腕熊を積み上げて出す。



「「えぇっ!?」」



 ギルマスとバネッサが同時に驚きの声を上げて私と魔物の死骸を見比べている。



「コレが訳ってやつだよ、もちろん守秘義務は徹底してくれるだろう? アイルが狙われて他の領地や国に行ったらどれだけの損失になるやら…」



 そう言ってリカルドはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた、それすらも絵になるとはイケメンってお得。



「聞きたい事があり過ぎる…、俺の部屋に来い。もちろん嬢ちゃんも来てくれるだろ?」



 頭を抱えながら唸るギルマスにそう言われ、チラリとリカルドを見ると頷いたので了承して頷いた。



「バネッサ、コレは全部買い取りで頼むよ、報酬は話が終わってからでいい」



「わかりました」



 バネッサは返事をするとすぐに解体場の男性達に指示を出しに行き、私達はギルマスの部屋へと移動した。

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